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第十章 水神マルス
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「もしそれが起きた場合、受け継いだ者はどうなるのかな? ボクらには持って生まれた寿命というものがあるし、エルダの力なんて受け継いで、風を統べる者になったら困るんじゃ」
「世代交代が起きた時点で、エルダ神族の持っ意味が変わる」
「どういうふうに?」
「今は風神エルダの血を受け継ぐその子供の末裔という意味でそう呼ばれてるけど。三人の中の誰か
が、エルダの力を受け継ぎ、あいつの後を継いだら、エルダ神族はそのままエルダの一族、という意味に変する。一族の力もまたエルダの力の一部となる。三人の中の誰かがエルダの後を継いだことで一族の持つ力は形路的に強くなる。神族の存在する意味そのも変わってくるんだ。普通のその他大勢の一族たちの寿命は変わらなくても、エルダの力を継ぐことのできる長の家系の寿命は変わる。特にエルダの後継となった者は、次の世代交代まで死ねなくなる」
断言する一樹に三人はちょっといやそうな顔になった。
それが事実なら残りのふたりの寿命も、おそらく当初とは比較にならないくらい伸びるだろう。
だが、死ねない最後のひとりは、いずれ兄の死を見取ることになる。置いて逝かれることになる。
死にたいと望んでも、それができない重責を背負うことになる。
そんなのは嫌だった
兄弟が死んでも、周囲が変わっても死ねないまま、生きつづけなくてはならないなんて。
「その世代交代って今起きる可能性があるのかい?」
「今ではなくても世界が崩壊の危機を迎えている今、それが必要になる可能性があるとか」
「ないんじゃないか?」
あっさり言われてちょっとほっとした。
尤も。
エルシアたちの寿命は永いので生きているあいだに、本当に世代交代が起きないという保証にはならないのだろうが。
どういう条件で世代交代が必要になるのかは、結局今の時点ではわかっていないから。
「おれの記憶違いでなければ、まだその時期はきていないはずだ。今は世界が崩壊へと向ているから、エルスたちはそんな疑問を持つんだろうけど、考えてもみるよ。今、世界が崩壊しかけているのは、エルダたちのせいじゃなく、人間のせいなんだ」
「信印の衰えという意味ではそうかもしれないね」
「でも、人間の前から姿を消し、自分から伝説となる道を選んだ創始の神々にも、責任はあるんじゃないの?」
「いるのかどうかもわからない存在を、ずっと信じて祈れというのは、ちょっと無理な気がするね。風神エルダはボクらが存在する分、まだ人々は信じてくれているようだけど」
三人は地上にいで信仰の失われていく様を目撃してきたからそう思うのだろう。
だが、この発言にはマルスとして一樹が反論した。
「だったらいつまでも神々が手を引いて、人間を導いたほうがよかったっていうのか?」
これを言われると黙り込むしかない。
確かに神々が存在していたとされる頃の人間には、活力というものがない。
神々に頼り切って自分からはなにもしなかったというのが実情である。
それは歴史を紐解けばはっきりしていることだった。
一樹は大きなため息をつき、神々が姿を消すことになった経緯を説明した。
「おれたちだって地上を愛していたさ。人間のことだって好きだった。護っていくことに疑問があったわけじゃない。それを厭っていたわけでもない。でも、ある日気づいたんだ。
おれたちがいるせいで、人間が殊更無気力であることに。祈ればなんでも叶えてもらえる。そう思い込んでいて、生きていくための知恵を生み出すこともなければ、努力することもなかった。おれたちの存在が、人間の進化の妨げになっていたんだ」
「そう言われてしまうと言い返す言葉がないね」
ため息などつくエルシアに、こちらもため息で応える一樹だった。
エルダ神族として生きてきたエルシアたちは、頼るべきものを見いだしたときの人間の身勝手さ、そして無気力さを知っているから、一樹の言い分がよく理解できるのだ。
