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第九章 邂逅のとき
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すべての者を呆れさせているというのに、やっぱりアレスには自覚が薄かった。
ファラの説明に納得して、エルシアを振り向いた。
「七回だそうだ」
「君ね、自分のことだろう?」
さすがに呆れたエルシアが嗜めるが、アレスはきょとんとしただけだった。
「無意識だから覚えていないんだ」
これ以上はない迷惑な返答である。
実はエルシアが途方に暮れるところを初めで目撃したのは、一樹も初めてだったのだが。
永く生きている中でエルシアを困らせたのは、アレスが初めてだった。
アレスを相手にしてもはじまらないと思ったのか、エルシアはファラを振り向いて聞いてみた。
「彼はどのくらい滞在しているのかな?」
「さあ? 気が向けば一ヵ月でも二ヵ月でも滞在しているでしょうし、気が変われば明日にでも違うところへ旅立つでしょうね」
「さすがに炎と海の申し子といったところだね」
呆れるしかないとはこのことである。
炎も海もどちらも気まぐれ。
アレスは幼い故に、それをそのまま行動に移す。これ以上迷惑な存在はそうそういないだろう。
だが、同じ神族としてエルシアはアレスを野放しにするつもりになれなかった。
危険極まりない。
蒼海石のピアスを身につけている亜樹と同等か、それ以上に危険な存在だ。
今は亜樹が秘めている力の強さが予測不可能だから、アレスが上の場合もあるかもしれないと思っているだけだが。
亜樹はそれほど常識で推し量れない存在なので。
だが、常識で推し量れないというなら、炎と海の申し子もそうだ。
歴史に名を残していない新たな神族。
直接、女神と海神の血を引いた御曹司。
どれほどの力を秘めているか、想像もできない。
それはさっきの無意識の攻撃が証明している。
風の力を感じただけで無意識に、あれだけの攻撃を仕掛けるのだ。
それ相応の力を秘めているだろう。
制街できなければ、それは武器ではなく、既に凶器。
幼いアレスにそれをどう理解させればいいというのか。
炎の女神、レダを恨みたい心境だった。
炎の精要が加護についていることから、エルシアはアレスを地上に放り出したのは、父である海神、レオニスではなく、母である炎の女神、レダだと見抜いていたので。
厄介事がまた増えた。
それが偽りのないエルシアの感想だった。
亜樹の場合はまだ私情が挟まっていたからいいのだが、無関係の炎と海の申し子をなぜ自分たちが監視しないといけないのか?
ましてや力のコントロールの大切さを教えないといけないのか?
そのくらい母であるレダが教えればよかったのだ。
恨んでなにが悪い? エルシアは内心で、かなり立腹していた。
アレスを育てるのがどのくらい難題か。よく理解していたので。
「仕方がないね。乗り掛かった船だ。私たちがアレスにカのコントロールの方法を教えよう」
「え?」
アストルが驚いて兄を振り返り、リオネスも意外そうに長兄を見た。
「どういう風の吹き回し、兄さん?」
「ふたりともそんな顔をするけれどね。彼がこのまま力のコントロールの方法も知らず、気の向くままに力を使い放題にしていたらどうなると思う?」
「凄く迷惑極まりないかも」
控えめながらも本音を打ち明けたのはアストルだった。
彼の力の凄まじさは攻撃を受け
た者しかわからない。
さっきの攻撃は四人でいたから防げたのだ。
あれをぽんぽんやられたらたまったものではない。自然災害が人災になってしまう。
しかもたまたま力が増幅した一樹が、水に優れていたからあの炎き防げた。
あれだけの竜巻が起こっている中で、あの炎を風で消そうとしたら、最悪の場合、この辺の森は燃え尽きて、ダメになっていたかもしれない。
そんな恐ろしい攻撃を気の向くままに使われたら、まるで歩く天災である。
よくもまあ母であるレダは、彼を外に出したなと思う。
「レダもすこしくらい人間が彼る被害を考えてくれたらいいのに」
ぽつりと言ってしまったアストルを責められる者はいなかった。
精霊でさえ己の主人を庇えなかったのである。
力の強大さがわかっているから、それがどれほど危険なことかわかるので。
が、言われたアレスはムッとしたようだった。
「母上を悪く言うな。母上はわたしのためにと」
「だったらすこしくらい自己制御してくれないかい? きっきのあれはどう贔屓目に見てもきみのやりすぎだよ? 敵だとわかっているならまだしも、風の力を感じたくらいで力を発動させていたら、きみが行く先々でどれほどの人災が起きるか」
事故ではなく人災と言い切ったエルシアに、亜樹も苦い顔をしている。
あのときはとっさのことで頭が回転しなかったが、今になって思えば彼らが無事でよかったと、ほっと胸を撫で下ろすような派手な攻撃だったから。
あれをまともに食らったら助からなかったかもしれない。
「やりずぎ?」
アレスは途端に困ったような顔になった。
言われている意味がわからないと、その端正な顔に書いている。
