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第十章 水神マルス
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常にその水を司り操るマルスは捉えどころのない捕まえにくい存在。
そんなふうに聞いていた。
同時にこうも言っていた。
川の流れが急に向きを変えないように、水の勢いが凄まじくすべてを押しつぶしていくように、マルスは一度決めたことは覆さない。
気まぐれさと同時に宿すマルスの特徴。
この頑固さ。
この少年は確かに水神マルスの転生者らしい。
神でも転生できるというのは、ある意味意外でもあるが。
それはマルスに関してだけが
ないが、マルスには後継の必要がないことを意味するから。
力が表えれば転生すればいい。
マルスはそうすることで力を永久に保持していける。
ある萬味でマルスの存在の仕方というのは、奇跡的ですらあった。
エルダが聞いたらなんて思うか。
「本当に水そのものですわね、あなたさまは」
「それはどうも」
一樹にとってそれはもうどうでもいい言葉だった。
昔ならそれは最大限の敬意だが。
今のの一樹には意味がない。
大体力の源がすでに信仰からかけ離れているし、一樹は昔のマルスではないのだから。
この精霊はどれだけ否定したら、それをわかってくれるのだろう。
落ち込みそうだ。
「とりあえず水神マルスが人として転生してしまった以上、その六埋めを考えるのは現存する
神々の仕事だね」
そんなふうに割り込んだのはエルシアだ。
どうやら押し問答に疲れたらしい。
一樹も疲れていたので結論を出してくれてほっとした。
本当に炎の精麗というのは昔から頑固で、一度こうと決めたら譲らないから困る。
まあそれも神々に対する忠誠の証ではあるのだが。
「確かに。けれどマルスさまが今も神力を保持されていて、その記憶も持っていらっしゃるのも事実ですわ。あなた方がマルスさまを底われるお気持ちは理解できるつもりです。
どうも今のマルスさまは、あなた方と密接な繋がりを持っていらっしゃるようですから。ですが忘れないでください。現存する神々ではマルスざまの代理はできないのだと」
「レオニスがいる」
「マルスさま。いい加減に認めていただけませんが? レオニスさまは確かに努力されてきま
した。そのおかげで辛うじて今まで耐え忍びました。でも、限界なのです。もう神々は気づいておられますから。自分たちではどう頑張っても、長子であられるマルスさまの代わりはできないと。それがレダしまのお悩みでもありましたから」
どうやら訳得する精霊の方も疲れていたらしい。
うんざりした顔でそう言われて、一樹は憮然と顔を背けるしかなかった。
どう言われようと再び水神を名乗る気はなかったので。
「とりあえずこの問題は脇へ置いておこう。このまま押し問答が続いたら、本題を聞く前に私
たちは眠ってしまうよ」
言外にもううんざりだと言っている。
どちらもどちらの意見のぶつかり合いに、すべての者が疲れていた。
「そうだね、アレスの問題に戻ってくれるかな? ボクももうその押し問答は聞き飽きたよ」
はっきり揉めるなら余所でやってくれと言ったリオネスに、一樹が恨めしそうな顔を向ける。
見捨てるのかと言いたそうである。
「まあぼくらは一樹の味方だからそう捻くれないで。ね?」
ぽんぽんと頭を叩いたのはアストルだった。
とにかく全員でこの問題から離れてくれと意思表示している。
まあ一樹にしてもうんざりしていたので、それはそれでいいのだが。
だが、孤立無援の精霊はちょっとムッとしたようだった。
とにかく全員でこの問題から離れてくれて意用表示している。
一樹も疲れていたので、それはそれでいいのだが。
だが、孤立無機の精霊はちょっと不満そうだ。
「仕方がありませんわね。アレスさまの問題に戻りましょう」
初めからそうすればいいんだと、全員が言いたそうな顔をしていた。
「でどこまでお話ししましたかしら?」
精雲も忘れているらしい。脱線しすぎたというところだろうか。
呆れたリオネスが丁寧に説明した。
「アレスが炎と海の後継者候補であること。それと神族を成し信仰を呼び戻すのが本来の役目
であること。そのためには両方ともなにかが欠けていること。そういった話し合いをしていた
んだけど?」
リオネスの呆れ声に「そうでしたわね」などと頷く精霊に、さっきまで押し問答していた一樹などは、脱力しそうになった。
そこまで熱くならなくてもといった感じである。
まあそれだけマルスの不在に頭を悩ませていたのかもしれないが。
「マルスさまはアレスきまが炎と海の後継者となる場合、なにが足りないとお音えですか?」
「そうだな。極端な話、ふたり分の力と地位を受け継ぐんだ。アレスひとりでは無理だ。常識的に考えればできない話だ。でも、それでもそれを可能にするというのなら、アレスが一族を成すのと同じ欠点が出てくる」
