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第十一章 それぞれの代償
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「人の部屋に勝手に入るのは礼儀知らずな真似だよ、アレス」
「ダメなことなのか?」
「そうだよ。例え家族でもダメ。尚且つ人の物を勝手に物色するなんで最低だよ。わかる? その辺のこと」
「いけないことなら悪かった。もうしない。リオネスを訪ねたらいなかったから。部屋に入ってみると見たことのない書物が沢山あって、ちょっと面白そうだなと思って軽い気持ちで。すまない」
「それっていつのこと? どのくらいの本を読んだの?」
「昨日の夕刻。時刻はだいたい一刻くらい、かな? 読んだのは五冊。その辺にあって面白そうな物をいくつか選んで。いけなかった?」
自分より背が高いくせに、子供みたいに訊かれて、リオネスはこれ以上怒れなくなってしまった。
それに言っていることが本当だとしたら凄いことだ。
たったそれだけのことで、確実に知識が増え、大人への道を歩いている。
アレスはやはり特別らしい。
「まあリオンもそう怒らないで。これからはリオンが知識面で教えてやったらどうだい?
どうやらリオンの出番と見たけれど?」
「兄さん厄介事をボクに押しつけようっていう魂胆だね?」
睨むリオネスにエルシアはのほほんと惚けた。
「まさか。リオネスの得意分野だと思ったから指名しただけだよ。私にもアトルにも、リオンほど的確には指導できないからね」
「そうだね。確かに力の制御を覚えるだけが知識じゃない。このままだと知識が追いつかまま、力だけが増幅されてしまいそうだし」
「アトル兄さんまで。わかったよ。やる。それでいいでしょ」
ムッとしているリオネスの頭をふたりの兄が交互に撫でた。
それを見ていたアレスがぽつりと呟いた。
「兄弟というのはいいものだな」
「「「アレス」」」
「すこしリオネスが表ましい」
無理に笑うアレスに今度はリオンが彼の背中を叩いた。
ここにいると教えるような仕種で。
だから、かもしれない。
いつもみたいに旅立つつもりになれないのは。
まあ毎日が楽しいことも関係しているだろうが。
その後で念入りに打ち合わせして、リオネスが不安を抱えているまま、これは実行に移されたのだか、リオネスの悪い予感は見事に的中した。
いつものように亜樹を誘い出した後で、エルシアたちはすこし離れたところから、その様子を眺めていた。
風が邪魔だからとアレスに言われて。
それになにかあったときに、離れていたほうが絶対に冷静に行動に移せるから、とも。
それもそうかと思って従ったわけだが、同時に不安も増していた。
アレスの口調ではなにが起きるかわからない。
それを予感させたから。
彼の気配は読めない。どこかに隠れているのは確かなのだが、全然わからない。
さすがだと唸るところだが、リオネスはさっきから感じている悪い予感が強くなり、おまけに不安にもなってきて傍らの兄を見上げた。
「ねえ、兄さん。やっぱりやめない? なんだか悪い予感がするよ。アレスにはまだ早いと思うな、ボクは」
「残念だね。もう遅い。はじまってしまったよ、リオン」
長兄の言葉に振り返ったリオネスは唖然としてしまった。
だからここからはアレスと亜樹、両者から見た状況である。
「冗談だろぅっ? なんなんだよ、この状況はっ!」
思わず亜樹は悲鳴をあげていた。
近くに湖があるのは知っていた。だから、ここに呼び出したエルシアたちの意図が掴めず、いつもの不意打ちではないのかと亜樹は思っていたのだが状況はまさにそれだった。
湖の水が全部干上がるほどの巨大な水柱。巻き込まれたら一貫の終わり。まさにそんな感じだった。
逃げないととは思うのだが足が動かない。
「うわっ」
水柱が変化する。東洋の竜を思わせる姿に。怖くて動けない。力も発動しない。そんな事態は初めてだった。
逃げないと巻き込まれる。
それはわかっているのに足が動かない。逃げられない。
「苦しぃ」
気づいたときには水柱でできた竜に取り込まれ、首を絞められていた。
息ができない。
口を開くと大量の水が流れ込んでくる。
このまま溺れるのかな? と、どこか冷静な部分でそんなことを思う。
そうして意識はフラックアウトした。
水を操りながらアレスはちょっと困っていた。
亜樹がまったく反撃しないという事態は想定していなかった。
どうすればいいのだろう?
そろそろやめないと殺してしまうし。
「あれ?」
水柱のなかでユラユラと立ちのぼる陽炎。あれは。
「炎っ!」
唖然とした。
一瞬ですべての水が蒸発したのだから。全身に交を巻き付けた亜樹が、その場に立っている。
水から解放されたのに火が消えていない?
それに亜様の服も燃えていない。それほど高度な炎
の術?
