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第十章 水神マルス
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「じゃあ、さっきの弱気な発言、あれ、嘘だったんだ?」
急にリオネスに睨まれて、一樹はあらぬ方を向いた。
「最強の力を保持する水神が、あの程度の炎を消せないわけがない。
ううん。それどころか、ボクらが頑張らなくても、一樹ひとりの力でアレスの力と対抗できたんじゃないの? 力を加減して使って、しかもそれを気づかせず、弱気な発言をする演技までしてっ! こっちをみたら! 怒ってるんだよ、ボクはっ!」
「珍しい」
「リオンが本気で怒ってるよ」
ふたりの兄たちが唖然としている。
「ほんとにおまえはエルダによく似てるよ。あいつもよくおれには突っかかってきてたから」
こめかみなど掻いた発言に、リオネスは一樹の背中を思い切り殴りつけた。
「イテッ。なにするんだよー」
「このくらい我慢したら?」
最高神を全然恐れていないリオネスに、さすがに精霊は絶句した。
ここまでやるとは思わなかったので。
「全くもう」
口ではぶっぷつ文句を言いながらも、一樹は嬉しそうだった。
その原因はリーンにはよくわかる。
正体がばれても態度が変わらなかったからだ。
常に同じ危慣を抱いていて、人と接するときに構えていたリーンになら、わかる。
「ではあなたにも。マルスさまにも大賢者の正体はわからないと?」
「マルスじゃない。一樹だ」
鋭く訂正されて精霊は息を噛んだ。
彼が否定しようとそこにいるのは水神マルスだった。
何故なら力を失っていない。彼は記憶も力も持っている。
それでも神として生きず、大賢者の傍で生きようとしている。
「あなたを必要としている者が大勢いると、何故わからないのですか? エルダさまたちだって、ずっと待たれているのに」
「何故? それこそ愚問だろ? おれは一度死んだんだ。マルスはもういない」
「それは詭弁だわっ。あなたの保持している力。それが証ではないですか! 神力だって失っていないのに!」
「忘れてないか、FARAH?」
最高神として真名を呼ばれ、ファラが硬直した。
この場にいる者はみなエルダの血を引いていたので、なにが起きたのかわかる。
わかるから絶句して一樹を見た。
たった一言で精霊を呪縛した一樹を。
「おれが今ここにいるのは奇跡でもなんでもない。あいつがおれを助けたからだ。みんなが待ってることは知ってるよ。だから、正直にマルスは死んだと伝えてくれればいい。過去に戻りたいなんておれは思っていないんだよ。大体できない」
「何故?」
「エルダたちの元に戻ったら、あいつがいないからだよ」
「マルスさま」
「だから、違うって言ってるだろ? おれは、今のおれは一樹だ。あいつがいないと力を意味もない。それに」
「それに?」
告白を促すエルシアの声に、一樹は思い切って告げた。
「今のおれの力の源は、人間たちの信仰じゃなく、亜樹個人なんだよ」
「それって過去に大賢者に救われたことが原因?」
「そういうことに、なるかな?