創始の神々ほどの影響力はなかったにせよ、神の未商と言われてきたせいで受ける期待も大きかったし、人々が頼ってくるのも、思い返せばキリがないほどあったから。
「世代交代が起きた時点で、エルダ神族の持っ意味が変わる」
「どういうふうに?」
「今は風神エルダの血を受け継ぐその子供の末裔という意味でそう呼ばれてるけど。三人の中の誰か
が、エルダの力を受け継ぎ、あいつの後を継いだら、エルダ神族はそのままエルダの一族、という意味に変する。一族の力もまたエルダの力の一部となる。三人の中の誰かがエルダの後を継いだことで一族の持つ力は形路的に強くなる。神族の存在する意味そのも変わってくるんだ。普通のその他大勢の一族たちの寿命は変わらなくても、エルダの力を継ぐことのできる長の家系の寿命は変わる。特にエルダの後継となった者は、次の世代交代まで死ねなくなる」
断言する一樹に三人はちょっといやそうな顔になった。
それが事実なら残りのふたりの寿命も、おそらく当初とは比較にならないくらい伸びるだろう。
だが、死ねない最後のひとりは、いずれ兄の死を見取ることになる。置いて逝かれることになる。
死にたいと望んでも、それができない重責を背負うことになる。
そんなのは嫌だった
兄弟が死んでも、周囲が変わっても死ねないまま、生きつづけなくてはならないなんて。
「その世代交代って今起きる可能性があるのかい?」
「今ではなくても世界が崩壊の危機を迎えている今、それが必要になる可能性があるとか」
「ないんじゃないか?」
あっさり言われてちょっとほっとした。
尤も。
エルシアたちの寿命は永いので生きているあいだに、本当に世代交代が起きないという保証にはならないのだろうが。
どういう条件で世代交代が必要になるのかは、結局今の時点ではわかっていないから。
「おれの記憶違いでなければ、まだその時期はきていないはずだ。今は世界が崩壊へと向ているから、エルスたちはそんな疑問を持つんだろうけど、考えてもみるよ。今、世界が崩壊しかけているのは、エルダたちのせいじゃなく、人間のせいなんだ」
「信印の衰えという意味ではそうかもしれないね」
「でも、人間の前から姿を消し、自分から伝説となる道を選んだ創始の神々にも、責任はあるんじゃないの?」
「いるのかどうかもわからない存在を、ずっと信じて祈れというのは、ちょっと無理な気がするね。風神エルダはボクらが存在する分、まだ人々は信じてくれているようだけど」
三人は地上にいで信仰の失われていく様を目撃してきたからそう思うのだろう。
だが、この発言にはマルスとして一樹が反論した。
「だったらいつまでも神々が手を引いて、人間を導いたほうがよかったっていうのか?」
これを言われると黙り込むしかない。
確かに神々が存在していたとされる頃の人間には、活力というものがない。
神々に頼り切って自分からはなにもしなかったというのが実情である。
それは歴史を紐解けばはっきりしていることだった。
一樹は大きなため息をつき、神々が姿を消すことになった経緯を説明した。
「おれたちだって地上を愛していたさ。人間のことだって好きだった。護っていくことに疑問があったわけじゃない。それを厭っていたわけでもない。でも、ある日気づいたんだ。
おれたちがいるせいで、人間が殊更無気力であることに。祈ればなんでも叶えてもらえる。そう思い込んでいて、生きていくための知恵を生み出すこともなければ、努力することもなかった。おれたちの存在が、人間の進化の妨げになっていたんだ」
「そう言われてしまうと言い返す言葉がないね」
ため息などつくエルシアに、こちらもため息で応える一樹だった。
エルダ神族として生きてきたエルシアたちは、頼るべきものを見いだしたときの人間の身勝手さ、そして無気力さを知っているから、一樹の言い分がよく理解できるのだ。
創始の神々ほどの影響力はなかったにせよ、神の未商と言われてきたせいで受ける期待も大きかったし、人々が頼ってくるのも、思い返せばキリがないほどあったから。
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