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第十一章 それぞれの代償
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「ふう。もうダメ。ちょっと休憩」
そう言ってその場に座り込んだ亜樹に、近くにいたアレスがおかしそうに笑った。
「亜樹は体力がないな。それで本当に男なのか?」
「いやな言い方するなよ。オレだって気にしてるんだから。性別についてはノーコメント」
「の一こめんととはなんだ?」
「簡単に言うとなにを言われようと訊かれようと、こちらからはなにも言わないようって意味」
クスクス笑う亜樹にアレスは憮然としている。
「しかしエベレストより高いって一樹に聞いたけど、エルダ山の頂上付近って空気が導いんだなあ。慣れるまでちょっと辛いぞ、これは。高山病に気をつけないと」
とにかく呼吸するだけでも辛い。その上に使ったこともない力を引き出すための訓練をしているのだから、亜樹の体力の消耗はかなり激しかった。
ここはエルシアたちの屋敷から、ちょっと離れた森林である。
力の訓練に使われる場所だ。
亜樹の傍にはアレスとエルシアがいる。
アレスは同じように訓練を受けているが、その上達振りは凄まじく、エルシアでさえ「もうすぐ教えることがなくなりそうだね」と呆れながら言っていた。
これだけ物覚えがいいのなら、レダの元にいた半年の間に、母神に習っていたこのに、とは、亜樹の意見だった。
言われたアレスは「母上からは知識を与えられた。だから、今エルシアたちがなにを求めているかわかるんだ。そういう意味だと無駄ではなかった。違うか?」ということだったが。
言われたことはなんでも素直にに吸収する。
それがアレスの最大の長所だった。
それに引き換え画間は亜樹は。
「うん? アレスと違ってオレはダメな奴だなあと思って。なにしろ葉っぱひとつ動かせないんだから」
「だが、とっさのときには恐ろしい力を発揮しているぞ? あれでなぜ普段使えないのか不思議だ」
「うん。オレも」
確かに不意打ちを受けたときとか、とっさのときは手に力が迸る。
それは亜樹にも制御不能なことだった。
まあできるという確信さえなかったのだから、初めてそれを自覚したときの驚きは、言葉にはできないものがあったが。
切っ掛けはエルシアの悪巧みだった。
エルダ山にきて一週間。
考えられるかぎりで最高の方法で教えていると、エルシアたち豪語しているにも関わらず亜様の力は発現しなかった。
それどころか、どれほど言われても念じても、なんにもできない。時間だけが無情に流れていく。
それでも精神は集中させているから、亜樹の消耗は激しかったのだが、このままでは埒があかないと思ったのか、ある日、エルシアたち三人は相談し合い、亜樹に不打ちを仕掛けた。
巧く亜樹がひとりになるように誘導し、反対して怒っていた一樹を説き伏せ、亜樹を襲ったのである。
これには正直、驚いた。
いきなり真空の所謂カマイタチの大群に襲われたのだから。
切り刻まれるっ!
そう覚悟を決めた瞬間、それは起こった。
亜樹の背後から強風が吹き付け、なにかが割れるような音がして、そうして静減が戻った。
後に残されたのは強風でなぎ倒された大樹の残骸。
唖然とする亜樹の元に一樹が駆けつけてきたのは、その後だったらしいが、自分がやったと
自覚したとき、亜樹は気絶したので覚えていない。
それが切っ掛けとなり一応、力らしきものには目覚めた。
以後、不意打ちを仕掛けられると力が勝手に反するのだ。
防御、ではなく、反撃。
これには何故か一樹を含むエルダ神の三兄弟が、とても驚いていたようだが。
不意打ち仕掛けたときしか発動しない力。それもほとんど暴走だ。制催なんて不能で自分でもどうにもできない。
エルシアたちは不意打ちを仕掛けるとき、それが訓練だからと手を抜かないから、毎日度こそダメかっ! というような恐布に襲われる。
彼らに言わせるとその恐怖が、亜樹の力を発動させているのだろう、ということだったか怖いから、だから、反撃する。
それに対して返す力は自分でも呆れるほどの強さ。
加減したいと思っても全然言うことをきいてくれなくて、正直、落ち込んでいた。
エルシアたちの力は確かに強い。
普通の人間だったら亜樹はもう二十回は死んでいる。
だから、本気で怖いし力も勝手に反撃するんだと思う。
でも、反撃すればいいというものでもない。
ましてや仕掛けられた力の十倍返しなんて幾らなんでもやりすぎだ。
自分でもそう思うのに、力は全然、自分の意思に従ってくれない。
それなのに同時期に訓練を始めたアレスはあっという間に制御を身に付けてつけて、これで落ち込むなど言われても無理だ。
おまけにエルシアたちがなにをしているか知ったアレスまで、ある日、亜樹に不意打ち掛けてきたのだ。
エルシアたちから受けた事情説明では、こういうことだった。
「亜樹の力を制させるために不打ちを仕掛けているというのは本当か、エルシア?」
またまた不意打ちでも仕掛けて、制御を覚えさせようと悪巧みをしていたエルシアたちは、突然、割り込んできたアレスに驚いたような顔を向けた。
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