弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第十章 水神マルス

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「今度こそ君の番だね? 亜樹の、大賢者の正体については、亜樹が力を覚醒させ、尚且つ前世の記憶が戻れば話せると思うよ。でも、前世の記憶は必ずしも戻るとは思えない。確約はできない。それを踏まえておいてほしい」

 そこまで言ってからエルシアは言葉を促すように、じっとファラを見つめた。

「そうですね。わたしの番です」

 穏やかに認めてから精置は、生まれたばかりでなにも知らない運命の子、アレスのことを思い描いた。

「アレスさまは創始の神々の後継者に当たる方です」

「創始の神々の後継者? 水と炎を司るだけなのに?」

「現実的な意味合いでは創始の神々に後継者は必要ありません。そもそも創始の神々が死に絶える
といろことは、世界が存続できないということですから。そうですわよね、水神マルスさま」

 違うと言っているのに、まだかつての名で呼ぶ精霊に、一樹は訂正するのもしんどくなってきて、投げやりに頷いた。

「確かにこの世界が存続していく上で、エルダたちは欠かせない存在だろうな。マルスはないし、これでエルダたちになにかあったら、世界は確実に減ぶと思う。逆に言うとかつて命を落とし世界を救済したのがマルスでよかったのさ」

「何故?」

 不思議そうな精霊に一樹は自虐めいた笑みを見せた。

「マルスは確かに長子として弟妹神たちを統べていたし、水を司る最強の神でもあった。でも、幸運なことに水を司っているのはマルスひとりじゃない。
 レオニスがいる。ラフィンがい
る。マルスが死んでも残りのふたりがいれば、辛うじで均街は保たれる。特にレオニスがいれば大抵のことは切り抜けられると思う。おれは水を統べる者だけどあいつは海を統べる者。
 海は世界を覆っている。おれとは違った意味で水を統べる者だ。だから、マルスがいない穴もレオニスになら埋めることができる。現実にそうやって凄いできたはずだ。違うか?」

「確かに。そのとおりですね、マルスさま。あなたのいない間レオニスさまが代理として水を続べてきました。それさえもご承知のことだったのですか?」

「力が失われている間は、そういうことはわからなかったけどな。予測はできた。それに力が戻ってからは、水にあいつの力が浸透しているのがわかったし。これなら大丈夫そうだとほっとしたのも事実だからな」

 心のどこかで神としての役目を果たせなかったことを、悔やんでいた自分がいる。

 それは自分がいないために、また世界が滅ぶようなことがあったら、という、自分の存在価値故の後悔だった。

 だから、レオニスに穴埋めができるはずだと気づいたとき、そして現実にそうなっているのだと知ったとき、これで亜樹のためだけに生きられると、ほっと安堵したのが本音だった。

 こんなことを精霊に言えば、また怒るだろうが。

「だから、後継者は必要ないはずだ。必要になってくるとしたら、世代交代のとき。だが、そうなると生まれたのがアレスひとりだというのが腑に落ちない。世代交代が行われるならすべての弟妹神たちの後継者が必要なはずだ。それこそエルダ神族のように」

「それって私たちがエルダの真の後継者だという意味かい、一樹?」

「ぼくらにはエルダほどの力はないと思っけど?」

「大体ボクらはエルダの力を受け継いだ直系とは言っても、かなり世代が離れてる。後継というのは、ちょっと大袈袋じゃない?」

 三人ともそれぞれに自分が置かれた立場をよく理解し、己の力についてもよく理解している。

 小さく笑って一樹は告げた。

 神々の世代交代の意味するところを。

「神々の世代交代っていうのは、最終的にエルスたちの場合だと、三人の中のだれかが、エルダの力を受け継ぐことで完了する」

「それってエルダが消滅するときに、エルダの持つ力を受け入れる、という意味かな?」

 エルシアの問いかけに一樹はこくりと頷いた。

「世代交代というのはそのまま力の受け継ぎのことだ。今の器では存在できないから、限界がきたから後継者に力を譲る。そういう意味なんだ。力の受け継ぎなくして世代交代は有り得ない。だから、エルシアたちもまだ完全な意味ではエルダの後継じゃない。後継者になれる力と器を持った特別な存在だというだけだ」

 一樹は水神マルスとしてかなりの知識を持っていた。

それこそエルシアたちには推し量
次元の真相まで。

 そういう意味だとは思ったこともなかったので、三人は困ったように顔を見合わせた。

 交代のときが、生きている間に行われるとは限らない。

 だが、もし起きたら力を受け継いだ者は、正真正銘の風神エルダの後継者となる。

 神々の一員となる。

 それも長子であるマルスが抜けた今、最高神という位置に。

 ちょっと信じられなかった。

 自分たちにそういう可能性があるというのは。
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