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第十章 水神マルス
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「そうだな。今回の危機を凌いでも、そのためにおれみたいに力を使い果たす結果になったら
個人的な世代交代が必要となってくる。おれの場合は特例だからな。水を司るのはおれひとりじゃなかったし、なによりレオニスがいた。おれの代理を努めることのできる海神が。レオニスが力を使い果たすようなことがあったら、ラフィンでは兄の代わりはできない。力も格も遣いすぎる」
「そのとおりです。ラフィンさまのお力では、水をすべて統べることはできません」
「でも」
小首を傾げながら口を挟んできたリオネスを、ふたりで会話を交わしていた一樹と精霊が振り向いた。
「相反する性質の力である炎と海を、純粋に受け継いだアレスに、レオニスの後が継げるものなの?」
「その場合は特例だろ、たぶん」
「瞬味だね」
「おれだって全部把握してるわけじゃないんだぜ? それにまだそうなると決まったわけじゃ
ない。大体その仮定が成立するためには、まだなにかが足りない。アレスが両方の後継者となるためには、なにか欠けてるんだよ」
「一樹がなにを気に病んでいるのかは、神々の常識に速い私たちにはわからないけれど、ひとつ疑問があるね」
「そうだね。もし仮に世代交代が起きず、レダもレオニスも力を使い果たしたりしなくて、アレスが元々の使命を果たすだけで済んだ場合。新たな神族として地上で信仰を集めるという役目を果たす場合だけどね。要となるのがアレスひとりでは、そもそも一族として成り立たない。
ぼくらは特例としてもアレスは普通に両親を持って生まれてきているし、当然、アレスが一
族を成すためには、彼にも伴侶が必要となってくる。それもアレさが受け継いだ血と力を正当に受け継がせることのできる伴品が。それってちょっと条件が厳しすぎない? でも、それが成立しないと、そもそもアレスの役目は果たせないわけだけど」
神族としての成り立ちについては、エルシアにち以上に詳しい者はいない。彼らは現存する
最後の神族なのだから。
例えそれが他の神族とは出生で意味を違えていても、一族を繁栄させていくという過程にお
いては同じ。
だからこそ、人間と共に生きようと生き残るために努力している。
アレスも必ず同じ問題に行き着くはずだった。
一族を成すのが彼の使命だとしたら。
「もしかしてまだアレスのような存在を生み出す気なのか? 今度はシャナが動くとか」
一樹の不機嫌そうな問いに、精霊は答えに詰まった。
現存する神々で後続者といえる存在がいないのは、後は大地の女神、シャナと湖の、ラフィンのふたり。
この場合、同じ水を操る神として、格が上のレオニスがいるから、かつて力尽きたマルスの
ように、ラフィンが例外だとしても、大地の女神の後継は、絶対に必要だった。
同じ性質の力を司る神が三人もいるというのは、例外中の例外なのである。
強大な力を持たない神々なら、そういったこと心可能だが、マルスや海神レオニス。そして湖の神ラフィンのように重要な位置につく神々が、同系統の力を司っているというのは、本当に特例なのだ。
その証物に彼ら以外の兄菜たちは、みなひとりで己が司る力の均衡を保っている。
弟妹神の立場やそれに従う精霊の立場から言わせてもらうなら、レオニスの後継も必要だが、そもそも水に関するのでは最強を誇り、すべての水を司っていた水神マルスがいれば、残りのふたりの後継は必要ないのである。
まあ極端な例えを言えば、だが。
実際にはラフィンは例外だとしても、レオニスの後継は、例マルスがいようとも不可欠である。
海ははそれほど広大であり、大自然の大半を占めているから。
マルスはただそれらを含めるすべての水を続べているという立場にある。
ある意味。
マルスも特別な神なのである。
それに付随するのが、ただひとりで炎を司る安神、レダ。
そして海と対を成す存在である、大地の女神、シャナ。
水は人間が生きていくために欠かせないものである。
人が生み出した神だから、欠かせないのだ。
それとは違った意味で、大地の女神もまた次かせない存在なのである。
大地の女神が後継を作らず、そのまま力尽きて消減するような羽目になったら、万が一マルスの二の舞になったら、世界は滅んでしまう。
シャナがいるから世界は豊かな自然に恵まれているのだ。
でなければ大地は肥沃を失いんでいく。
作物は育たず森も失われ、世界は破滅へと向かう。
大地の女神は自然と密接しているから。
シャナが司っているのは確かに大地だが、裏返せば大自然なのである。
自然は大地そのものだから。
「確かにアレスさまのご兄弟については、これからも経過や過程を見て決めるとは仰っていましたけれど」
「徹慢もほどほどにしろとレオースにちに言っておけよ。
おれは怒ってるんだぞ。それこそ神の散慢だ。エルダのように力を譲ることで、後継者となるべく一族を作るならまだしも作為的に生み出すなんで最悪だ」
