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第十一章 それぞれの代償
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気配を全然感じなかったから。
それだけアレスも成長したということである。
好奇心にキラキラと眼をかせたアレスを見て、やばいと思ったらしいが、エルシアたちは素直に頷いた。
隠したら食い下がってくることが、今までの経験からわかっていたからだ。
アレスは産まれたばかりの子供らしく、一度興味を持ったら満足するまでやめないので。
「それ、今度わたしにやらせてくれないか?」
「アレスがするの?」
きょとんと呟いたリオネスに、アレスは気になっていたことを言ってみた。
「だって今まではずっと風でやっているんだろう? 唯一、水を撮れる一樹がやりたがらないと聞いているが」
「そうだけど」
「一樹が操れる力は水だけではないからね。本当なら彼に参加してほしいのだけれど、亜樹に関しては過保護だから」
呆れたようなエルシアの言葉に、アレスは嬉しそうに口を挟んだ。
「だったらわたしにもやらせてほしい」
「アレス。これは遊びじゃないんだから」
「そんなことを言うがアストル。風では進展しないのだろう? 亜樹は力が制御できないからと随分落ち込んでいる。一度、炎や水で試してみる価値はあるんじゃないのか?」
いつのまにそんな知恵をつけてきたのかと、エルシアたちが呆れた瞬間である。
アレスは神々の籠児だけあって、常識では推し量れない成長の仕方をしていた。
それこそ精神的な意味でも。
知らない間に成長している。教えていることを驚くほどの貪欲さで目につけていき、それを自分の実力に変えて。
これは称賛に値することだった。
しかしこちらも制御を覚えたばかりで、強大な力を発動させる際には、未だに制御不能に陥るという条件付きの身だ。
もし亜樹に仕掛けさせて、どちらもが制御不能なため、回避不可能な事態にでもなった亜樹に関しては過保護な一樹になにを言われるか。
大体未だに不意打ちを仕掛けていることだって、一樹には内緒なのだ。
だから、彼はこの場にはいない。
さすがに亜樹が何度も危ない目に遭っていると、我慢の限界を越えたのか一樹は実力行使に訴えた。
最高神、マルスの力でエルシアたちの動きを封じたのである。
亜樹に手を出そうとすると力が使えなくなるように。
これには正直なところ、かなり驚きマルスという神の特異性と、その力の強さを自覚し、そうして二度と亜樹には手を出さないと約束して、力の拘束を解かせたのだが、エルシアがそれを素直に守るわけがない。
それ以降は一樹に隠れて彼のいないところで、亜樹に不意打ちを仕掛けるようになった。
せめて不意をつかれたときだけでも、力の制御ができるようにならないと、亜樹の持つ力はアレス以上に危険だったからだ。
エルシアたちは亜樹に一度目の不意打ちを仕掛けてから、三段階の方法を踏み亜掛を襲っている。
まずは亜樹を攻撃する者。
次に亜樹の力が反撃してきた場合に、周囲(森が多いから木々を守るためだ)を守護する者。
そして最後に亜樹の力の標的となる自分たち二人を護る者。
綺麗に役割分担をした上で襲っていた。
何故なら亜樹の力の強さではひとりで防ぎ、更に周囲をその被害から護り、尚且つ自分たちを護るなんて高度なことはできないからだ。
力をなにかひとつに集中していないと簡単に破られる。
亜樹が条件反射で発動させる無意識の力は、それくらい凄かった。
アレス以上に厄介だというのが、不意打ちを仕掛けて以来の、エルシアたちの感想だった。
それは確かに風で攻撃しているせいかも知れないが、アレスを引き合いに出すというのも。
だが、言われてみれば亜樹は風しか使ったことがない。受けた力と同じ性質で返す。
それが亜樹の反撃の仕方だった。
アレスにやらせてみれば亜樹が他の力も使えるのか、それがわかるかもしれない。
そう考えたことが、エルシアたちの敗北だった。
後に亜樹に説明する際に、エルシアがそう言ったのである。
どんなに我儘を言われても、アレスを巻き込むのではなかったと。
この一件で一樹にバレてしまったのだから当然だ。
何故なら。
「あまり強い力は使わないと約束できるかい?」
「兄さんっ?」
顔色を変えたリオネスとは対照的に、アレスは全身で喜んだ。
「いいのか?」
「その代わり制御不能な力は使わないこと。それが条件だよ。
守れるかい、アレス?」
派手に頷くアレスにエルシアは一抹の不安を覚えたが、一応信じることにした。
それが間違いだったのだが。
アレスはまだ自分の感情までコントロールできないのである。
そのことに気づいていなかったのが、エルシアたちの失敗だった。
「ボクは反対だな。なんだか悪い予感がする」
「リオン」
「大丈夫だ。亜樹に怪我をさせたりはしないから。これでわたしも亜樹の役に立てる」
嬉しそうなアレスにリオネスは複雑な顔を向けていた。
「三人とも教える側だから気づかないだろうが、亜樹はかなり本気で落ち込んでいるんだ。不意打ちを受けたときに、自分が返す力が制御不可能なことで」
「そうなのかい?」
不思議そうなエルシアにアレスは子供っぽい表情で頷いた。
彼は時々、子供が大人かわからない顔をする。
「普段の訓練でもかなり気にはしているようだが、不意打ちを受けたときほどではない。
でもやりすぎたと思っているらしくて、かなり自己嫌悪に陥っているようだ」
「自己嫌悪なんて難しい言葉、どこで覚えたの、アレス?」