確かにおれは助けられた後、かつての力を次々と取り戻していった。でも、あいつがいないとできないんだ。原因があいつにあることはすぐにわかった。あいつの笑顔があれば、おれはなんでもできる。神として避けていたことさえ」
「あ。そうか。守護聖獣が水神マルスの変化した姿だとしたら、さっきの告白の意味が変わってくる。
大賢者を襲う刺客を殺したって言ってた。でも、それは水神マルスにはできないことだよ」
自然界を司る創始の神々は、自らが生み出した人間を守護するべく定められた。
水神マルスはその長子。太祖とも言うべきマルスたち、創始の神々は人を殺せない。
はじめからその力を持っていないのだ。
エルシアたちがそれをできるのは、永い時の流れの中でエルダ神族が持つ力の意味が変化していったからだ。
純粋な始祖、いいや、太祖ともいうべき神々の要、水神マルスには絶対にできない真似なのである。
急にリオネスに睨まれて、一樹はあらぬ方を向いた。
「最強の力を保持する水神が、あの程度の炎を消せないわけがない。
ううん。それどころか、ボクらが頑張らなくても、一樹ひとりの力でアレスの力と対抗できたんじゃないの? 力を加減して使って、しかもそれを気づかせず、弱気な発言をする演技までしてっ! こっちをみたら! 怒ってるんだよ、ボクはっ!」
「珍しい」
「リオンが本気で怒ってるよ」
ふたりの兄たちが唖然としている。
「ほんとにおまえはエルダによく似てるよ。あいつもよくおれには突っかかってきてたから」
こめかみなど掻いた発言に、リオネスは一樹の背中を思い切り殴りつけた。
「イテッ。なにするんだよー」
「このくらい我慢したら?」
最高神を全然恐れていないリオネスに、さすがに精霊は絶句した。
ここまでやるとは思わなかったので。
「全くもう」
口ではぶっぷつ文句を言いながらも、一樹は嬉しそうだった。
その原因はリーンにはよくわかる。
正体がばれても態度が変わらなかったからだ。
常に同じ危慣を抱いていて、人と接するときに構えていたリーンになら、わかる。
「ではあなたにも。マルスさまにも大賢者の正体はわからないと?」
「マルスじゃない。一樹だ」
鋭く訂正されて精霊は息を噛んだ。
彼が否定しようとそこにいるのは水神マルスだった。
何故なら力を失っていない。彼は記憶も力も持っている。
それでも神として生きず、大賢者の傍で生きようとしている。
「あなたを必要としている者が大勢いると、何故わからないのですか? エルダさまたちだって、ずっと待たれているのに」
「何故? それこそ愚問だろ? おれは一度死んだんだ。マルスはもういない」
「それは詭弁だわっ。あなたの保持している力。それが証ではないですか! 神力だって失っていないのに!」
「忘れてないか、FARAH?」
最高神として真名を呼ばれ、ファラが硬直した。
この場にいる者はみなエルダの血を引いていたので、なにが起きたのかわかる。
わかるから絶句して一樹を見た。
たった一言で精霊を呪縛した一樹を。
「おれが今ここにいるのは奇跡でもなんでもない。あいつがおれを助けたからだ。みんなが待ってることは知ってるよ。だから、正直にマルスは死んだと伝えてくれればいい。過去に戻りたいなんておれは思っていないんだよ。大体できない」
「何故?」
「エルダたちの元に戻ったら、あいつがいないからだよ」
「マルスさま」
「だから、違うって言ってるだろ? おれは、今のおれは一樹だ。あいつがいないと力を意味もない。それに」
「それに?」
告白を促すエルシアの声に、一樹は思い切って告げた。
「今のおれの力の源は、人間たちの信仰じゃなく、亜樹個人なんだよ」
「それって過去に大賢者に救われたことが原因?」
「そういうことに、なるかな?
確かにおれは助けられた後、かつての力を次々と取り戻していった。でも、あいつがいないとできないんだ。原因があいつにあることはすぐにわかった。あいつの笑顔があれば、おれはなんでもできる。神として避けていたことさえ」
「あ。そうか。守護聖獣が水神マルスの変化した姿だとしたら、さっきの告白の意味が変わってくる。
大賢者を襲う刺客を殺したって言ってた。でも、それは水神マルスにはできないことだよ」
自然界を司る創始の神々は、自らが生み出した人間を守護するべく定められた。
水神マルスはその長子。太祖とも言うべきマルスたち、創始の神々は人を殺せない。
はじめからその力を持っていないのだ。
エルシアたちがそれをできるのは、永い時の流れの中でエルダ神族が持つ力の意味が変化していったからだ。
純粋な始祖、いいや、太祖ともいうべき神々の要、水神マルスには絶対にできない真似なのである。
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