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第十章 水神マルス

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「ラフィンとレオニスは似ているけれど、同じ水の神だけれど、レオニスの方が力は強い。でも、神々はその血統を重んじるはず。普通ならレダがレオニスの子を産むという事態にはならない。ボクが調べた文献ではそうなっていたね。貞淑が失われていなければ、それは今も変わらない事実だと思うけど?」

「ではあなた方に関する謎は?」

「それはもしかしてボクたちが純粋にエルダの子孫であり、伴侶がはっきりしていないことかな?」

 澱みなく答えるリオネスに、彼の兄たちも一樹もリーンも感心していた。

 文学を愛すると言って憚らないだけのことはある。

 まあこういう場面で答えられないようなら、ただの趣味で終わってしまうけれども。

 リオネスの知識はかなり深いこころまで辿りついているようだった。

 秘されていた真相というところまで。

 彼の答えを聞いて精霊は満足そうに微笑んだ。

「その通りよ。エルダさまはご自分の伴侶については未だに打ち明けようとなさらない。レダさまもご存じないとのことよ」

「そう。だから、風しか使えないのかな? ボクが生まれ育ったときには、すでに他の神族は絶えていたけれど、他の神族は必ず二種類の力が使えたとあった。でも、ボクらには風しか使えない。ずっと不思議に思っていたことだけど」

「それだけあなた方が特別だということではないかしら?」

「私たらが?」

「特別?」

「エルダさまもレダさまも仰っていたわ。この世界が滅びに渡しているときに残された最後の神族。その長の三兄弟は歴史の転換期に重要な役目を果たす、と」

 意外だと三人の顔に書いている。
そろいうふうに着えたことはなかった。

「あなた方があの子と関わったことも、その一端かもしれないわね」

「亜樹のことか」

 呟いてまたすべての視線が一樹へと向かう。

 説明を求めて。

 もう今までのように言えないの一言で逃げられないと一樹も気づいている。

 だが、決心がつかなかった。

「あなた方、風の申し子はある意味で人間と神との架け橋。その中間に位置する者。純粋な神ではなく、純粋な人でもない。だからこそ、そういう位置にいるからこそ、果たせる役目もあるはずだわ」

「役目ね。重い言葉だね」

「でも、あなた方がもしアレスさまと同じ位置にいたり、もしくは創始の神々と同じ仕置にいたりしたら、おそらく人間との繋がりが絶たれてしまったわ」

「それは嫌だね。ぼくは人間がそれほどきらいではないから」

「だから、架け橋なのよ。あなた方は」

「なるほど」

 確かに人間との共存を計って、公国の守護をやったりと、色々と行動を起こしてはいたが、まさかそれがすべて創始の神々に筒抜けだとは思わなかったけれど。

 それだけ父なるエルダも、自分たちのことを気にかけてくれていたというここだろうか。

「アレスさまは創始の祖々が一堂に会して、その誕生を決めた最後の希望よ」

「それはレダがレオニスの子を産むことを、全員一致で決めたってことなのかな?」

「あなたは聡明ね。リオネスさま」

 答えは肯定。

 まきかアレスがそういう存在だったとは思わなかった。

 つまり望まれた誕生。いや。仕
れた存在、という意味だ。

 だからレダはレオニスの子を産んだ。

 それが必要なことだから。

「まさか相反する性質を持つ力、炎と水をひとつにするために?」

 愕然とした声に精霊は「さすがね」と呟いた。

「四元素の中で火を司るのはレダさまおひとりなのよ。水を司る方は三人いらっしゃるけれど、最強の力を秘めたマルスさまは行方知れず。しかも性別さえはっきりしていない。だから、レオニスさまの子を産んだ。わかるかしら? 彼は創始の神々の最後の希望なのよ」

「どういう意味で最後の希望なのか説明してくれないかな? 相反するふたつの力を統べるだけでは救いにはならないと思うのだけれど?」

 長としてようやく真面目に取り組む姿勢を見せたエルシアに、精霊は疲れたような笑みを向けた。

「その説明の前に蒼海石のピアスをしている子供の説明。そしてそこにいる半人半神の王子の存在の意味を説明してくださる? そちらだけが説明を求めるのは筋違いだわ」

「この前にどうしてさっきから亜樹のことを、子供、子供って連発してるんだ?」

 一樹が精霊の真紅の眼を見て訊ねた。

 覚悟を決めるしがないと、自分に言い聞かせながら。

「あら。他にどう例えればいいの? まだ男でも女でもないあの子を?」

「......すべてお見通し、か。その上で説明を求めるなんて、相変わらず炎の精霊ってのはチが悪いぜ」

 ムッとして顔を背ける一樹に育ての親として、エルシアがそっと髪を撫でた。

 ちょっと悔しいのだが、一樹は逆らわなかった。
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