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第十一章 それぞれの代償
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「それできみから見てどうだった? マルス兄上はすでに水神としては失格だったかい? それとも伝説そのままの御方だったかい?」
「率直な意見を申し上げてよろしいでしょうか?」
「構わないよ。ここにはわたしたちしかいないからね。直接、マルス兄上と接触した君の意見は重要だ」
「ありがとうございます」
認められてファラは嬉しかったが、感想を口にするのは難しかった。
ある意味で彼は水ものであり、ある意味で正反対でもあったから。
「どういえば伝わるのか迷ってしまいます」
「それほど変わってしまわれていたのかい?」
「いえ。ある意味で伝説そのままの方だとそう思いました。マルスさまはまるで水そのものだと」
「なるほど。どうやら本質は変わってはいないようだ」
考え込む瞳になるラフィンに、ファラは困ったような顔になる。
「水というのは例えるのが難しいものですね」
「面白い意見だね。きみはマルス兄上はご自分の責務を放棄して、自由に生きることを選んだと言いながら、その反面で兄上のことを認めているようだ」
「神々随一の気まぐれ。確かにその通りの御方です。逆らえばどうなるかわからない恐ろしさがありました。たった一言で呪縛され、もう少しで消滅させられるところでしたから」
「いくらマルス兄さまでも、あなたを消滅させたら許さないんだからっ!」
「レダ様」
怒ってくれて嬉しいのだが、それはこれからおそらくレダたちの身の上に降りかかるはずだった。
彼の意思に背くなら。
「どうやら話を総合するとマルス兄上は変わってはおられないということになるようだね」
「そうですね。本質もその力の強さも、なにもお変わりありません。寧ろ変わったのはその御心かと」
「なるほどね」
ため息をつくラフィンの心情が、とてもよく理解できる。
「大賢者の転生についてはどうだい?」
「そちらに関しては全くの未知数かと」
ここまで言ってから初めてファラは亜樹に関する秘密を打ち明けた。
一樹から聞いた情報をすべて提示し終えたわけである。
さすがにラフィンもレダも難しい顔になっていた。
「頭が痛いね。どうもわたしたちの手に負える問題ではなさそうだ。大賢者が今もそこまでの謎を秘めていて、しかも現在も世界滅亡の鍵を握っているとなると、兄上の意思に迂闊に逆らえないしね。逆らったらどんなことになるやら」
「でも、現状でマルス兄さまの離反は認められないわ。ラフィン兄さまだって、そのためにどれほど苦労してきたことか」
「わたしやレオニス兄上の力が及ばないだけのことだよ。まあ確かに今の状態で、兄上が抜けるのは痛いけれど。困ったね。兄上は頑固な方だから一度決めたことは覆さないだろうし」
本当に困ったと言いたげな顔だった。
直接、一樹とやり合ったファラにはよくわかるのだが。
あれが本当の水掛け論だ。なにを言っても聞いてもくれないのだから。
「わたしたちだけで話し合っていても仕方がない。エルダ兄上のところへ行こう」
「ラフィン兄さま」
「勿論シャナもレオニス兄上も招いて。これは親族会議に持ち出したほうがよさそうだ。判断を間違えば兄上を失うだけでなく、下手をしたら世界も道連れになる」
「ファラわたしたちはこのまま兄さまの空中神殿に移動するわ。あなたはシャナ姉さまやレオニス兄さまに連絡を取って。空中神殿で待っているわ」
「承知いたしました」
答えてふっとファラの姿が消える。
精霊としての全力を注いでも、すぐにすべての神々を集める覚悟だった。
「もし」
「レダ?」
移動しかけて立ち止まった妻を振り向いて、ラフィンが気掛かりそうな視線を投げる。
マルスに関しては彼女に隠してきたから、尚更心が痛かった。
「もしわたしたちがお迎えに出向いても、マルス兄さまのお心が変わらなかったら」
「そのことは今考えてもはじまらないよ、レダ。弱気になるなんてきみらしくもない」
答える言葉が浮かばなくて、レダは差し出された夫の手を取った。
中央の王座に腰掛けているのは風神エルダ。
それはエルダ神族を思わせる銀髪、銀瞳の青年だった。
とても遥かなる昔から生きている青年には見えない。
エルダ神族と違うのは、その両耳にピアスがないことだけ。
面影はアレスが指摘しただけあって、三男のリオネスとどこか似通っている。受ける印象のようなものが。
だが、その美貌ははっきりと翳っていた。
真正面に位置するのは海神、レオニス。
こちらは真っ青な髪と同じ色の瞳が印象的である。
エルダと比較しても遜色のない美男だがその美貌もまた暗い翳りを落としていた。
右側の席には湖の神、ラフィン。
その正面にふたりの女神が腰掛けていた。
これが親族会議を開くときの指定席である。
大地の女神、シャナは唯一黒髪だった。睡は緑。大地をイメージしたような美女である。
世界一とも誇れる美男美女の集団だが、誰の顔色も優れなかった。
「率直な意見を申し上げてよろしいでしょうか?」
「構わないよ。ここにはわたしたちしかいないからね。直接、マルス兄上と接触した君の意見は重要だ」
「ありがとうございます」
認められてファラは嬉しかったが、感想を口にするのは難しかった。
ある意味で彼は水ものであり、ある意味で正反対でもあったから。
「どういえば伝わるのか迷ってしまいます」
「それほど変わってしまわれていたのかい?」
「いえ。ある意味で伝説そのままの方だとそう思いました。マルスさまはまるで水そのものだと」
「なるほど。どうやら本質は変わってはいないようだ」
考え込む瞳になるラフィンに、ファラは困ったような顔になる。
「水というのは例えるのが難しいものですね」
「面白い意見だね。きみはマルス兄上はご自分の責務を放棄して、自由に生きることを選んだと言いながら、その反面で兄上のことを認めているようだ」
「神々随一の気まぐれ。確かにその通りの御方です。逆らえばどうなるかわからない恐ろしさがありました。たった一言で呪縛され、もう少しで消滅させられるところでしたから」
「いくらマルス兄さまでも、あなたを消滅させたら許さないんだからっ!」
「レダ様」
怒ってくれて嬉しいのだが、それはこれからおそらくレダたちの身の上に降りかかるはずだった。
彼の意思に背くなら。
「どうやら話を総合するとマルス兄上は変わってはおられないということになるようだね」
「そうですね。本質もその力の強さも、なにもお変わりありません。寧ろ変わったのはその御心かと」
「なるほどね」
ため息をつくラフィンの心情が、とてもよく理解できる。
「大賢者の転生についてはどうだい?」
「そちらに関しては全くの未知数かと」
ここまで言ってから初めてファラは亜樹に関する秘密を打ち明けた。
一樹から聞いた情報をすべて提示し終えたわけである。
さすがにラフィンもレダも難しい顔になっていた。
「頭が痛いね。どうもわたしたちの手に負える問題ではなさそうだ。大賢者が今もそこまでの謎を秘めていて、しかも現在も世界滅亡の鍵を握っているとなると、兄上の意思に迂闊に逆らえないしね。逆らったらどんなことになるやら」
「でも、現状でマルス兄さまの離反は認められないわ。ラフィン兄さまだって、そのためにどれほど苦労してきたことか」
「わたしやレオニス兄上の力が及ばないだけのことだよ。まあ確かに今の状態で、兄上が抜けるのは痛いけれど。困ったね。兄上は頑固な方だから一度決めたことは覆さないだろうし」
本当に困ったと言いたげな顔だった。
直接、一樹とやり合ったファラにはよくわかるのだが。
あれが本当の水掛け論だ。なにを言っても聞いてもくれないのだから。
「わたしたちだけで話し合っていても仕方がない。エルダ兄上のところへ行こう」
「ラフィン兄さま」
「勿論シャナもレオニス兄上も招いて。これは親族会議に持ち出したほうがよさそうだ。判断を間違えば兄上を失うだけでなく、下手をしたら世界も道連れになる」
「ファラわたしたちはこのまま兄さまの空中神殿に移動するわ。あなたはシャナ姉さまやレオニス兄さまに連絡を取って。空中神殿で待っているわ」
「承知いたしました」
答えてふっとファラの姿が消える。
精霊としての全力を注いでも、すぐにすべての神々を集める覚悟だった。
「もし」
「レダ?」
移動しかけて立ち止まった妻を振り向いて、ラフィンが気掛かりそうな視線を投げる。
マルスに関しては彼女に隠してきたから、尚更心が痛かった。
「もしわたしたちがお迎えに出向いても、マルス兄さまのお心が変わらなかったら」
「そのことは今考えてもはじまらないよ、レダ。弱気になるなんてきみらしくもない」
答える言葉が浮かばなくて、レダは差し出された夫の手を取った。
中央の王座に腰掛けているのは風神エルダ。
それはエルダ神族を思わせる銀髪、銀瞳の青年だった。
とても遥かなる昔から生きている青年には見えない。
エルダ神族と違うのは、その両耳にピアスがないことだけ。
面影はアレスが指摘しただけあって、三男のリオネスとどこか似通っている。受ける印象のようなものが。
だが、その美貌ははっきりと翳っていた。
真正面に位置するのは海神、レオニス。
こちらは真っ青な髪と同じ色の瞳が印象的である。
エルダと比較しても遜色のない美男だがその美貌もまた暗い翳りを落としていた。
右側の席には湖の神、ラフィン。
その正面にふたりの女神が腰掛けていた。
これが親族会議を開くときの指定席である。
大地の女神、シャナは唯一黒髪だった。睡は緑。大地をイメージしたような美女である。
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