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第十一章 それぞれの代償

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 それは炎の精霊、ファラが齎した最高神、水神マルスに関する意外な真相のためだった。

 そしてマルスをも従え、変えてしまった大賢者の特異性。

 誰もが声もなかった。

 刻々と時が流れていく中で、証人として同席が許されたファラは、どうにも居心地が悪かった。

 誰も口を開こうとしないのだ。なんだか居たたまれない。
 
 これだけの神に囲まれたことなどなかったし、元々レダ以外の神とは面識もなかったのだ。

 それがいきなりこの修羅場。

 ちょっと神経が持ちそうになかった。

 情報交換をしている間は会話はあった。みなマルスの現状を知りたがった。それだけ気にかけていたのだろう。

 レダに関してもそうだが、普段気にしている素振りを見せないから、すっかり騙されていたが、この様子だとそれぞれ個人でマルスの行方を追っていた節がある。

 それだけ水神マルスという存在が特別だということだろう。

 そのマルスの突然の離反。受ける衝撃は如何ばかりか。しかも一度は亡くなり転生したという奇跡付き。

 神々の胸中を想像してみるが、理解できるはずもなかった。

「今一度確認を取りたいのだが炎の精霊、ファラよ」

「は、はいつ」

 突然、エルダから声をかけられ、ファラは飛び上がりそうになった。

「マルスは帰還の意思はないと言い切ったのだな?」

「はい」

 エルダの姉でもあるはずの存在だが、エルダだけがマルスを呼びすてる。

 それはもしから、エルダの伴侶がマルスだったからではないか?

 いきなり気がついて複雑な気分になった。

「呼び戻すことは不可能に近いか」

「エルダ兄上らしくもない。なにを気弱なことを申されているのです? 今の世界の状態を見てくださいっ! マルス姉上いえ、マルス兄上の欠員はあまりにも痛いっ!」

 怒りを爆発させたのは海神、レオニスだった。

 それも尤もだと思う。

 マルスの不在で一番迷惑を被り、今日まで戻ってくることを信じ頑張ってきたのだから。

 それが突然の裏切り。

 詳せるはすがなかった。

「だが、マルスは一度決めたことは覆さない。我々が出迎えに行ったところで、追い返されるのが関の山だ」

「エルダ兄上っ!」

 立ち上がって怒鳴りつけた後で、レオニスは何度か息を香み込み、思い切ったようにロにした。

「では今打ち明けます。このままでは近い将来、水が」

「レオニス?」

「まさかレオニス兄さま。水が絶えるなんてことは」

 レダの驚愕の声にシャナが答えた。

「事実よ、レダ。その証拠に大地からも水が干上がりつつあるのよ」

「シャナ姉さま」

「これは今まで私とシャナの胸の内に秘めていました。いつかマルス姉上が帰還されるかもしれない。そのときまでなんとか持ちこたえればと」

 レオニスとシャナにとって、水に関することは、とても重要なことだった。

 事実、海もその水位を下げてきているし大地からも、潤いが失われつつあった。

 その流れをせき止めることができる神はただひとり。

 水神マルス。

 その人をおいて他にはいない。

「今こそマルス姉上の、いえ、マルス兄上のお力が必要なのですっ! このままでは世界は、大規模な水不足に襲われることになるっ! 私の力ではもう防きようがないのです」

「レオニス」

 エルダの労るような声にレオニスは感情を爆発させたことを恥じて黙って腰掛けた。

「正直に打ち明ければ湖も、かなりの数が枯渇してきている」

「ラフィン兄さまっ。そんなこと。一言も」

「君に不安を与えたくなかったからね、レダ」

「どうもマルスを交えて話さないことには、みな納得できないようだな」

 エルダの仕方なさそうな声に、全員が強く頷いた。

 直接、マルスと話したい。それはすべての兄弟たちの意思だった。

「炎の精霊。ファラ。今、一度問いかける。マルスは今どこにいる?」

「その」

「なにか躊躇うようなことでもあるのか? 気にせずに打ち明けなさい」

「エルダさまには申し上げにくいことなのですが」

「?」

「マルスさまはエルダ神族の元に」

 このときのエルダの顔は、まさに豆鉄砲を食らった鳩だった。

 呆然としている。

 灯台下暗しはこのことである。

 まさか自分の末裔の元にいたとは、か。

「どう答えればいいのだろうな?」

「エルダ兄上」

 みんな気の毒そうな顔をしている。

 無理もないが。

 レダ以外はマルスが本来ならエルダとなった女神であることは知っていたのだから。

「あれは昔から意表を突く者だったが、どうやらすこしも変わっていないらしい」

 ついには頭を抱えてしまった。

「あの」

「まだなにかあるの、ファラ?」

「もうなにを聞いても驚かないから言ってほしい。マルスがまだなにかやったのだろう?」

 疲れ切った声に答えるのが可哀相になってきたが、逢えばわかってしまうことだからと今のうちに教えておくことにした。
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