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第十章 水神マルス

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「これでも昔は水神を名乗っていたからな。一応わかる」

「じゃあ彼が両方の役目を受け継ぐ場合に、いったいなにが足りないわけだい?」

「エルシアが指摘したんじゃねえか。一族が成立するには伴侶が欠かせないと。それと同じ意味さ」

「それってアレスがどちらの役目を果たすにしても、彼の力を引き出し、また支えられるだけの力と素質を持った伴侶が必要だってこと?」

「リオネス。おれは伴侶を迎える前に神ではなくなったから例外だとしてもな。他の神々はどうだ? それぞれお互いを支え合う者と添い遂げているんじゃないのか?」

「言われてみればそうかも」

 リオネスが納得して呟いて、リーンがそれに答えた。

「確かに大地は海と、炎は同系統の力を持つ湖と結ばれている。伝説によれば、だが。それは必然的なことだった?」

「まあな。エルダの場合は例外、な。おれがいなくなったから」

「ちょっと待ってよ。じゃあ水神マルスって女性だったの?」

 唖然としたリオネスの声に、一樹はちょっと照れながら指摘した。

「おれがいつ昔も男だったって言った?」

「それは言ってないけど」

「転生するときに性別が変わる。それは常識的なことだろ?」

 言われても納得できない面々である。

 今の一樹を見慣れた4人には、一樹イコール水神マルスなのでそのマルスが、実は女神だったと言われても実感が沸かない。

「それはわたしも存じませんでした。マルスさまの性別については、レダさまも断言なさらなかったし、他の兄神や姉神さまからも伺っていないご様子でしたから」

「レダは末っ子だからな。おれが死ぬすこし前に生まれてるから、あんまり面識はないんだ」

「え?」

「神々が姿を消し世界が危機を迎え、それを救ったおれが死んだわけだから、面識のもちようがないんだ。その頃レダまだ生まれたばかりだからな」

「どうして他の神々はレダさまには、マルスさまのことをお教えしなかったのですか?」

「そりゃあ逢ったこともない、そもそも今では逢うこともできない姉神の話を聞いてもレダは嬉しくないだろ? 逢いたいと思っても逢えないし、話を聞いても自分だけ思い出がないから、他の兄第たちのように思い出話に割り込むこともできない。エルダたちにしてみればレダを思って言わなかったんだと思うよ」

 そう言われても納得できない精霊に一樹は説明を重ねていく。

「とにかく話を元に戻すけどな。アレスが一族を成すにせよ、レダの後を継ぐにせよ、絶対に不自然なのはアレスには、支え合うべき伴侶が居ないって点なんだ。世代交代の際に、どうして力が譲られるのか? どうしてきちんと二組の組み合わせになるのか? それを考えてみてくれよ」

「それは相反する力は支え合うためにあり、アレスのようにひとりで保持するためにあるものではない、という意味かい?」

「そういうことだ。それでもアレスには炎も海も受け継ぐ資格がある。それはマルスとしておれが保証する。あの術を見ていなかったら、おれにも断言はできなかったけど、同時に二種類の力が使える上に、無意識にあれだけの攻撃ができるとなると、おそらくアレスになら、レダとレオニスの後を同時に継ぐことは可能だ」

 しかしそうなるとアレスの伴侶がいないここが、大きな問題となってくる。

 太祖としてマルスが指摘するほどなのだ。

 創始の神々にとっての伴侶というのは、それほご大きな意味合いを持っているのだろう。

「だからきっき一樹はまたアレスのような存在を生みだすつもりかって怒ったの? アレスの伴侶も自分たちで用意するんじゃないかって?」

「まあな。だが、そうなると今度はエルダの後継者であるエルダ神族が問題になってくるんだ」

「私たちが?」

「エルダ神族が正当なエルダの後継者だからだよ。正当な後継者候補が当候補が現在で言っなら、三人も生まれているのに、アレスのような存在が生まれたら、絶対に混乱する。
エルダが消滅する際にエルダの力はまっすぐにエルダ神族へと向かう。そのとき、シャナとのあいだに子供が居たりしたら、絶対に力が暴走する結果を招く」

 ぞっとする例えだった。

 三人のだれが受け継ぐにしても受け継ぐ前に妨害が入るなんて予想外の事態である。

 風神エルダの力が、正当な主を求めて暴走したら、いったいどんな事態になるのか想像するのも怖い。

 風が荒れ狂い世界は崩壊しかねない。

「エルダの司る力は風。一度暴走したらそう簡単には制御できない。だから、おれは焦ったんだけどさ」

「じゃあそれが起こりうることだとして、シャナが自分の後継者を産むにしても、相手がエルダである必要はないんじゃないの? 夫のレオニスであっても」
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