弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第十一章 それぞれの代償

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 亜樹の招いた炎はたちまち辺り一面を燃やし尽くしはじめた。それも意思を持って燃え広がっている。

 このままでは大事になるのは明白で、エルシアたちは動こうとしたのだが、このときアレスが予想外の行動に出た。

 地底から一斉に水を流出させたのである。

「やられた」

「どうするの、兄さん?」

「さすがにぼくらにも手の出しようがないよ、この状態」

 青ざめて顔を見合わせる三兄弟である。

 水と炎がせめぎ合い、現場は恐ろしい修羅と化していた。

 これをやっているのが、あの明るくて無邪気な亜樹とアレスのふたりとは、到底信じられない。

 エルシアたちが無事なのは、仮にもエルダの後能なのだから、当然、といったところだろうか。

 が、風では対処不能な事態に為す術もないというのが実情だった。

 このとき、もし一樹が異変に気つき、宮殿から戻ってこなかったらどうなっていたか、エルシアたちにも想像できない。

「なにやってんだよ、これは!」

「「「一樹!」」」

 どんな力を使っているのかは知らないが、空に浮かんだ一樹が、物凄い形相でエルスを睨んでいる。

「亜樹に仕掛けたな、エルス?あれだけやめろって言っただろうが! おれは!」

「抗議なら後で聞くから、この場をなんとかできるかい、一樹っ? 水神であるきみぐらいしかこの場を処理できない!」

 切詰まったエルシアの声など聞くのは、一種も初めてなのだが、そんなことに意識を向けている場合ではなかった。

「水よ、我が意に従え! 炎を打ち消し地に返れっ!」

 言葉がそのまま命となる。一樹が叫び何色か形容できない関光が迸り、そうして舞台はいきなり静寂を取り戻した。

 残ったのは意識を失い倒れている亜樹。そして制御できない力に翻弄され、それでもなんとか制御しようと頑張ってはいたものの、既に限界を過ぎていたアレスのふたり。

 一樹が地に降り立ったとき、アレスはまだぼんやりとした感じではあったが、意識はあるようだった。

「この大馬野郎がっ! 自分が制御できる限界を考えて力を使えっ!」

 情け容赦ない言葉をぶつけ、アレスの頬を叩くと、彼はいきなり正気に返った。

「あれ、一樹? 何故、頬が痛いんだろう?」

 左頬を押さえ首を傾げる。その様子には悪いことをしたという意識は見受けられない。

「いいか? 一度しか言わない。よく聞けよ?」

 珍しい一樹の命令口調に、アレスは戸惑ったが逆らえない雰囲気だったので、黙って頷いた。

 またなにかしでかしたのだということはわかっていたので。

「どんなに切詰まった状況でも、自分の実力を踏まえて力を使え。制街できない力を使った
ら、状況を悪化させるだけだ。そのくらいの知恵は自分で身につけろ。おれに世話を焼か
せるな」

「一樹が止めてくれたのか?」

 辺り一面凄いことになっていた。焼け野原なうえに水浸し。

 炎は亜樹のせいだが、それはアレスが仕掛けたせいだし、水浸しなのは明らかに目分がやりすぎたから。

 それを一樹はひとりで処理した!

「何者なんだ、一樹は?」

「いずれわかるだろ」

 冷たく言い捨てて一樹は倒れている亜樹のほうへと向かった。

「どうするの、兄さん? 一樹物凄く怒ってるよ?」

「うん。怒りのオーラが見えるよ」

「代表で私が責任をとるから、あまり言わないでほしい」

 囁き合う三兄弟の顔色は、これから一樹が落とすだろう雷の大きさを自覚して、雪のように白かった。

 だが、奇跡はその後に起こった。

「あ」

「嘘」

 驚愕の、声。

 それはあまりにも突然で、そして一瞬で起きた現象。

 焼けただれた大地は豊かな緑を取し、その場はなにも起きなかったかのように、全くいつもどおりの姿に戻っていた。

 気づいた次ぎの瞬間には。

 アレスも初めて見る現象に声がなかった。

 呆然としている。

 そんな四人を放って一樹はまっすぐに屋敷に向かって歩きだした。

 腕の中に意識を失った亜樹を抱いて。

「一樹?」

「亜樹の力だよ。自分がやったことをおそらく無意識に自覚して修復した。過去では何度もやったことだ。まあそのときの犯人は別にいたけどな」

 問いかけるエルシアの声にそれだけを答えて、一樹の姿は屋敷の中へと消えた。

「亜樹と一樹。あのふたりは何者なんだ?」

 なにも知らされていないアレスは、一樹の言葉の意味が理解できず、驚いてその背中を見ていた。

 その後でエルシアから受けた説明によると、一樹はものすごく怒ったらしい。

 どういう風に怒ったのかは説明してくれなかったが、それ以後、不意打ちを仕掛けてくることはなくなった。

 一樹を怒らせるのは命懸けだね。

 そのとき、エルシアはしみじみとそう言っていた。
 
 どんな怒り方だったのか、ちょっと怖くなったのだが。

 しかしそれだけのことをやったらしいのに、やっぱり亜樹はなんにもできないまま。

 不意打ちがなくなると、力がなくなったのではないかと錯覚するほどだった。

 エルシアたちが根気よく「なくなったわけじゃないよ。発現していないだけだから。だから、自分を信じて」と言ってくれるから、なんとか訓練にも耐えているが正直なところ、辛い。
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