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第十章 水神マルス
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「わかっていますわ。アレスさまの存在だけでは世界は救えない。それはレダさまも仰っていました。アレスさまのお力だけではなく、大賢者の転生たるあの方の力、そしエルダさまの後格者であるあなた方の力。マルスさまの力。そして稀な誕生の仕方をしたエルダ神族であるあなたの力。すべてが必要なのです」
それぞれに指摘された面々は苦い表情をしていた。
言っていることは正しい。
だが、実現するためには、まだなにか欠けている気がする。
「少なくともアレスさまの誕生で、人間たちは知るでしょう?創始の神々は伝説などではなく
実在していて、こうして新しいお子様も生み出されていることを。そうすれば人々の信仰は徐々に戻ってくる。違いますか?」
代表的なものとしては直接、両親だと名乗るレダとレオニスの信仰が増すことになると思う。
だが。
「マルスさま。アレスさまは切っ掛けなのです」
「切っ掛け?」
問いかけに頷いて精霊はアレスが誕生することになった経緯について話し始める。
「なにか信仰を復活させる切っ掛けが必要だと気づいた神々は、そのためになにができるか久々に集い協議を重ねました。その結果としてかつての神族をもう一度生み出す必要があると結論が出たのです。神族はそれぞれの神の代理として、人々から信仰を集める。
でも、それには今までのように子供を産み、それを地上に残すだけでは、やがて死に絶えてしまいます。
絶えた神族がそうだったように。では死に絶えない神族を生み出すにはどうすればいいか?
その答えはエルダ神族にある」
「私たちに?」
「ちょっと過剰評価しすぎじゃないのかな?」
「そもそも君の説明が正しければ、ボクらは基本的なところで、絶滅した他の神族とは意味を違えているんでしょ? それって変だよ。ボクらを基準にしたところで、アレスの誕生には結びつかないよ」
戸惑った表情の三人に精霊は微かに笑う。
「マルスさまにならおわかりになるでしょう? かつての神族とアレスさまの選いが。エルダ神族との共通点が」
すべての視線が集まって、一樹は不機嫌そうに答えた。
「確かに滅んだ他の神族は中途半端な力しか受け継いでいなかった。力は神の存在する証。言い換えるとエルダ神族が生き残ったのは、純粋にエルダの力を受け継ぐ種族だったからだ。その証拠にエルダ神族のピアスは、他の神族と違い、純粋にエルダの色を受け継いだ純白。そ
れだけでもはっきりしている。それぞれの神が持っ力を、純粋に受け継ぐことが、神族が生き
残る道だということは」
「つまりなにかい? 私たちの仮定が正しければ、アレスは炎と海の力を純粋に受け継いでいることになる。だから、今までの神族とは存在価値が違うと?」
「そういうことになるな。確かにアレスは歴史に名を残したどの神族とも違う。敢えていうならエルシアたちに近い。いや。レダとレオニスの力を純粋に受け継いだことから、エルシアたち以上か、互角の存在ということになるな」
「予盾しているね、一樹。二大神の力を受け継いだ正当な後継者なら、ぼくらが互角だという
のはありえないんじゃないのかい?」
アストルが苦い表情で指摘してきて、一樹はかぷりを振った。
「アレスではエルシアたちの存在価値を越えられない」
「どうして?」
「リオン。おまえさ、頭がいいんだから、ちょっと考えてみるよ。おまえたちとアレスの違い
を」
「う~んと。もしかしたら純粋に後継者になるためには、二種類の力を受け継ぐのは禁忌だとか?」
「当たり」
にやっと笑った一樹に、リオネスはちょっと複雑な気分だった。
「まあ敢えていうならアレスが後継者になれるとしたら、レダの方かな? だから、レダが育ててたんだろ? 力も格も上のレオニスではなく」
「そうですわ、マルスさま。ご慧眼恐れ入ります」
「やめるよ。そういう話し方は。おれは改まった話し方は好きじゃないんだ」
鬱陶しそうな一樹だが、精霊が従う様子はなかった。
精霊にとって種族は違えども、水神マルスは敬意を表するべき相手なのである。
なに神々の中での最高神。兄弟神たちの長子なのだから。
