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第十章 水神マルス
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しおりを挟む第十章 水神マルス
「エルス。どういうつもりで彼を連れてきたんだ?」
宮殿に帰るなりエルシアたちはアレスの素性を打ち明けて、彼をエルダ山に連れていくことを意思表示した。
その後でアレスは物珍しそうに宮殿を見ていたが、亜樹や杏樹に誘われて無邪気について行った。
残されたのはエルダ神族の三兄弟と、一樹とリーンだけだった。
事情を聞いていなかったリーンが、険しい表情でエルシアに詰め寄っている。
彼にしてみれば明日、彼らが帰るときに亜樹も同行するのだ。
そこにまったく異常の新しい神族など連れて行ったら危険なだけだ。
ましてやさっきの説明によれば、自己制御もできなければ、暴走させた自覚もないときている。
これだけ厄介な相手を亜樹に近づけてくれたことで、リーンはかなり怒っていた。
「どういうつもりって、まさに乗り掛かった服というやつだね。あれを見てしまうと見過ごしにできなかったというか」
「リーンは見ていないから自覚できないだろうけどね。彼の力は実際、かなり強いよ? 制御できなければ危険だよ。さっきだって一樹がいなかったら、君の領土は大変なことになっただろうね」
アストルの言葉にリーンが一樹を見た。
言葉の意味を問うように。
「正直なところ、あの炎を消せるとはおれも思わなかったな。炎が意思を持って燃え広がってるんだから。それを自分たちに向かわないようにして、更に消してしまう。言葉で言えば簡単だけど、実際のところはかなり難しかった。ひとつ条件が違ったりもしくは力を発動させるタイミングを間違えたりしたら、たぶんおれの手には負えなかったと思う」
「きみがそこまで言うなんて」
一樹は自信満々なタイプではないが、よほどの事態でもないと弱音も吐かない。
エルシアたちに鍛えられて来たのだから当然だ。
その一樹が弱気な発言をしたことでリーンはかなり驚いた。
それはそのまま攻撃したアレスの力が、防ぎようがないほど強かったことを意味するから。
それを無意識に攻撃した?
とんでもない話である。
神々の落とし胤かなんだか知らないが、そう簡単に気まぐれで領土を燃やされては適わない。
「しかもね。彼の恐ろしいところはそこだけじゃない。水にとっての相反する存在。炎。炎にとっての大敵である水。その両方を従えていることにある」
「あ」
「ピアスも見せてもらったけど、ボクらの常識から見れば完全な異端児だよ。なにしろ右耳は真紅、左耳は蒼紺なんだから。これがなにを意味するか、リーンにならわかるでしょ?」
「つまり彼は水も炎も完璧にそして同時に操れる、と?」
リーンの博然とした問いかけに、
って答えた。
「今の時的ではあくまでも仮定だけれどね。今の彼では力の持ち腐れ。せっかくのカも十分に発揮できないだろうから」
「生まれて一年なんだって。直接、女や海神を両親に持つとすごく成長が異端なんだね。驚いたよ、ボクも」
逆にリオネスたちの場合だと成長はすごくゆったりしている。長寿なのはそのせいだ。
成長が非常にゆっくりしているのだ。
だから、いつまでも苦々しい姿を保っていられる。
でも、それはせめでリオネスくらいにまで成長すると、有り難みを感じるようになるが、小さい頃は鬱陶しいだけだったりする。
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