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第十章 水神マルス
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神という時別な存在が、人間にとって進化の妨げになるというのは、間違いなく現実なのだ。
「だからこうなったのは必然とも言える。人間たちのためには神々は姿を消すしかなく、神々が直接、手出ししなくなったら、やがて信仰は衰える。人間の信仰によって世界の均衡が保たれているという、この世界のシステムを考えれば、完全な悪循環だよな」
「結局、人間次第ということなんだね」
「神々がいても自分で歩いていくことを、人間がやめなければ、努力することをやめなければ、信仰が衰えることはなかった。そこに信仰を向けるべき神々がいるから。
でも、人間という生き物は、自分を超越した力を持つ者がいた場合、しかもそれが祈ればなんでも叶えてくれる存在だと思っている場合、往々にして生きるための努力もしなくなるし、徐々に無気力になっていく。厄介なものだ」
エルダ神族の長としての意見なのだろう。
リーンは自分たちのことを言われたようで、ちょっと胸が痛かった。
確かにエルシアたちに頼りすぎているという自覚はあったので。
「だから、今はまだ世代交代の時期じゃない。そもそも信仰が衰えていなかったら、エルダたちの力は満ちていたはずだ。少なくとも現状を招いている原因がなければ、世界は最大の繁栄を誇る最盛期だったはずなんだ」
マルスには世代交代の時期が読める。
その必要性が出できたとき、それに最初に気づくのがマルスなのだ。
だから、一樹にはよくわかっていた。
現状を招いているのは一重に信仰を忘れた人間たちのせいで、エルダたちの力が衰えたせいではない、と。
これがエルダたちの力が目に見えて衰え、世代交代の時期がきているのに、後継者がいないとか。
これがそういう理由だったなら、間違いなく神々の責任だっただろうが。
「ということは炎の精霊殿。あなたの言っていることは予盾しているように思うね。アレスが神々の後継者だというのはありえないと、かつての水神マルスが指摘しているよ?」
エルシアが説い眼光を投げてきで、精霊はちょっと怯えたが、すぐに歌然とした態度に戻った。
風神エルダの寵児相手だから、呑まれそうになったのだが、そんな自分を恥じて。
炎の精題は気高いのだから。
「ええ。だから、アレスさまは直接、創始の神々の後を継ぐ後継者ではありません。創始の神々に代わって、人間と接するために生まれた第二の神なのです」
「それってあいつにエルスたちと同じ道を歩かせようってことか?直接、レダとレオニスの血を引いているから、自分たちの代理として地上に送り込むつもりだったって」
一樹の声は否定的な響きを帯びていた。
それではアレスが可哀相だと思ったからだ。
彼の意思はどこにある?
「マルスさまのお怒りもご尤もですけど、他に方法がございますか? 失われた信仰を集める方法が。創始の神々が失われているわけではなく、現在も存在し世界を護っていることを証明する方法が」
「だからって勝手にそんなことを決めるなよ! あいつの意思はどこにある? 大体それだとレダとレオニスに関する信仰しか集まらないし、それを認めさせるまでに、アレスが味わう苦しみや痛みを、気遣ったことがあるのか? いつからそんなに徹慢になったん
エルダたちはっ?」
「ちょっと一樹、落ちついてっ」
リオネスに腕を引っ張られて一樹は渋々、一歩後ろに下がった。
内心ではかっての弟妹神たちに、
かなりの怒りを感じていたのだが。
それこそこ神々の傲慢だと思う。
「アレスさまのことはすべての神々が気にかけておいでですわ。マルスさまがお考えになっているように、無責任な真似をしているわけではないのです。ただ他に方法がなかった。
まだ地上に神族が生き残っていた頃、信仰は力として存在していました。創始の神々に代わり未商たちが信仰を集めていましたから。それを知っていたから、歴史を再現する道を選ぶしかなかった。それだけなのです、マルスさま」
「でも、そのやり方だと一時凌ぎに過ぎないと思うけれどね?」
エルシアの指摘に精霊は素直に頷いた。
「だからこうなったのは必然とも言える。人間たちのためには神々は姿を消すしかなく、神々が直接、手出ししなくなったら、やがて信仰は衰える。人間の信仰によって世界の均衡が保たれているという、この世界のシステムを考えれば、完全な悪循環だよな」
「結局、人間次第ということなんだね」
「神々がいても自分で歩いていくことを、人間がやめなければ、努力することをやめなければ、信仰が衰えることはなかった。そこに信仰を向けるべき神々がいるから。
でも、人間という生き物は、自分を超越した力を持つ者がいた場合、しかもそれが祈ればなんでも叶えてくれる存在だと思っている場合、往々にして生きるための努力もしなくなるし、徐々に無気力になっていく。厄介なものだ」
エルダ神族の長としての意見なのだろう。
リーンは自分たちのことを言われたようで、ちょっと胸が痛かった。
確かにエルシアたちに頼りすぎているという自覚はあったので。
「だから、今はまだ世代交代の時期じゃない。そもそも信仰が衰えていなかったら、エルダたちの力は満ちていたはずだ。少なくとも現状を招いている原因がなければ、世界は最大の繁栄を誇る最盛期だったはずなんだ」
マルスには世代交代の時期が読める。
その必要性が出できたとき、それに最初に気づくのがマルスなのだ。
だから、一樹にはよくわかっていた。
現状を招いているのは一重に信仰を忘れた人間たちのせいで、エルダたちの力が衰えたせいではない、と。
これがエルダたちの力が目に見えて衰え、世代交代の時期がきているのに、後継者がいないとか。
これがそういう理由だったなら、間違いなく神々の責任だっただろうが。
「ということは炎の精霊殿。あなたの言っていることは予盾しているように思うね。アレスが神々の後継者だというのはありえないと、かつての水神マルスが指摘しているよ?」
エルシアが説い眼光を投げてきで、精霊はちょっと怯えたが、すぐに歌然とした態度に戻った。
風神エルダの寵児相手だから、呑まれそうになったのだが、そんな自分を恥じて。
炎の精題は気高いのだから。
「ええ。だから、アレスさまは直接、創始の神々の後を継ぐ後継者ではありません。創始の神々に代わって、人間と接するために生まれた第二の神なのです」
「それってあいつにエルスたちと同じ道を歩かせようってことか?直接、レダとレオニスの血を引いているから、自分たちの代理として地上に送り込むつもりだったって」
一樹の声は否定的な響きを帯びていた。
それではアレスが可哀相だと思ったからだ。
彼の意思はどこにある?
「マルスさまのお怒りもご尤もですけど、他に方法がございますか? 失われた信仰を集める方法が。創始の神々が失われているわけではなく、現在も存在し世界を護っていることを証明する方法が」
「だからって勝手にそんなことを決めるなよ! あいつの意思はどこにある? 大体それだとレダとレオニスに関する信仰しか集まらないし、それを認めさせるまでに、アレスが味わう苦しみや痛みを、気遣ったことがあるのか? いつからそんなに徹慢になったん
エルダたちはっ?」
「ちょっと一樹、落ちついてっ」
リオネスに腕を引っ張られて一樹は渋々、一歩後ろに下がった。
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かなりの怒りを感じていたのだが。
それこそこ神々の傲慢だと思う。
「アレスさまのことはすべての神々が気にかけておいでですわ。マルスさまがお考えになっているように、無責任な真似をしているわけではないのです。ただ他に方法がなかった。
まだ地上に神族が生き残っていた頃、信仰は力として存在していました。創始の神々に代わり未商たちが信仰を集めていましたから。それを知っていたから、歴史を再現する道を選ぶしかなかった。それだけなのです、マルスさま」
「でも、そのやり方だと一時凌ぎに過ぎないと思うけれどね?」
エルシアの指摘に精霊は素直に頷いた。
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