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第十二章 幻想と現実の狭間で
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「しかも本人は気絶しているのに?」
愕然とした口調である。これはもう予測の範囲を超えるどころか、神々の幅広い常識の範囲さえ超えた現実だった。
「無意識の領域さ」
「無意識」
「亜樹は別に世界を破壊したいわけじゃない。人を傷つけたいわけでもない。でも、それを無意識にやってしまったとき、亜樹の力は自分のしたことを修繕する。別に他人がやったことでもいいんだけどさ。現実に過去では亜樹が破壊を行ったことは一度もないし、いつも他人の尻拭いをさせられていたお人好しだからな」
この説明を受けて神々はマルスをはじめとして、エルダ神族の長たちですら、平然としていることに気づいた。
つまり見慣れているのだ。
大賢者の秘める力というのは、まったく想像もできない。
そしてそんなに特別な大賢者とその力の影響を受けないマルスの関係も理解不能だった。
「大賢者の力はどうしてマルスだけを傷つけなかった?」
「説明が必要なことだとも思えねえな」
「そういうわけにはいきません、マルス兄上。我々は貴方を連れ戻しにきたのですから」
「レオニス。おまえ、なにを聞いてたんだ? おれは戻らないって言ってるだろうが」
少しは落ち着いてきたのか、先程までの怒りのオーラが消えて、うんざりし顔になる一樹に、レオニスが食い下がった。
「引き下がるわけにはいきません。どうあっても戻っていただかなければっ」
「鬱陶しいな。屋敷へ戻るぞ、エルス」
「しかしいいのかい、一樹?」
「創始の神々を放っておいて」
「図々しい奴らだから絶対ついてくるって。放っておけよ。止めるだけ無駄だ」
諦めきった口調にエルシアたちは戸惑いながらも、一樹の後を追おうとした。
そんな彼らにエルダが声を投げた。
「そなたたちが長の直系か」
戸惑って振り返る三人にエルダは一言だけ謝った。
「すまないことをした。まさか意識をいじったくらいで、あんな事態になるとは思わなかったのだ」
言い訳だと言いたかったのだが、エルシアたちはなにも言わなかった。
さすがに一樹のように遠慮会釈なく物が言える立場ではないので。
「そなたたちはマルスを選ぶのだな」
諦めたような、喜んでいるような、判断に迷う声だった。
戸怒って顔を見合わせた三人だがそこへ一樹の怒鳴り声がした。
「早くこいよ、三人ともっ! 置いてくぞっ! そいつらは放っておけっ!」
「行こうか、兄さん? 亜樹の様子も気になるし」
「そうだね」
挨拶の言葉もなく三人は踵を返したが、さすがに唯我独尊を地でゆく神々。ごく当たりようにこう言った。
「さて。マルスも認めているようだし、追いかけようか?」
どこが認めてるんだと思ったが、言い返すだけ無駄だと判断して、三人は肩を竦め合い屋敷に向かった。
「父上! 母上っ!」
異変に気づきながらも杏樹と翔の安全のため、屋敷内に残っていたアレスは、一樹たちが戻ってくるのと同時に父や母、伯父や伯母までやってきたので仰天してしまった。
アレスの叫びに杏樹と翔は顔を見合わせた。
「アレスの父上と母上ってことは」
「それって神様ってことかい?嘘みたいだ。それより一樹。亜樹はどうしたんだ?」
「ちょっと、な」
苦い口調でそう言っている間も、アレスは嬉しそうで久し振りにみんなに逢えて、心底喜んでいた。
仔犬のように母の元へ振け寄っていく。
「アレス。元気にしていた?」
複雑な気分なのだが我が子に会えて嬉しいという気持ちを打ち消せず、レダが普通に訊ねればアレスは、もっと嬉しそうな顔になった。
極上の笑顔で頷く。
「それよりどうしてみんな揃ってここへ?」
アレスの尤もな疑問にレダが答えに詰まる。
今、マルスのことを打ち明けるのは早いような気がしたから。
尤も事態が進展してしまった以上、アレスひとりに隠すこともできないのだが。
「後で教えてあげるわ」
「はいっ」
まるで幼稚園児が母親に迎えにこられて懐いているような姿である。
一樹と一緒に移動していた翔と杏樹は、不思議そうにそんなアレスを見ていた。
「ああしていると生まれて一年っていうのも信じられる気がするな」
「そうだね。ほんとに子供みたい」
その言葉でふたりに意載を向けた神々は当然のことながら、深刻な顔つきになった。
アレスが気付かないのは経験不足なためで、この場にいる創始の神々なら翔と杏樹の存在がどういうものか、理解するのは容易かったのだ。
変な顔で注目されて戸惑っていると、一樹が振り向いた。
「おい。ふたりとも早くこいよ。そんな奴ら放っておけって」
「でもなんとなく変な感じが」
「翔っ! どうでもいい奴らは放っておいて亜樹の心配しろよ、おまえ」
「どうでもいいっておまえ。創始の神々だろう? この世界だとすごく有名な。それをそういう言い方するか、普通?」
「一樹お兄ちゃんってエルシアさんたちと付き合っていたせいで、感覚が麻痺しちゃったんじゃないの?」
「うるせえな。見捨てるぞ」
「あっ。待ってよ、一樹お兄ちゃんっ!!」
バタバタとふたりが走っていく。一樹の後を追いかけて。
その様子から一樹が、マルスがふたりを庇ったことを、神々は感じ取った。
真実を悟られまいとして、ふたりを連れて行ったのだ。
マルスの意思はわかっている。
