弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

文字の大きさ
上 下
63 / 140
第十章 水神マルス

(4)

しおりを挟む
「ラフィンとレオニスは似ているけれど、同じ水の神だけれど、レオニスの方が力は強い。でも、神々はその血統を重んじるはず。普通ならレダがレオニスの子を産むという事態にはならない。ボクが調べた文献ではそうなっていたね。貞淑が失われていなければ、それは今も変わらない事実だと思うけど?」

「ではあなた方に関する謎は?」

「それはもしかしてボクたちが純粋にエルダの子孫であり、伴侶がはっきりしていないことかな?」

 澱みなく答えるリオネスに、彼の兄たちも一樹もリーンも感心していた。

 文学を愛すると言って憚らないだけのことはある。

 まあこういう場面で答えられないようなら、ただの趣味で終わってしまうけれども。

 リオネスの知識はかなり深いこころまで辿りついているようだった。

 秘されていた真相というところまで。

 彼の答えを聞いて精霊は満足そうに微笑んだ。

「その通りよ。エルダさまはご自分の伴侶については未だに打ち明けようとなさらない。レダさまもご存じないとのことよ」

「そう。だから、風しか使えないのかな? ボクが生まれ育ったときには、すでに他の神族は絶えていたけれど、他の神族は必ず二種類の力が使えたとあった。でも、ボクらには風しか使えない。ずっと不思議に思っていたことだけど」

「それだけあなた方が特別だということではないかしら?」

「私たらが?」

「特別?」

「エルダさまもレダさまも仰っていたわ。この世界が滅びに渡しているときに残された最後の神族。その長の三兄弟は歴史の転換期に重要な役目を果たす、と」

 意外だと三人の顔に書いている。
そろいうふうに着えたことはなかった。

「あなた方があの子と関わったことも、その一端かもしれないわね」

「亜樹のことか」

 呟いてまたすべての視線が一樹へと向かう。

 説明を求めて。

 もう今までのように言えないの一言で逃げられないと一樹も気づいている。

 だが、決心がつかなかった。

「あなた方、風の申し子はある意味で人間と神との架け橋。その中間に位置する者。純粋な神ではなく、純粋な人でもない。だからこそ、そういう位置にいるからこそ、果たせる役目もあるはずだわ」

「役目ね。重い言葉だね」

「でも、あなた方がもしアレスさまと同じ位置にいたり、もしくは創始の神々と同じ仕置にいたりしたら、おそらく人間との繋がりが絶たれてしまったわ」

「それは嫌だね。ぼくは人間がそれほどきらいではないから」

「だから、架け橋なのよ。あなた方は」

「なるほど」

 確かに人間との共存を計って、公国の守護をやったりと、色々と行動を起こしてはいたが、まさかそれがすべて創始の神々に筒抜けだとは思わなかったけれど。

 それだけ父なるエルダも、自分たちのことを気にかけてくれていたというここだろうか。

「アレスさまは創始の祖々が一堂に会して、その誕生を決めた最後の希望よ」

「それはレダがレオニスの子を産むことを、全員一致で決めたってことなのかな?」

「あなたは聡明ね。リオネスさま」

 答えは肯定。

 まきかアレスがそういう存在だったとは思わなかった。

 つまり望まれた誕生。いや。仕
れた存在、という意味だ。

 だからレダはレオニスの子を産んだ。

 それが必要なことだから。

「まさか相反する性質を持つ力、炎と水をひとつにするために?」

 愕然とした声に精霊は「さすがね」と呟いた。

「四元素の中で火を司るのはレダさまおひとりなのよ。水を司る方は三人いらっしゃるけれど、最強の力を秘めたマルスさまは行方知れず。しかも性別さえはっきりしていない。だから、レオニスさまの子を産んだ。わかるかしら? 彼は創始の神々の最後の希望なのよ」

「どういう意味で最後の希望なのか説明してくれないかな? 相反するふたつの力を統べるだけでは救いにはならないと思うのだけれど?」

 長としてようやく真面目に取り組む姿勢を見せたエルシアに、精霊は疲れたような笑みを向けた。

「その説明の前に蒼海石のピアスをしている子供の説明。そしてそこにいる半人半神の王子の存在の意味を説明してくださる? そちらだけが説明を求めるのは筋違いだわ」

「この前にどうしてさっきから亜樹のことを、子供、子供って連発してるんだ?」

 一樹が精霊の真紅の眼を見て訊ねた。

 覚悟を決めるしがないと、自分に言い聞かせながら。

「あら。他にどう例えればいいの? まだ男でも女でもないあの子を?」

「......すべてお見通し、か。その上で説明を求めるなんて、相変わらず炎の精霊ってのはチが悪いぜ」

 ムッとして顔を背ける一樹に育ての親として、エルシアがそっと髪を撫でた。

 ちょっと悔しいのだが、一樹は逆らわなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

処理中です...