「一樹にはわかってるってこと?」
きょとんとしたリオネスに一樹は皮肉な笑みを投げた。
そんなふうに聞いていた。
同時にこうも言っていた。
川の流れが急に向きを変えないように、水の勢いが凄まじくすべてを押しつぶしていくように、マルスは一度決めたことは覆さない。
気まぐれさと同時に宿すマルスの特徴。
この頑固さ。
この少年は確かに水神マルスの転生者らしい。
神でも転生できるというのは、ある意味意外でもあるが。
それはマルスに関してだけが
ないが、マルスには後継の必要がないことを意味するから。
力が表えれば転生すればいい。
マルスはそうすることで力を永久に保持していける。
ある萬味でマルスの存在の仕方というのは、奇跡的ですらあった。
エルダが聞いたらなんて思うか。
「本当に水そのものですわね、あなたさまは」
「それはどうも」
一樹にとってそれはもうどうでもいい言葉だった。
昔ならそれは最大限の敬意だが。
今のの一樹には意味がない。
大体力の源がすでに信仰からかけ離れているし、一樹は昔のマルスではないのだから。
この精霊はどれだけ否定したら、それをわかってくれるのだろう。
落ち込みそうだ。
「とりあえず水神マルスが人として転生してしまった以上、その六埋めを考えるのは現存する
神々の仕事だね」
そんなふうに割り込んだのはエルシアだ。
どうやら押し問答に疲れたらしい。
一樹も疲れていたので結論を出してくれてほっとした。
本当に炎の精麗というのは昔から頑固で、一度こうと決めたら譲らないから困る。
まあそれも神々に対する忠誠の証ではあるのだが。
「確かに。けれどマルスさまが今も神力を保持されていて、その記憶も持っていらっしゃるのも事実ですわ。あなた方がマルスさまを底われるお気持ちは理解できるつもりです。
どうも今のマルスさまは、あなた方と密接な繋がりを持っていらっしゃるようですから。ですが忘れないでください。現存する神々ではマルスざまの代理はできないのだと」
「レオニスがいる」
「マルスさま。いい加減に認めていただけませんが? レオニスさまは確かに努力されてきま
した。そのおかげで辛うじて今まで耐え忍びました。でも、限界なのです。もう神々は気づいておられますから。自分たちではどう頑張っても、長子であられるマルスさまの代わりはできないと。それがレダしまのお悩みでもありましたから」
どうやら訳得する精霊の方も疲れていたらしい。
うんざりした顔でそう言われて、一樹は憮然と顔を背けるしかなかった。
どう言われようと再び水神を名乗る気はなかったので。
「とりあえずこの問題は脇へ置いておこう。このまま押し問答が続いたら、本題を聞く前に私
たちは眠ってしまうよ」
言外にもううんざりだと言っている。
どちらもどちらの意見のぶつかり合いに、すべての者が疲れていた。
「そうだね、アレスの問題に戻ってくれるかな? ボクももうその押し問答は聞き飽きたよ」
はっきり揉めるなら余所でやってくれと言ったリオネスに、一樹が恨めしそうな顔を向ける。
見捨てるのかと言いたそうである。
「まあぼくらは一樹の味方だからそう捻くれないで。ね?」
ぽんぽんと頭を叩いたのはアストルだった。
とにかく全員でこの問題から離れてくれと意思表示している。
まあ一樹にしてもうんざりしていたので、それはそれでいいのだが。
だが、孤立無援の精霊はちょっとムッとしたようだった。
とにかく全員でこの問題から離れてくれて意用表示している。
一樹も疲れていたので、それはそれでいいのだが。
だが、孤立無機の精霊はちょっと不満そうだ。
「仕方がありませんわね。アレスさまの問題に戻りましょう」
初めからそうすればいいんだと、全員が言いたそうな顔をしていた。
「でどこまでお話ししましたかしら?」
精雲も忘れているらしい。脱線しすぎたというところだろうか。
呆れたリオネスが丁寧に説明した。
「アレスが炎と海の後継者候補であること。それと神族を成し信仰を呼び戻すのが本来の役目
であること。そのためには両方ともなにかが欠けていること。そういった話し合いをしていた
んだけど?」
リオネスの呆れ声に「そうでしたわね」などと頷く精霊に、さっきまで押し問答していた一樹などは、脱力しそうになった。
そこまで熱くならなくてもといった感じである。
まあそれだけマルスの不在に頭を悩ませていたのかもしれないが。
「マルスさまはアレスきまが炎と海の後継者となる場合、なにが足りないとお音えですか?」
「そうだな。極端な話、ふたり分の力と地位を受け継ぐんだ。アレスひとりでは無理だ。常識的に考えればできない話だ。でも、それでもそれを可能にするというのなら、アレスが一族を成すのと同じ欠点が出てくる」
「一樹にはわかってるってこと?」
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