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第十二章 幻想と現実の狭間で
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「力を使えないのはオレの心が弱いから、か」
やるせない声で囁きながら、亜樹は屋敷の遅くの森で散策していた。
エルシアたちは一樹と一緒に亜樹の訓練について打ち合わせをしている。
余りにも進展がないので、なにか手段を読じる必要があると判断したからだった。
そのせいでアレスは杏樹や翔と一緒に今頃は部屋で遊んでいるはずだった。
やっぱり生まれてから一年しか経っていないと、まだまだ遊びたい盛りなのか、そういう誘惑には弱かった。
ひとりになりたかったから、ちょうどいいと言えばちょうどいいのだが。
「思考は堂々巡り。オレ本当に森を全焼きせるほどの力を発揮したのか?」
記憶にはない。
だが、アレスとやり合ったときに、亜掛は確かにそれだけの力を発揮したのだと、誰もが口を揃えて言う。
だけど、森はなにも変わっていない。行けるところには全部行った。
呼び出された森だけじゃなく、知っている場所はすべて調べた。
なのにどこも全焼してはいなかった。
どういうことだろう?
なにかおかしい。腑に落ちない。
確かに亜樹には力があるのだるう。
それは無意識に発てきたから、それを目の当たりにしてきたから、威力も自覚しているし制街できないことも自覚している。
あの水柱に飲まれながら助かったということは、みんなが言っているように、亜様が水を蒸発させたということ。
でも、、だったら何故森に異常がない?
わからない。
「オレ、なにか重要なことを知らないんじゃないか? よくわからないけど、そんな気がする。なにか隠されてる。そんな気がして仕方ない」
イラッとして唇を噛んだ。
「あら。あなただけなの? お久しぶりね」
突然、快活な声がして振り向けば、炎の精霊が立っていた。
確かレダの元に帰っていたはずじゃあ?
「マル、一樹さまは?」
「一樹ならエルシアたちと屋敷で話し合いをしてるけど」
「そうなの。まあちょうどいいかもしれないわね。あの方がいるとあなたとご兄弟を引き合わせないでしょうから」
「一樹の兄弟って翔となら小さい頃から逢ってるけど?」
首を傾げてそう言えば精霊はすこし憐れむような顔をした。
「仮の兄弟のことではないわ。あの方の本当のご兄弟のことよ」
「?」
眉をひそめた瞬間、精霊の背後に大勢の人の姿を見た。
総勢、五人。
物凄い美男美女だが、なんかみんな特徴的すぎて形容のしようがない。
ある特定の要素をイメージして人の形にすればこうなる。
そんな印象を与える人々だっ
た。
一目ではっきりと名前を訊かなくても、わかるような気がする人がいたけど、まさと思う。
創始の神々が亜樹の前に現れるなんて。
その楽観的な予想はことごとく打ち破られた。
「わたしはエルダ」
「私ははレオニス」
「わたしはラフィン」
「わたしがシャナ」
「わたしはレダよ」
見事に揃っている。絶句する以外、どんな反応を見せろと?
「この子があの方が守護されている問題のアキという子です」
なんだか凄くまずい事態になっている気がする。
あの方というのは一樹のことだろうか? 確かに一樹はなにかあったら亜樹を護ってくれるし彼も亜樹を護るのが役目だなどと、自らと言ってくれるが。
しかしそれが創始の神々とどう繋がるんだ?
「どうやら本人には自覚も記憶もないらしいな」
「エルダさま。あの方の説明ではまだ覚醒前だとか。おそらく本人は今の事態を理解することもできていないはずですわ」
「なるほど」
やっぱりあの銀髪の人が風神エルダ。
アレスが言ったように、どことなくリオネスに似ている。
「言ってわかるのかどうか知らないが、もうそろそろマルスを返してくれないか?」
「? マルス? 誰それ?」
神々だとわかっていたけど、アレスで耐性ができていたのか、エルシアたちの印象が強烈すぎたのか、敬意を払うつもりにはなれなかった。
対等な口を利いたことで、エルダはちょっと驚いたような顔をした。
「マルスはわたしたちの長子。神々を統べる長」
「え。ても、そんなすごい人。っていうか神様、オレは知らないけど? 返せって言われても」
「いいえ。あなたはよく知っているわ、アキ」
「知らないって。誰のことを言ってるのかもわからないのに」
ムッとして精霊に言い返すと、赤毛の美女が割り込んできた。
「あなたは忘れているだけよ。伝説の大賢者」
「はあ? 神々の長の次ぎは伝説のなんだって? 話が全然見えないんだけど?」
困惑していると不意にエルダが近づいてきた。
後ずさろうととするが、できない。
まるで金縛りにあったみたいに。
声も出ない。
冷や汗が流れたけどこの窮地を誰かに知らせる術がなかった。
「すこし意識を探らせてもらう。そうすれば思い出せるはずだから」
そんなことするなと言いたかったけど、やっぱり声は出なかった。
睨むことすらできない。
まるで動けない。
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