おそらく自分の回りにだけ結界を張っている。
あれはなんとかしないとこの辺の森はすべて焼失してしまう。
[できる、か? あれだけ高度な炎の術を消すことが、わたしに」
呟きながらアレスは意識を集中させた。地底に眠る水を呼び覚ますために。
エルシアに制御不能な力は使ってはいけないと言われていたことなど、綺麗に記憶から飛んでいた。
ここから先の出来事は、できることならエルシアたちにとって、思い出したくない一面だった。
「ダメなことなのか?」
「そうだよ。例え家族でもダメ。尚且つ人の物を勝手に物色するなんで最低だよ。わかる? その辺のこと」
「いけないことなら悪かった。もうしない。リオネスを訪ねたらいなかったから。部屋に入ってみると見たことのない書物が沢山あって、ちょっと面白そうだなと思って軽い気持ちで。すまない」
「それっていつのこと? どのくらいの本を読んだの?」
「昨日の夕刻。時刻はだいたい一刻くらい、かな? 読んだのは五冊。その辺にあって面白そうな物をいくつか選んで。いけなかった?」
自分より背が高いくせに、子供みたいに訊かれて、リオネスはこれ以上怒れなくなってしまった。
それに言っていることが本当だとしたら凄いことだ。
たったそれだけのことで、確実に知識が増え、大人への道を歩いている。
アレスはやはり特別らしい。
「まあリオンもそう怒らないで。これからはリオンが知識面で教えてやったらどうだい?
どうやらリオンの出番と見たけれど?」
「兄さん厄介事をボクに押しつけようっていう魂胆だね?」
睨むリオネスにエルシアはのほほんと惚けた。
「まさか。リオネスの得意分野だと思ったから指名しただけだよ。私にもアトルにも、リオンほど的確には指導できないからね」
「そうだね。確かに力の制御を覚えるだけが知識じゃない。このままだと知識が追いつかまま、力だけが増幅されてしまいそうだし」
「アトル兄さんまで。わかったよ。やる。それでいいでしょ」
ムッとしているリオネスの頭をふたりの兄が交互に撫でた。
それを見ていたアレスがぽつりと呟いた。
「兄弟というのはいいものだな」
「「「アレス」」」
「すこしリオネスが表ましい」
無理に笑うアレスに今度はリオンが彼の背中を叩いた。
ここにいると教えるような仕種で。
だから、かもしれない。
いつもみたいに旅立つつもりになれないのは。
まあ毎日が楽しいことも関係しているだろうが。
その後で念入りに打ち合わせして、リオネスが不安を抱えているまま、これは実行に移されたのだか、リオネスの悪い予感は見事に的中した。
いつものように亜樹を誘い出した後で、エルシアたちはすこし離れたところから、その様子を眺めていた。
風が邪魔だからとアレスに言われて。
それになにかあったときに、離れていたほうが絶対に冷静に行動に移せるから、とも。
それもそうかと思って従ったわけだが、同時に不安も増していた。
アレスの口調ではなにが起きるかわからない。
それを予感させたから。
彼の気配は読めない。どこかに隠れているのは確かなのだが、全然わからない。
さすがだと唸るところだが、リオネスはさっきから感じている悪い予感が強くなり、おまけに不安にもなってきて傍らの兄を見上げた。
「ねえ、兄さん。やっぱりやめない? なんだか悪い予感がするよ。アレスにはまだ早いと思うな、ボクは」
「残念だね。もう遅い。はじまってしまったよ、リオン」
長兄の言葉に振り返ったリオネスは唖然としてしまった。
だからここからはアレスと亜樹、両者から見た状況である。
「冗談だろぅっ? なんなんだよ、この状況はっ!」
思わず亜樹は悲鳴をあげていた。
近くに湖があるのは知っていた。だから、ここに呼び出したエルシアたちの意図が掴めず、いつもの不意打ちではないのかと亜樹は思っていたのだが状況はまさにそれだった。
湖の水が全部干上がるほどの巨大な水柱。巻き込まれたら一貫の終わり。まさにそんな感じだった。
逃げないととは思うのだが足が動かない。
「うわっ」
水柱が変化する。東洋の竜を思わせる姿に。怖くて動けない。力も発動しない。そんな事態は初めてだった。
逃げないと巻き込まれる。
それはわかっているのに足が動かない。逃げられない。
「苦しぃ」
気づいたときには水柱でできた竜に取り込まれ、首を絞められていた。
息ができない。
口を開くと大量の水が流れ込んでくる。
このまま溺れるのかな? と、どこか冷静な部分でそんなことを思う。
そうして意識はフラックアウトした。
水を操りながらアレスはちょっと困っていた。
亜樹がまったく反撃しないという事態は想定していなかった。
どうすればいいのだろう?
そろそろやめないと殺してしまうし。
「あれ?」
水柱のなかでユラユラと立ちのぼる陽炎。あれは。
「炎っ!」
唖然とした。
一瞬ですべての水が蒸発したのだから。全身に交を巻き付けた亜樹が、その場に立っている。
水から解放されたのに火が消えていない?
それに亜様の服も燃えていない。それほど高度な炎
の術?
おそらく自分の回りにだけ結界を張っている。
あれはなんとかしないとこの辺の森はすべて焼失してしまう。
[できる、か? あれだけ高度な炎の術を消すことが、わたしに」
呟きながらアレスは意識を集中させた。地底に眠る水を呼び覚ますために。
エルシアに制御不能な力は使ってはいけないと言われていたことなど、綺麗に記憶から飛んでいた。
ここから先の出来事は、できることならエルシアたちにとって、思い出したくない一面だった。
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