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第十一章 それぞれの代償
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やってもやっても成果が出ないのは。
アレスが凄い速度で成長していくから尚更焦る。
「オレってやっぱり才能ないのかも」
座り込んだまま頭を抱えてそう言えば、アレスがきっぱりと断言した。
「それはありえない。亜様はわたしなどより、もっと優れた力がある。自分を信じたほうがい
い」
「アレスにそんなふうに言われるような力なんてないよ、オレには」
「亜掛っ!」
「いやだなあ。なんにもできないのに、こんなことばかり繰り返すのは」
「一度、母上に逢ってみるか?」
「え? 炎の女神、レダに?」
驚いてアレスを見たが、彼はごく真面目な顔をしていた。
「亜樹は炎を使った。それもかなり高度な術を。あれは母上の領域だと思う。逢えばなにかわかるかもしれない」
答えに詰まっていると、それまで黙っていたエルシアが割り込んだ。
「その必要はないよ。これはおそらく亜樹の心の領域だから」
「オレの心?」
「亜樹は誰かを傷つけるのが怖いんだろう? 自分の力で人を傷つけるのが怖い。まして制街できなければ殺してしまうかもしれない。そう思うと自分の力さえ怖い。違うかい?」
なにも言えなかった。
その通りだったから。
「私たちは元々そういう力を持っている種族だし、持っている以上そういうことは必要。まあアレスは例外としてもね。だからこそ、力の制御は大切なんだよ。今の亜樹は自分の力を恐れて現実から眼を背けようとしている。自分の力と真正面から向き合わないから、亜樹の力は発現しない。そういうことだと思うよ、私は」
「エルシアの言っている通りなら、逆に危険なだけじゃないのか?」
「アレス?」
「制御できない力は危険だ。それはわたしにもよくわかる。この間の事件で一樹に言われて自覚した。だかち、自分がどんなに未熟かわかっているつもりだ。わたしだって制御できない力は怖い。自分で招いておきながら、どうにも処理できないわけだから。だが、力があるのは現実。逃げていても始まらない。却って危険なだけだ。だったら真正面から向き合って、どうやったら制御できるか、どうやったら人を傷つけずに済むか、自分で考えたほうがいいんじゃないか?」
アレスの言葉はエルシアにとっても意外だったのか、彼はちょっと驚いたようだった。
「成長したね、アレス。きみからそういう科白が聞ける日がくるとは思わなかったよ」
「わたしが感長したとしたら、それは一樹のおかげだ。あの科白は堪えた」
「まあ真理だったからね」
だからこそ、言われたほうは痛い。
身体ではなく心が。
一樹はそれを知っていて言ったのだろう。でなければさっさと亜樹のほうへ向かっていたはずだ。
天邪鬼だが一樹なりに、未熟なアレスを指導したのだろう。彼は現強と呼ばれた水神なのだから。
「一樹はなにを言ったんだ?」
「どんなに切羽詰まった状況でも、自分の実力を踏まえて力を使え、と。制御できない力を使ったら状況を悪化させるだけだからと。そのくらいの知恵は自分で身に付けろとまで言われたな」
「う~ん。尤もだと思うけど心に痛い言葉だな」
「だが、おかげで目が離めた。自分のなにが悪かったのか。どうして今まで力が制街できなかったのか、それを知ることができた。一樹には感謝しているんだ、わたしなりに」
「ふうん」
亜樹が納得していると、ふと思い出したと言いたげに、エルシアが口を挟んだ。
「そういえば最近よくよくリオンの元へ通っているらしいけれど、もしかしてそのせいで?」
「力が自然と密接している以上、知識は多いほうがいい。そう思ったんだ。これも一樹のおかげだな。知恵は自分で身に付けろ。そう言われたせいで気づいたわけだから」
「元気出せよ。アレスに落ち込まれたら、それ以下のオレの立場がないじゃないか」
「わたしはレダとレオニスの子だが、時々、一樹には負けているような気がする」
「アレス」
「あのとき、一樹がいなかったら、わたしは自分が招いた事態だというのに、なにもできないまま力の制倒もできず呆然としていただろうから。いつものように。彼は何者なんだろう?」
そうして視線が亜樹に向かった。
一樹の話題でどうして自分がこんな眼で見られなくてはいけないのかわからなくて、亜樹は戸惑っていた。
亜樹は自分が炎を操ったことは聞いたが、その後に現場を修復したことは教えられなかったので。
アレスもそれは口止めされていたから、亜横には問わないが、本当は知りたかった。
亜樹が何者なのかが。
はじめは亜樹といるのは苦痛だった。
何故かはわからない。ただ無性に悔しいときがあった。相反する力同士がぶつかり合うような感じで。
でも、あの事件で感想が変わった。
亜樹は外見的にはアレスに似ている。
異世界人だというから、そのせいかもしれないがどこか通じるものがある。
亜樹のことを知りたいと望むこの感情は、いったいどこからくるのだろう。
完璧に亜樹を護り抜く一樹。
彼がすこし羨ましい。今の自分では適わないから。