「リオネスの書斎にあった書物から」
きょとんと答えるアレスにリオネスがムッとしたように注意した。
それだけアレスも成長したということである。
好奇心にキラキラと眼をかせたアレスを見て、やばいと思ったらしいが、エルシアたちは素直に頷いた。
隠したら食い下がってくることが、今までの経験からわかっていたからだ。
アレスは産まれたばかりの子供らしく、一度興味を持ったら満足するまでやめないので。
「それ、今度わたしにやらせてくれないか?」
「アレスがするの?」
きょとんと呟いたリオネスに、アレスは気になっていたことを言ってみた。
「だって今まではずっと風でやっているんだろう? 唯一、水を撮れる一樹がやりたがらないと聞いているが」
「そうだけど」
「一樹が操れる力は水だけではないからね。本当なら彼に参加してほしいのだけれど、亜樹に関しては過保護だから」
呆れたようなエルシアの言葉に、アレスは嬉しそうに口を挟んだ。
「だったらわたしにもやらせてほしい」
「アレス。これは遊びじゃないんだから」
「そんなことを言うがアストル。風では進展しないのだろう? 亜樹は力が制御できないからと随分落ち込んでいる。一度、炎や水で試してみる価値はあるんじゃないのか?」
いつのまにそんな知恵をつけてきたのかと、エルシアたちが呆れた瞬間である。
アレスは神々の籠児だけあって、常識では推し量れない成長の仕方をしていた。
それこそ精神的な意味でも。
知らない間に成長している。教えていることを驚くほどの貪欲さで目につけていき、それを自分の実力に変えて。
これは称賛に値することだった。
しかしこちらも制御を覚えたばかりで、強大な力を発動させる際には、未だに制御不能に陥るという条件付きの身だ。
もし亜樹に仕掛けさせて、どちらもが制御不能なため、回避不可能な事態にでもなった亜樹に関しては過保護な一樹になにを言われるか。
大体未だに不意打ちを仕掛けていることだって、一樹には内緒なのだ。
だから、彼はこの場にはいない。
さすがに亜樹が何度も危ない目に遭っていると、我慢の限界を越えたのか一樹は実力行使に訴えた。
最高神、マルスの力でエルシアたちの動きを封じたのである。
亜樹に手を出そうとすると力が使えなくなるように。
これには正直なところ、かなり驚きマルスという神の特異性と、その力の強さを自覚し、そうして二度と亜樹には手を出さないと約束して、力の拘束を解かせたのだが、エルシアがそれを素直に守るわけがない。
それ以降は一樹に隠れて彼のいないところで、亜樹に不意打ちを仕掛けるようになった。
せめて不意をつかれたときだけでも、力の制御ができるようにならないと、亜樹の持つ力はアレス以上に危険だったからだ。
エルシアたちは亜樹に一度目の不意打ちを仕掛けてから、三段階の方法を踏み亜掛を襲っている。
まずは亜樹を攻撃する者。
次に亜樹の力が反撃してきた場合に、周囲(森が多いから木々を守るためだ)を守護する者。
そして最後に亜樹の力の標的となる自分たち二人を護る者。
綺麗に役割分担をした上で襲っていた。
何故なら亜樹の力の強さではひとりで防ぎ、更に周囲をその被害から護り、尚且つ自分たちを護るなんて高度なことはできないからだ。
力をなにかひとつに集中していないと簡単に破られる。
亜樹が条件反射で発動させる無意識の力は、それくらい凄かった。
アレス以上に厄介だというのが、不意打ちを仕掛けて以来の、エルシアたちの感想だった。
それは確かに風で攻撃しているせいかも知れないが、アレスを引き合いに出すというのも。
だが、言われてみれば亜樹は風しか使ったことがない。受けた力と同じ性質で返す。
それが亜樹の反撃の仕方だった。
アレスにやらせてみれば亜樹が他の力も使えるのか、それがわかるかもしれない。
そう考えたことが、エルシアたちの敗北だった。
後に亜樹に説明する際に、エルシアがそう言ったのである。
どんなに我儘を言われても、アレスを巻き込むのではなかったと。
この一件で一樹にバレてしまったのだから当然だ。
何故なら。
「あまり強い力は使わないと約束できるかい?」
「兄さんっ?」
顔色を変えたリオネスとは対照的に、アレスは全身で喜んだ。
「いいのか?」
「その代わり制御不能な力は使わないこと。それが条件だよ。
守れるかい、アレス?」
派手に頷くアレスにエルシアは一抹の不安を覚えたが、一応信じることにした。
それが間違いだったのだが。
アレスはまだ自分の感情までコントロールできないのである。
そのことに気づいていなかったのが、エルシアたちの失敗だった。
「ボクは反対だな。なんだか悪い予感がする」
「リオン」
「大丈夫だ。亜樹に怪我をさせたりはしないから。これでわたしも亜樹の役に立てる」
嬉しそうなアレスにリオネスは複雑な顔を向けていた。
「三人とも教える側だから気づかないだろうが、亜樹はかなり本気で落ち込んでいるんだ。不意打ちを受けたときに、自分が返す力が制御不可能なことで」
「そうなのかい?」
不思議そうなエルシアにアレスは子供っぽい表情で頷いた。
彼は時々、子供が大人かわからない顔をする。
「普段の訓練でもかなり気にはしているようだが、不意打ちを受けたときほどではない。
でもやりすぎたと思っているらしくて、かなり自己嫌悪に陥っているようだ」
「自己嫌悪なんて難しい言葉、どこで覚えたの、アレス?」
「リオネスの書斎にあった書物から」
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