「もしこのまま世代交代の時が訪れたとしたら、アレスさまはおそらくレダさまの力を受け継がれるはずですわ。何故なら炎を司っているのはレダさまおひとりですから。それを受け継いだなのも、アレスさまおひとり。ただ状況によっては違いが生じるかもしれないと、レダさ
仰っていましたけれど」
それぞれに指摘された面々は苦い表情をしていた。
言っていることは正しい。
だが、実現するためには、まだなにか欠けている気がする。
「少なくともアレスさまの誕生で、人間たちは知るでしょう?創始の神々は伝説などではなく
実在していて、こうして新しいお子様も生み出されていることを。そうすれば人々の信仰は徐々に戻ってくる。違いますか?」
代表的なものとしては直接、両親だと名乗るレダとレオニスの信仰が増すことになると思う。
だが。
「マルスさま。アレスさまは切っ掛けなのです」
「切っ掛け?」
問いかけに頷いて精霊はアレスが誕生することになった経緯について話し始める。
「なにか信仰を復活させる切っ掛けが必要だと気づいた神々は、そのためになにができるか久々に集い協議を重ねました。その結果としてかつての神族をもう一度生み出す必要があると結論が出たのです。神族はそれぞれの神の代理として、人々から信仰を集める。
でも、それには今までのように子供を産み、それを地上に残すだけでは、やがて死に絶えてしまいます。
絶えた神族がそうだったように。では死に絶えない神族を生み出すにはどうすればいいか?
その答えはエルダ神族にある」
「私たちに?」
「ちょっと過剰評価しすぎじゃないのかな?」
「そもそも君の説明が正しければ、ボクらは基本的なところで、絶滅した他の神族とは意味を違えているんでしょ? それって変だよ。ボクらを基準にしたところで、アレスの誕生には結びつかないよ」
戸惑った表情の三人に精霊は微かに笑う。
「マルスさまにならおわかりになるでしょう? かつての神族とアレスさまの選いが。エルダ神族との共通点が」
すべての視線が集まって、一樹は不機嫌そうに答えた。
「確かに滅んだ他の神族は中途半端な力しか受け継いでいなかった。力は神の存在する証。言い換えるとエルダ神族が生き残ったのは、純粋にエルダの力を受け継ぐ種族だったからだ。その証拠にエルダ神族のピアスは、他の神族と違い、純粋にエルダの色を受け継いだ純白。そ
れだけでもはっきりしている。それぞれの神が持っ力を、純粋に受け継ぐことが、神族が生き
残る道だということは」
「つまりなにかい? 私たちの仮定が正しければ、アレスは炎と海の力を純粋に受け継いでいることになる。だから、今までの神族とは存在価値が違うと?」
「そういうことになるな。確かにアレスは歴史に名を残したどの神族とも違う。敢えていうならエルシアたちに近い。いや。レダとレオニスの力を純粋に受け継いだことから、エルシアたち以上か、互角の存在ということになるな」
「予盾しているね、一樹。二大神の力を受け継いだ正当な後継者なら、ぼくらが互角だという
のはありえないんじゃないのかい?」
アストルが苦い表情で指摘してきて、一樹はかぷりを振った。
「アレスではエルシアたちの存在価値を越えられない」
「どうして?」
「リオン。おまえさ、頭がいいんだから、ちょっと考えてみるよ。おまえたちとアレスの違い
を」
「う~んと。もしかしたら純粋に後継者になるためには、二種類の力を受け継ぐのは禁忌だとか?」
「当たり」
にやっと笑った一樹に、リオネスはちょっと複雑な気分だった。
「まあ敢えていうならアレスが後継者になれるとしたら、レダの方かな? だから、レダが育ててたんだろ? 力も格も上のレオニスではなく」
「そうですわ、マルスさま。ご慧眼恐れ入ります」
「やめるよ。そういう話し方は。おれは改まった話し方は好きじゃないんだ」
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「もしこのまま世代交代の時が訪れたとしたら、アレスさまはおそらくレダさまの力を受け継がれるはずですわ。何故なら炎を司っているのはレダさまおひとりですから。それを受け継いだなのも、アレスさまおひとり。ただ状況によっては違いが生じるかもしれないと、レダさ
仰っていましたけれど」
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