似合わないため息など漏らすアレスを、亜樹は不思議そうに見上げていた。
アレスが凄い速度で成長していくから尚更焦る。
「オレってやっぱり才能ないのかも」
座り込んだまま頭を抱えてそう言えば、アレスがきっぱりと断言した。
「それはありえない。亜様はわたしなどより、もっと優れた力がある。自分を信じたほうがい
い」
「アレスにそんなふうに言われるような力なんてないよ、オレには」
「亜掛っ!」
「いやだなあ。なんにもできないのに、こんなことばかり繰り返すのは」
「一度、母上に逢ってみるか?」
「え? 炎の女神、レダに?」
驚いてアレスを見たが、彼はごく真面目な顔をしていた。
「亜樹は炎を使った。それもかなり高度な術を。あれは母上の領域だと思う。逢えばなにかわかるかもしれない」
答えに詰まっていると、それまで黙っていたエルシアが割り込んだ。
「その必要はないよ。これはおそらく亜樹の心の領域だから」
「オレの心?」
「亜樹は誰かを傷つけるのが怖いんだろう? 自分の力で人を傷つけるのが怖い。まして制街できなければ殺してしまうかもしれない。そう思うと自分の力さえ怖い。違うかい?」
なにも言えなかった。
その通りだったから。
「私たちは元々そういう力を持っている種族だし、持っている以上そういうことは必要。まあアレスは例外としてもね。だからこそ、力の制御は大切なんだよ。今の亜樹は自分の力を恐れて現実から眼を背けようとしている。自分の力と真正面から向き合わないから、亜樹の力は発現しない。そういうことだと思うよ、私は」
「エルシアの言っている通りなら、逆に危険なだけじゃないのか?」
「アレス?」
「制御できない力は危険だ。それはわたしにもよくわかる。この間の事件で一樹に言われて自覚した。だかち、自分がどんなに未熟かわかっているつもりだ。わたしだって制御できない力は怖い。自分で招いておきながら、どうにも処理できないわけだから。だが、力があるのは現実。逃げていても始まらない。却って危険なだけだ。だったら真正面から向き合って、どうやったら制御できるか、どうやったら人を傷つけずに済むか、自分で考えたほうがいいんじゃないか?」
アレスの言葉はエルシアにとっても意外だったのか、彼はちょっと驚いたようだった。
「成長したね、アレス。きみからそういう科白が聞ける日がくるとは思わなかったよ」
「わたしが感長したとしたら、それは一樹のおかげだ。あの科白は堪えた」
「まあ真理だったからね」
だからこそ、言われたほうは痛い。
身体ではなく心が。
一樹はそれを知っていて言ったのだろう。でなければさっさと亜樹のほうへ向かっていたはずだ。
天邪鬼だが一樹なりに、未熟なアレスを指導したのだろう。彼は現強と呼ばれた水神なのだから。
「一樹はなにを言ったんだ?」
「どんなに切羽詰まった状況でも、自分の実力を踏まえて力を使え、と。制御できない力を使ったら状況を悪化させるだけだからと。そのくらいの知恵は自分で身に付けろとまで言われたな」
「う~ん。尤もだと思うけど心に痛い言葉だな」
「だが、おかげで目が離めた。自分のなにが悪かったのか。どうして今まで力が制街できなかったのか、それを知ることができた。一樹には感謝しているんだ、わたしなりに」
「ふうん」
亜樹が納得していると、ふと思い出したと言いたげに、エルシアが口を挟んだ。
「そういえば最近よくよくリオンの元へ通っているらしいけれど、もしかしてそのせいで?」
「力が自然と密接している以上、知識は多いほうがいい。そう思ったんだ。これも一樹のおかげだな。知恵は自分で身に付けろ。そう言われたせいで気づいたわけだから」
「元気出せよ。アレスに落ち込まれたら、それ以下のオレの立場がないじゃないか」
「わたしはレダとレオニスの子だが、時々、一樹には負けているような気がする」
「アレス」
「あのとき、一樹がいなかったら、わたしは自分が招いた事態だというのに、なにもできないまま力の制倒もできず呆然としていただろうから。いつものように。彼は何者なんだろう?」
そうして視線が亜樹に向かった。
一樹の話題でどうして自分がこんな眼で見られなくてはいけないのかわからなくて、亜樹は戸惑っていた。
亜樹は自分が炎を操ったことは聞いたが、その後に現場を修復したことは教えられなかったので。
アレスもそれは口止めされていたから、亜横には問わないが、本当は知りたかった。
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はじめは亜樹といるのは苦痛だった。
何故かはわからない。ただ無性に悔しいときがあった。相反する力同士がぶつかり合うような感じで。
でも、あの事件で感想が変わった。
亜樹は外見的にはアレスに似ている。
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亜樹のことを知りたいと望むこの感情は、いったいどこからくるのだろう。
完璧に亜樹を護り抜く一樹。
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