これは先が思いやられると、三兄第は顔を見合わせ、思わずといった風情でため息をついた。
ファラの説明に納得して、エルシアを振り向いた。
「七回だそうだ」
「君ね、自分のことだろう?」
さすがに呆れたエルシアが嗜めるが、アレスはきょとんとしただけだった。
「無意識だから覚えていないんだ」
これ以上はない迷惑な返答である。
実はエルシアが途方に暮れるところを初めで目撃したのは、一樹も初めてだったのだが。
永く生きている中でエルシアを困らせたのは、アレスが初めてだった。
アレスを相手にしてもはじまらないと思ったのか、エルシアはファラを振り向いて聞いてみた。
「彼はどのくらい滞在しているのかな?」
「さあ? 気が向けば一ヵ月でも二ヵ月でも滞在しているでしょうし、気が変われば明日にでも違うところへ旅立つでしょうね」
「さすがに炎と海の申し子といったところだね」
呆れるしかないとはこのことである。
炎も海もどちらも気まぐれ。
アレスは幼い故に、それをそのまま行動に移す。これ以上迷惑な存在はそうそういないだろう。
だが、同じ神族としてエルシアはアレスを野放しにするつもりになれなかった。
危険極まりない。
蒼海石のピアスを身につけている亜樹と同等か、それ以上に危険な存在だ。
今は亜樹が秘めている力の強さが予測不可能だから、アレスが上の場合もあるかもしれないと思っているだけだが。
亜樹はそれほど常識で推し量れない存在なので。
だが、常識で推し量れないというなら、炎と海の申し子もそうだ。
歴史に名を残していない新たな神族。
直接、女神と海神の血を引いた御曹司。
どれほどの力を秘めているか、想像もできない。
それはさっきの無意識の攻撃が証明している。
風の力を感じただけで無意識に、あれだけの攻撃を仕掛けるのだ。
それ相応の力を秘めているだろう。
制街できなければ、それは武器ではなく、既に凶器。
幼いアレスにそれをどう理解させればいいというのか。
炎の女神、レダを恨みたい心境だった。
炎の精要が加護についていることから、エルシアはアレスを地上に放り出したのは、父である海神、レオニスではなく、母である炎の女神、レダだと見抜いていたので。
厄介事がまた増えた。
それが偽りのないエルシアの感想だった。
亜樹の場合はまだ私情が挟まっていたからいいのだが、無関係の炎と海の申し子をなぜ自分たちが監視しないといけないのか?
ましてや力のコントロールの大切さを教えないといけないのか?
そのくらい母であるレダが教えればよかったのだ。
恨んでなにが悪い? エルシアは内心で、かなり立腹していた。
アレスを育てるのがどのくらい難題か。よく理解していたので。
「仕方がないね。乗り掛かった船だ。私たちがアレスにカのコントロールの方法を教えよう」
「え?」
アストルが驚いて兄を振り返り、リオネスも意外そうに長兄を見た。
「どういう風の吹き回し、兄さん?」
「ふたりともそんな顔をするけれどね。彼がこのまま力のコントロールの方法も知らず、気の向くままに力を使い放題にしていたらどうなると思う?」
「凄く迷惑極まりないかも」
控えめながらも本音を打ち明けたのはアストルだった。
彼の力の凄まじさは攻撃を受け
た者しかわからない。
さっきの攻撃は四人でいたから防げたのだ。
あれをぽんぽんやられたらたまったものではない。自然災害が人災になってしまう。
しかもたまたま力が増幅した一樹が、水に優れていたからあの炎き防げた。
あれだけの竜巻が起こっている中で、あの炎を風で消そうとしたら、最悪の場合、この辺の森は燃え尽きて、ダメになっていたかもしれない。
そんな恐ろしい攻撃を気の向くままに使われたら、まるで歩く天災である。
よくもまあ母であるレダは、彼を外に出したなと思う。
「レダもすこしくらい人間が彼る被害を考えてくれたらいいのに」
ぽつりと言ってしまったアストルを責められる者はいなかった。
精霊でさえ己の主人を庇えなかったのである。
力の強大さがわかっているから、それがどれほど危険なことかわかるので。
が、言われたアレスはムッとしたようだった。
「母上を悪く言うな。母上はわたしのためにと」
「だったらすこしくらい自己制御してくれないかい? きっきのあれはどう贔屓目に見てもきみのやりすぎだよ? 敵だとわかっているならまだしも、風の力を感じたくらいで力を発動させていたら、きみが行く先々でどれほどの人災が起きるか」
事故ではなく人災と言い切ったエルシアに、亜樹も苦い顔をしている。
あのときはとっさのことで頭が回転しなかったが、今になって思えば彼らが無事でよかったと、ほっと胸を撫で下ろすような派手な攻撃だったから。
あれをまともに食らったら助からなかったかもしれない。
「やりずぎ?」
アレスは途端に困ったような顔になった。
言われている意味がわからないと、その端正な顔に書いている。
これは先が思いやられると、三兄第は顔を見合わせ、思わずといった風情でため息をついた。
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