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第十一章 それぞれの代償

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「どうも転生したマルスさまをお育てしたのがエルダ神族の長の三兄弟らしいのですが」

 これ以上どう驚けばいいのかと、エルダの顔にははっきり書いてあった。

 もう感情を読み取ることすら難しい。

「あれはわたしを振り回すためにいるのか? 全く」

 エルダが愚痴るところなど、初めて目した兄弟たちは唖然としていた。

「しかし興味深いと思われませんか、エルダ兄上?」

「ラフィン?」

「話を聞いたのが兄上たちよりも早かったせいかもしれませんが、わたしはもうすこし冷静に考えることができる。それで興味を覚えたわけですが」

「ラフィン。回りくどい言い方はやめてはっきり言ったらどうだい? 君の悪い癖だ」

 同じ水を司る者として、実はラフィンとレオニスは仲が悪い。

 といっても逢えば喧嘩するという程度で深刻に悪いわけではない。

 似ているからぶつかってしまう。

 その程度のことだった。

 いつものように嫌味を言われて、ラフィンはちょっとほっとした。

「調子が出てきたようですね、レオニス兄上。嫌味が言える程度には」

「ラフィン!」

「すみません。ただわたしは非常に興味深いと思ったのですよ。マルス兄上は本来なら世代交代が必要な身の上だった。けれど大賢者に救われることで、なんらかの影響を受けて、神々が受けている制約すら解除して。限界がくればまた転生すればいい。そうすればマルス兄上今度は男か女かわかりませんが、また同じ力を持って産まれてくる。そうして果てることなく輪廻を繰り返せば、水神マルスに後継は必要ない」

 ラフィンの指摘に見逃していた者たちが、はっと息を呑んだ。

「確かに兄上が指摘しているとおり、信仰という源から離れたのなら、我々とは概念が違ってくる。今の兄上は純粋に我々と同じ神ではない。生まれ変わった新しい水神だと、そう思えま
せんか?」

「なるほどな」

 エルダが難しい顔になり他の者も黙り込んでしまった。

「ある意味で信仰とは無縁の水神だとしたら、理想的ですらある。今度は信仰の衰えでカを失うこともない。水神が輪廻を繰め返すことで水は常に満たされる。そういうふうには受け取れませんか?」

「そうだとしたらラフィン兄さま。マルス兄さまを変えた大賢者はいったい?」

「さて? そこがわたしの頭痛の種だね。一体大賢者とは何者か? これも非常に興味深い」

 事実を聞いてから時間が経っていたことで、ラフィンはすこし冷静に考えることができた。

 そのラフィンから告げられた疑問点に、誰も答えを用意できなかったが。

「とりあえずマルスに逢うのが先決のようだ。マルスに直接、逢えばどんなふうに変わっか、それも予測が立てられる。マルスは嫌がるだろうが」

「あの」

「どうしたの、ファラ?」

「いえ。一言だけマルス様から言付かっていたことを、お伝えするのを忘れていたことを思い出しまして」

「なあに? マルス兄さまはなにをおっしゃったの?」

「大賢者の現在の名はアキというらしいのですが、そのアキという人物に関しては、マルス様は一歩も譲らないこと。余計な手出しはするなと伝えておけとそうおっしゃっていました」

「それはわたしたちと全面的に争っても、そのアキという人物を、かつての大賢者を選ぶという意味だね?」

 エルダの問いにファラは頷いた。

「水神マルスとしての力を使って対立してでも譲らない、と」

 この言葉を聞いて怒ったのはレダだった。

 頬がふくれている。

「マルス兄さまの嘘つき」

「レダ」

 ラフィンが呆れたような声を投げている。

「だって考えてもみて? マルス兄さまは散々、ご自分はもう昔の自分ではないと、同じ力はないとおっしゃっていたのよ?それなのにそんな脅しが使えるということは、本当は力を封じられなどいないということよ」

「ああ。そうだね。そういうことになるね」

「逢ったら怒るんだから、わたしは」

 どうやらレダは拗ねているようである。

 こういう我儘は末っ子らしいのだが。

 兄神や姉神はマルスと面識のないレダが、どれほどマルスに憧れていたか知っているので、もう苦笑するしかなかった。

 炎と水がぶつかる。

 これは派手な喧嘩になりそうだ。

 これが誰の意見かは押して知るべし。
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