あの様子だとついていったら絶対にキレる。
だが、ここでぼんやりしていたのではきた意味がないのだ。
愕然とした口調である。これはもう予測の範囲を超えるどころか、神々の幅広い常識の範囲さえ超えた現実だった。
「無意識の領域さ」
「無意識」
「亜樹は別に世界を破壊したいわけじゃない。人を傷つけたいわけでもない。でも、それを無意識にやってしまったとき、亜樹の力は自分のしたことを修繕する。別に他人がやったことでもいいんだけどさ。現実に過去では亜樹が破壊を行ったことは一度もないし、いつも他人の尻拭いをさせられていたお人好しだからな」
この説明を受けて神々はマルスをはじめとして、エルダ神族の長たちですら、平然としていることに気づいた。
つまり見慣れているのだ。
大賢者の秘める力というのは、まったく想像もできない。
そしてそんなに特別な大賢者とその力の影響を受けないマルスの関係も理解不能だった。
「大賢者の力はどうしてマルスだけを傷つけなかった?」
「説明が必要なことだとも思えねえな」
「そういうわけにはいきません、マルス兄上。我々は貴方を連れ戻しにきたのですから」
「レオニス。おまえ、なにを聞いてたんだ? おれは戻らないって言ってるだろうが」
少しは落ち着いてきたのか、先程までの怒りのオーラが消えて、うんざりし顔になる一樹に、レオニスが食い下がった。
「引き下がるわけにはいきません。どうあっても戻っていただかなければっ」
「鬱陶しいな。屋敷へ戻るぞ、エルス」
「しかしいいのかい、一樹?」
「創始の神々を放っておいて」
「図々しい奴らだから絶対ついてくるって。放っておけよ。止めるだけ無駄だ」
諦めきった口調にエルシアたちは戸惑いながらも、一樹の後を追おうとした。
そんな彼らにエルダが声を投げた。
「そなたたちが長の直系か」
戸惑って振り返る三人にエルダは一言だけ謝った。
「すまないことをした。まさか意識をいじったくらいで、あんな事態になるとは思わなかったのだ」
言い訳だと言いたかったのだが、エルシアたちはなにも言わなかった。
さすがに一樹のように遠慮会釈なく物が言える立場ではないので。
「そなたたちはマルスを選ぶのだな」
諦めたような、喜んでいるような、判断に迷う声だった。
戸怒って顔を見合わせた三人だがそこへ一樹の怒鳴り声がした。
「早くこいよ、三人ともっ! 置いてくぞっ! そいつらは放っておけっ!」
「行こうか、兄さん? 亜樹の様子も気になるし」
「そうだね」
挨拶の言葉もなく三人は踵を返したが、さすがに唯我独尊を地でゆく神々。ごく当たりようにこう言った。
「さて。マルスも認めているようだし、追いかけようか?」
どこが認めてるんだと思ったが、言い返すだけ無駄だと判断して、三人は肩を竦め合い屋敷に向かった。
「父上! 母上っ!」
異変に気づきながらも杏樹と翔の安全のため、屋敷内に残っていたアレスは、一樹たちが戻ってくるのと同時に父や母、伯父や伯母までやってきたので仰天してしまった。
アレスの叫びに杏樹と翔は顔を見合わせた。
「アレスの父上と母上ってことは」
「それって神様ってことかい?嘘みたいだ。それより一樹。亜樹はどうしたんだ?」
「ちょっと、な」
苦い口調でそう言っている間も、アレスは嬉しそうで久し振りにみんなに逢えて、心底喜んでいた。
仔犬のように母の元へ振け寄っていく。
「アレス。元気にしていた?」
複雑な気分なのだが我が子に会えて嬉しいという気持ちを打ち消せず、レダが普通に訊ねればアレスは、もっと嬉しそうな顔になった。
極上の笑顔で頷く。
「それよりどうしてみんな揃ってここへ?」
アレスの尤もな疑問にレダが答えに詰まる。
今、マルスのことを打ち明けるのは早いような気がしたから。
尤も事態が進展してしまった以上、アレスひとりに隠すこともできないのだが。
「後で教えてあげるわ」
「はいっ」
まるで幼稚園児が母親に迎えにこられて懐いているような姿である。
一樹と一緒に移動していた翔と杏樹は、不思議そうにそんなアレスを見ていた。
「ああしていると生まれて一年っていうのも信じられる気がするな」
「そうだね。ほんとに子供みたい」
その言葉でふたりに意載を向けた神々は当然のことながら、深刻な顔つきになった。
アレスが気付かないのは経験不足なためで、この場にいる創始の神々なら翔と杏樹の存在がどういうものか、理解するのは容易かったのだ。
変な顔で注目されて戸惑っていると、一樹が振り向いた。
「おい。ふたりとも早くこいよ。そんな奴ら放っておけって」
「でもなんとなく変な感じが」
「翔っ! どうでもいい奴らは放っておいて亜樹の心配しろよ、おまえ」
「どうでもいいっておまえ。創始の神々だろう? この世界だとすごく有名な。それをそういう言い方するか、普通?」
「一樹お兄ちゃんってエルシアさんたちと付き合っていたせいで、感覚が麻痺しちゃったんじゃないの?」
「うるせえな。見捨てるぞ」
「あっ。待ってよ、一樹お兄ちゃんっ!!」
バタバタとふたりが走っていく。一樹の後を追いかけて。
その様子から一樹が、マルスがふたりを庇ったことを、神々は感じ取った。
真実を悟られまいとして、ふたりを連れて行ったのだ。
マルスの意思はわかっている。
あの様子だとついていったら絶対にキレる。
だが、ここでぼんやりしていたのではきた意味がないのだ。
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