67 / 138
第十章 水神マルス
(8)
しおりを挟む
促すエルシアの声に精霊はかぶりを振った。
「まだなにか? ここらはすべての手の内を明かしたよ」
「いいえ。まだ肝心なことを打ち明けていないわ。大賢者の出生。大賢者は何者? どうしてそんなに特別なの? 守護聖獸が付き従っていたり、世界を救うために転生したり不自然な点が多すぎるわ」
また視線が集まって一樹はやりきれない吐息をもらした。
「これは言いたくなかったんだけどな。おれは守護聖獣は元を正すと水神マルス」
「まさかそんな」
絶句する精霊に一樹が笑う。皮肉な笑みで。
「一度、世界が滅びかけたことがある。これは誰も気づかない間に処理された。マルスの力で」
「まさかマルスさまは」
「そう。そのときに息絶えた。すべての力を使い果たして。マルスが死ぬその直前に現れたのが後の大賢者。あいつが誰なのか、おれだってマルスだって知らない。でも、その力でマルスは消滅から免れた。もう神として存在することはできなかったけど、生き残ることができた。でも、弟妹神たちの元へは戻れなかった。元の姿さえ失い、獸と化した自分を憐れむのがわかっていたし、そんな目には遭いたくなかった。そうしてどこにも行く宛のなかったおれをあいつが拾ってくれたんだ」
「一樹」
「世界が滅び掛けた原因を作ったのが、マルスの弟妹神たち」
「どういう意味なのですか?」
無意識に精霊の口調が変わっている。
一樹が最高神マルスの生まれ変わりだと知って。
一樹はそのことに気付いていたが、この場では指摘しなかった。
マルスだと知られれば、こうなるのはわかっていたので。
それでも正体を打ち明けたのにも意味がある。
一樹は転生して尚、自分が確かに水神マルスであることを自覚していた。
そのため亜樹から引き離されないために、マルスとして動く必要があったのだ。
どのみち弟妹神たちの力では、マルスたる一樹には勝てないのだし。
震える精霊にかつての最高神マルスが笑う。
そこにいるのは間違いなく最強と謳われた水神マルスだった。
「まだ姿を消すには早かったんだ。世界はまだ安定していない。だけどみんなはもういいだろうと判断して姿を消した。結果として世界を支える力が不安定になり、崩壊の危機を迎えたんだ。そのことに気付いたのは、たまたま地上に出ていたおれだけだった。協力を求めている余裕はなかった。成功しても自分が助からないことはわかっていたけどやるしかなかったんだ。世界を守りたいなら」
「まさかマルスさまが亡くなっていたなんて」
「後悔はしてない」
一樹ははっきりとそう言い切った。
神としての力も地位も、すべて失っても惜しくない者を手に入れたから。
「おれは最強の力と最高神という地位を失う代わりにあいつを得たんだ。だから、後悔はしてない」
「マルスさま」
「それにおれはあいつの影響で、力の大半は取り戻していたし」
「じゃあ伝説の守護聖獣の力の強さの源は」
「本当によく調べてるな、リオンは。そうだよ。水神マルスの力だよ。おれは取り戻した力をあいつのためだけに使ってた。だから、気付かれなかったんだろ。それに元々水が関わるような力の使い方はしていなかったし」
一樹の告白はそのほとんどが衝撃的すぎて、すぐには受け入れられなかった。
まさか彼が最高神水神マルスの転生者だったなんて。
「まだなにか? ここらはすべての手の内を明かしたよ」
「いいえ。まだ肝心なことを打ち明けていないわ。大賢者の出生。大賢者は何者? どうしてそんなに特別なの? 守護聖獸が付き従っていたり、世界を救うために転生したり不自然な点が多すぎるわ」
また視線が集まって一樹はやりきれない吐息をもらした。
「これは言いたくなかったんだけどな。おれは守護聖獣は元を正すと水神マルス」
「まさかそんな」
絶句する精霊に一樹が笑う。皮肉な笑みで。
「一度、世界が滅びかけたことがある。これは誰も気づかない間に処理された。マルスの力で」
「まさかマルスさまは」
「そう。そのときに息絶えた。すべての力を使い果たして。マルスが死ぬその直前に現れたのが後の大賢者。あいつが誰なのか、おれだってマルスだって知らない。でも、その力でマルスは消滅から免れた。もう神として存在することはできなかったけど、生き残ることができた。でも、弟妹神たちの元へは戻れなかった。元の姿さえ失い、獸と化した自分を憐れむのがわかっていたし、そんな目には遭いたくなかった。そうしてどこにも行く宛のなかったおれをあいつが拾ってくれたんだ」
「一樹」
「世界が滅び掛けた原因を作ったのが、マルスの弟妹神たち」
「どういう意味なのですか?」
無意識に精霊の口調が変わっている。
一樹が最高神マルスの生まれ変わりだと知って。
一樹はそのことに気付いていたが、この場では指摘しなかった。
マルスだと知られれば、こうなるのはわかっていたので。
それでも正体を打ち明けたのにも意味がある。
一樹は転生して尚、自分が確かに水神マルスであることを自覚していた。
そのため亜樹から引き離されないために、マルスとして動く必要があったのだ。
どのみち弟妹神たちの力では、マルスたる一樹には勝てないのだし。
震える精霊にかつての最高神マルスが笑う。
そこにいるのは間違いなく最強と謳われた水神マルスだった。
「まだ姿を消すには早かったんだ。世界はまだ安定していない。だけどみんなはもういいだろうと判断して姿を消した。結果として世界を支える力が不安定になり、崩壊の危機を迎えたんだ。そのことに気付いたのは、たまたま地上に出ていたおれだけだった。協力を求めている余裕はなかった。成功しても自分が助からないことはわかっていたけどやるしかなかったんだ。世界を守りたいなら」
「まさかマルスさまが亡くなっていたなんて」
「後悔はしてない」
一樹ははっきりとそう言い切った。
神としての力も地位も、すべて失っても惜しくない者を手に入れたから。
「おれは最強の力と最高神という地位を失う代わりにあいつを得たんだ。だから、後悔はしてない」
「マルスさま」
「それにおれはあいつの影響で、力の大半は取り戻していたし」
「じゃあ伝説の守護聖獣の力の強さの源は」
「本当によく調べてるな、リオンは。そうだよ。水神マルスの力だよ。おれは取り戻した力をあいつのためだけに使ってた。だから、気付かれなかったんだろ。それに元々水が関わるような力の使い方はしていなかったし」
一樹の告白はそのほとんどが衝撃的すぎて、すぐには受け入れられなかった。
まさか彼が最高神水神マルスの転生者だったなんて。
0
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
最弱伝説俺
京香
BL
元柔道家の父と元モデルの母から生まれた葵は、四兄弟の一番下。三人の兄からは「最弱」だと物理的愛のムチでしごかれる日々。その上、高校は寮に住めと一人放り込まれてしまった!
有名柔道道場の実家で鍛えられ、その辺のやんちゃな連中なんぞ片手で潰せる強さなのに、最弱だと思い込んでいる葵。兄作成のマニュアルにより高校で不良認定されるは不良のトップには求婚されるはで、はたして無事高校を卒業出来るのか!?
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる