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第十章 水神マルス

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「あの蒼海石のピアスをした子供は、大賢者の血族ではないの?」

「え?」

「亜樹が?」

 全員の視線が一樹へと向かう。何度目か知れない注視に、一樹は諦めの吐息をもらす。

「そうだよ。亜樹の母親はセレーネは、大賢者と呼ばれた人の娘」

「一樹」

「それって亜樹は大賢者の孫ってこと?」

「正確には転生」

 唖然として固まる四人に一樹は投げやりな笑みを見せた。

「セレーネは確かに大賢者の娘だけど、正確には娘じゃない」

「どういう意味だい?」

「セレーネは大賢者を転生させるための器。そういう意味だよ。本来ならセレーネは大賢者が生きた証として、普通に生きて死ぬはずだった。この使命を果たすことなく。
 それが大賢者自身の望みでもあったから。再び自分が産まれい出るときは、世界が減びに瀕しているとき。だから、そのときが訪れないことを望むと、大賢者はセレーネに言い残していた。
 それに大賢者の転生を産み落としたとき、セレーネは間違いなく死ぬ。それがわかっていたから尚更時が訪れないことを願ったんだと思う。形だけの器でも娘として愛していたから」

 まるで亜樹と杏樹のことのようだと、リーンたちは思っていた。

 杏樹は亜樹の影。魂のない器。産まれる前の記憶を辿っているような亜樹の半生。

 大賢者が背負っている宿命からは逃れられないのか?

「でも。それが事実なら、年代が合わないよ? 大賢者の娘ならセレーネという女性が生きていた時代は、もっと古いはずだよ。だって大賢者は創始の神々が姿を消した直後の人物なんだから」

 そう。

 リオネスが指摘するとおり、大賢者という人物は、かなり不思議な一面があった。

 神々が消した後、人々が希望を失っているときに不意に現れ数々の部跡を起こし、そうして伝説となった人物。

 年代はほぼ古代。

 亜樹の母親が大賢者の娘だというなら、絶対に年代が合わない。

「セレーネは世界が危機を迎えたとき、大賢者を転生させるための器だぜ? なんの力も持っていないと思うのか? リオネス?」

「まさか。世界を越えるついでに時も越えた?」

 それはかなり強大な神力が必要とされる術だった。

 リオネスの指摘にさすがの精霊も驚いている。

 まさか亜樹が大賢者の孫に当たる人物だとは、欠片ほども思っていなかったからだ。

 エルシアたちのように直系子孫だろうと思っていた。

 大賢者というのが、そこまで持出した能力を持っていたなんて意外だった。

 時を越えるだけでも、かなりの神力が必要とされるのに、ついでに世界も越えたとなると、それはもう創始の神々さえ比較にならない力。

 その基盤となった大賢者は、そしてその転生たるあの子は、いったいどれほどの力を秘めているのだろう?

「これで謎は解けただろ? 亜樹の正体は大賢者の転生。世界を救うために生まれた救世主。そういうことだ」

「この世界を救うために転生した? 亜樹が? ちょっと待ってよ。だったらどうして一樹は、そこまで詳しく知ってるの? そういえば文献では、大賢者には常に付き従う聖獣がいたとある。まさか一樹は」

「おれか? お察しのとおり人間でもねえよ。亜樹が転生する場に聖獣は存在できなかった。だから、人として生まれただけの存在。
 亜樹の封印が解けていけば、おれの封印も解けていく。そうすれば次第に力が増し、創始の神々とも互角の力が手に入る」

 一樹の口調まで変わっている。

 いつから彼はすべて思い出していたのだろう?
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