弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

文字の大きさ
上 下
72 / 140
第十章 水神マルス

(13)

しおりを挟む
「もしそれが起きた場合、受け継いだ者はどうなるのかな? ボクらには持って生まれた寿命というものがあるし、エルダの力なんて受け継いで、風を統べる者になったら困るんじゃ」

「世代交代が起きた時点で、エルダ神族の持っ意味が変わる」

「どういうふうに?」

「今は風神エルダの血を受け継ぐその子供の末裔という意味でそう呼ばれてるけど。三人の中の誰か
が、エルダの力を受け継ぎ、あいつの後を継いだら、エルダ神族はそのままエルダの一族、という意味に変する。一族の力もまたエルダの力の一部となる。三人の中の誰かがエルダの後を継いだことで一族の持つ力は形路的に強くなる。神族の存在する意味そのも変わってくるんだ。普通のその他大勢の一族たちの寿命は変わらなくても、エルダの力を継ぐことのできる長の家系の寿命は変わる。特にエルダの後継となった者は、次の世代交代まで死ねなくなる」

 断言する一樹に三人はちょっといやそうな顔になった。

 それが事実なら残りのふたりの寿命も、おそらく当初とは比較にならないくらい伸びるだろう。

 だが、死ねない最後のひとりは、いずれ兄の死を見取ることになる。置いて逝かれることになる。

 死にたいと望んでも、それができない重責を背負うことになる。

 そんなのは嫌だった

 兄弟が死んでも、周囲が変わっても死ねないまま、生きつづけなくてはならないなんて。

「その世代交代って今起きる可能性があるのかい?」

「今ではなくても世界が崩壊の危機を迎えている今、それが必要になる可能性があるとか」

「ないんじゃないか?」

 あっさり言われてちょっとほっとした。

 尤も。

 エルシアたちの寿命は永いので生きているあいだに、本当に世代交代が起きないという保証にはならないのだろうが。

 どういう条件で世代交代が必要になるのかは、結局今の時点ではわかっていないから。

「おれの記憶違いでなければ、まだその時期はきていないはずだ。今は世界が崩壊へと向ているから、エルスたちはそんな疑問を持つんだろうけど、考えてもみるよ。今、世界が崩壊しかけているのは、エルダたちのせいじゃなく、人間のせいなんだ」

「信印の衰えという意味ではそうかもしれないね」

「でも、人間の前から姿を消し、自分から伝説となる道を選んだ創始の神々にも、責任はあるんじゃないの?」

「いるのかどうかもわからない存在を、ずっと信じて祈れというのは、ちょっと無理な気がするね。風神エルダはボクらが存在する分、まだ人々は信じてくれているようだけど」

 三人は地上にいで信仰の失われていく様を目撃してきたからそう思うのだろう。

 だが、この発言にはマルスとして一樹が反論した。

「だったらいつまでも神々が手を引いて、人間を導いたほうがよかったっていうのか?」

 これを言われると黙り込むしかない。

 確かに神々が存在していたとされる頃の人間には、活力というものがない。

 神々に頼り切って自分からはなにもしなかったというのが実情である。

 それは歴史を紐解けばはっきりしていることだった。

 一樹は大きなため息をつき、神々が姿を消すことになった経緯を説明した。

「おれたちだって地上を愛していたさ。人間のことだって好きだった。護っていくことに疑問があったわけじゃない。それを厭っていたわけでもない。でも、ある日気づいたんだ。
 おれたちがいるせいで、人間が殊更無気力であることに。祈ればなんでも叶えてもらえる。そう思い込んでいて、生きていくための知恵を生み出すこともなければ、努力することもなかった。おれたちの存在が、人間の進化の妨げになっていたんだ」

「そう言われてしまうと言い返す言葉がないね」

 ため息などつくエルシアに、こちらもため息で応える一樹だった。

 エルダ神族として生きてきたエルシアたちは、頼るべきものを見いだしたときの人間の身勝手さ、そして無気力さを知っているから、一樹の言い分がよく理解できるのだ。

 創始の神々ほどの影響力はなかったにせよ、神の未商と言われてきたせいで受ける期待も大きかったし、人々が頼ってくるのも、思い返せばキリがないほどあったから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜

𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。 だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。 そこで出逢った簫 完陽という料理人に料理を教えてもらうことに。 そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?! 料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕! ※、のところはご注意を。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

天使様はいつも不機嫌です

白鳩 唯斗
BL
 兎に角口が悪い主人公。

処理中です...