「マルスさま」
困ったように名を呼ぶ精霊に、一樹は不機嫌を隠しもせず、プイッと顔を背けた。
個人的な世代交代が必要となってくる。おれの場合は特例だからな。水を司るのはおれひとりじゃなかったし、なによりレオニスがいた。おれの代理を努めることのできる海神が。レオニスが力を使い果たすようなことがあったら、ラフィンでは兄の代わりはできない。力も格も遣いすぎる」
「そのとおりです。ラフィンさまのお力では、水をすべて統べることはできません」
「でも」
小首を傾げながら口を挟んできたリオネスを、ふたりで会話を交わしていた一樹と精霊が振り向いた。
「相反する性質の力である炎と海を、純粋に受け継いだアレスに、レオニスの後が継げるものなの?」
「その場合は特例だろ、たぶん」
「瞬味だね」
「おれだって全部把握してるわけじゃないんだぜ? それにまだそうなると決まったわけじゃ
ない。大体その仮定が成立するためには、まだなにかが足りない。アレスが両方の後継者となるためには、なにか欠けてるんだよ」
「一樹がなにを気に病んでいるのかは、神々の常識に速い私たちにはわからないけれど、ひとつ疑問があるね」
「そうだね。もし仮に世代交代が起きず、レダもレオニスも力を使い果たしたりしなくて、アレスが元々の使命を果たすだけで済んだ場合。新たな神族として地上で信仰を集めるという役目を果たす場合だけどね。要となるのがアレスひとりでは、そもそも一族として成り立たない。
ぼくらは特例としてもアレスは普通に両親を持って生まれてきているし、当然、アレスが一
族を成すためには、彼にも伴侶が必要となってくる。それもアレさが受け継いだ血と力を正当に受け継がせることのできる伴品が。それってちょっと条件が厳しすぎない? でも、それが成立しないと、そもそもアレスの役目は果たせないわけだけど」
神族としての成り立ちについては、エルシアにち以上に詳しい者はいない。彼らは現存する
最後の神族なのだから。
例えそれが他の神族とは出生で意味を違えていても、一族を繁栄させていくという過程にお
いては同じ。
だからこそ、人間と共に生きようと生き残るために努力している。
アレスも必ず同じ問題に行き着くはずだった。
一族を成すのが彼の使命だとしたら。
「もしかしてまだアレスのような存在を生み出す気なのか? 今度はシャナが動くとか」
一樹の不機嫌そうな問いに、精霊は答えに詰まった。
現存する神々で後続者といえる存在がいないのは、後は大地の女神、シャナと湖の、ラフィンのふたり。
この場合、同じ水を操る神として、格が上のレオニスがいるから、かつて力尽きたマルスの
ように、ラフィンが例外だとしても、大地の女神の後継は、絶対に必要だった。
同じ性質の力を司る神が三人もいるというのは、例外中の例外なのである。
強大な力を持たない神々なら、そういったこと心可能だが、マルスや海神レオニス。そして湖の神ラフィンのように重要な位置につく神々が、同系統の力を司っているというのは、本当に特例なのだ。
その証物に彼ら以外の兄菜たちは、みなひとりで己が司る力の均衡を保っている。
弟妹神の立場やそれに従う精霊の立場から言わせてもらうなら、レオニスの後継も必要だが、そもそも水に関するのでは最強を誇り、すべての水を司っていた水神マルスがいれば、残りのふたりの後継は必要ないのである。
まあ極端な例えを言えば、だが。
実際にはラフィンは例外だとしても、レオニスの後継は、例マルスがいようとも不可欠である。
海ははそれほど広大であり、大自然の大半を占めているから。
マルスはただそれらを含めるすべての水を続べているという立場にある。
ある意味。
マルスも特別な神なのである。
それに付随するのが、ただひとりで炎を司る安神、レダ。
そして海と対を成す存在である、大地の女神、シャナ。
水は人間が生きていくために欠かせないものである。
人が生み出した神だから、欠かせないのだ。
それとは違った意味で、大地の女神もまた次かせない存在なのである。
大地の女神が後継を作らず、そのまま力尽きて消減するような羽目になったら、万が一マルスの二の舞になったら、世界は滅んでしまう。
シャナがいるから世界は豊かな自然に恵まれているのだ。
でなければ大地は肥沃を失いんでいく。
作物は育たず森も失われ、世界は破滅へと向かう。
大地の女神は自然と密接しているから。
シャナが司っているのは確かに大地だが、裏返せば大自然なのである。
自然は大地そのものだから。
「確かにアレスさまのご兄弟については、これからも経過や過程を見て決めるとは仰っていましたけれど」
「徹慢もほどほどにしろとレオースにちに言っておけよ。
おれは怒ってるんだぞ。それこそ神の散慢だ。エルダのように力を譲ることで、後継者となるべく一族を作るならまだしも作為的に生み出すなんで最悪だ」
「マルスさま」
困ったように名を呼ぶ精霊に、一樹は不機嫌を隠しもせず、プイッと顔を背けた。
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