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第九章 邂逅のとき
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そういえば助けたのも条件反射だと言っていた。
深い意味はないのだろうか?
「別に。追われていたのは保護するためで、別に悪いことをしたからじゃない。いや。向こうにとっては悪いことかもしれないけど。今頃はリーンやエルシアたちが青くなってるだろうから。衛兵たちには悪いことをしたな」
「よくわからないがおまえが悪いわけじゃないんだな?」
首を傾げる少年に亜樹の方が首を傾げてしまった。
なんだかものすごくずれている。
なにがって反応が。
なんにも知らない赤ん坊を相手にしているみたいな変な気分だ。
「ところで助けてくれてありがとう」
起き上がってそういうと、少年がはっとしたように眼を見開いた。
亜樹と同じくらい深い黒い瞳が、じっと凝視している。
「なに?」
ビクビクして訊ねると彼の手が髪を撮き上げた。
「蒼い、ピアス」
「あ」
しまった! と思った。
きっと起き上がるときに見えたのだ。
どうしよう。
ピアスをしているのは神族の証で、亜樹が違うと言っても信じてくれるかどうか。
「確かこの宝石は蒼海石」
どうして? とその瞳が問うている。
またまたどこかずれた反応である。
普通もっと騒ぐものじゃないのか?
神族は珍しい存在らしいし。
どうして平然としているのだろう?
それから亜樹も気づいた。
黒い髪の隙間から除く両耳に輝くピアスに。
「あ? あんたもピアスを」
他に言葉にはならなかった。
ただ少年がしているピアスは現存するエルダ神族の自真味ではなかった。
右耳が真紅で左耳が蒼紺。
これもまた珍しい組み合わせである。
それに考えてみれば亜樹や杏樹、それに翔や一樹。異世界からの来訪者を除いて、黒髪に黒い瞳という人種を見るのも初めてだ。
おまけに色違いのピアスをしているなんて、この少年は一体?
お互いに言葉にならず、暫く相手を見つめていた。
「わたしの名前はアレス。お前は?」
「オレ? オレは亜樹」
お互いに名乗ったものの、やっぱり次の行動に移れない。
「どうして片目しかピアスをしていないんだ? 蒼海石のピアスというのも聞いたことがない。母上は教えてくれなかった」
「あんたの。アレスのお母さんって誰?」
「レダ。炎の女神、レダ」
「えっ!」
ぎょっとして叫んだが、アレスはごく真面目な顔をしていた。
嘘を言っている顔じゃない。
その名前は聞いたことがある。
今は失われたレダ神族の母となった炎の女神の名前だ。
湖を司る兄神であるラフィンを夫に迎えた炎の女神で、レダ。
確かにその説明は受けた。
だが、そのレダが母親だって?
確かにそうだとしたら真紅のピアスの説明はつくが、創始の神々のひとりだというレダが、現在も生きている?
なんだか信じられなかった。
「別に疑ってるわけじゃないんだけど、じゃあお父さんは誰?」
「父上? 父上はレオニス」
「まさかとは思うけど海神レオニスだなんで言わないよな?」
おそるおそると言った問いかけに、アレスは不思議そうな顔をした。
「確かに父上は海神だが、なにか変なのか?」
変なのはおまえだっ! 叫びたかったが亜樹は脱力してなにも言えなかった。
言っていることが本当だとしたら、この少年は炎の女神を母に、海神を父に持っていることになる。
だから、片方のピアスは真紅で、片方のピアスは蒼紺なのだ。
炎と海を象徴する色。
しかしそうすると浮気をしたことにならないか? どちらも妻も夫もいる身のはずだけど。
「お前の父上と母上は?」
今度は自分の番とばかりに訊ねてきたアレスに亜樹は答えに詰まった。
「父親は普通の人間だと思うけど」
「母上は?」
「さあ?」
首を傾げる亜樹にアレスも不思議そうに小首を偵げた。
まるで純粋な子供を相手にしているようだ。
「最近になって母さんがどういった生まれなのか、ちょっと自信がなくなってきて、オレには説明できない」
「つまり自分の出自を知らない? 片耳だけのピアスの意味も?」
こくんと頷くとアレスは、なにかを考え込む目の色になった。
深い意味はないのだろうか?
「別に。追われていたのは保護するためで、別に悪いことをしたからじゃない。いや。向こうにとっては悪いことかもしれないけど。今頃はリーンやエルシアたちが青くなってるだろうから。衛兵たちには悪いことをしたな」
「よくわからないがおまえが悪いわけじゃないんだな?」
首を傾げる少年に亜樹の方が首を傾げてしまった。
なんだかものすごくずれている。
なにがって反応が。
なんにも知らない赤ん坊を相手にしているみたいな変な気分だ。
「ところで助けてくれてありがとう」
起き上がってそういうと、少年がはっとしたように眼を見開いた。
亜樹と同じくらい深い黒い瞳が、じっと凝視している。
「なに?」
ビクビクして訊ねると彼の手が髪を撮き上げた。
「蒼い、ピアス」
「あ」
しまった! と思った。
きっと起き上がるときに見えたのだ。
どうしよう。
ピアスをしているのは神族の証で、亜樹が違うと言っても信じてくれるかどうか。
「確かこの宝石は蒼海石」
どうして? とその瞳が問うている。
またまたどこかずれた反応である。
普通もっと騒ぐものじゃないのか?
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どうして平然としているのだろう?
それから亜樹も気づいた。
黒い髪の隙間から除く両耳に輝くピアスに。
「あ? あんたもピアスを」
他に言葉にはならなかった。
ただ少年がしているピアスは現存するエルダ神族の自真味ではなかった。
右耳が真紅で左耳が蒼紺。
これもまた珍しい組み合わせである。
それに考えてみれば亜樹や杏樹、それに翔や一樹。異世界からの来訪者を除いて、黒髪に黒い瞳という人種を見るのも初めてだ。
おまけに色違いのピアスをしているなんて、この少年は一体?
お互いに言葉にならず、暫く相手を見つめていた。
「わたしの名前はアレス。お前は?」
「オレ? オレは亜樹」
お互いに名乗ったものの、やっぱり次の行動に移れない。
「どうして片目しかピアスをしていないんだ? 蒼海石のピアスというのも聞いたことがない。母上は教えてくれなかった」
「あんたの。アレスのお母さんって誰?」
「レダ。炎の女神、レダ」
「えっ!」
ぎょっとして叫んだが、アレスはごく真面目な顔をしていた。
嘘を言っている顔じゃない。
その名前は聞いたことがある。
今は失われたレダ神族の母となった炎の女神の名前だ。
湖を司る兄神であるラフィンを夫に迎えた炎の女神で、レダ。
確かにその説明は受けた。
だが、そのレダが母親だって?
確かにそうだとしたら真紅のピアスの説明はつくが、創始の神々のひとりだというレダが、現在も生きている?
なんだか信じられなかった。
「別に疑ってるわけじゃないんだけど、じゃあお父さんは誰?」
「父上? 父上はレオニス」
「まさかとは思うけど海神レオニスだなんで言わないよな?」
おそるおそると言った問いかけに、アレスは不思議そうな顔をした。
「確かに父上は海神だが、なにか変なのか?」
変なのはおまえだっ! 叫びたかったが亜樹は脱力してなにも言えなかった。
言っていることが本当だとしたら、この少年は炎の女神を母に、海神を父に持っていることになる。
だから、片方のピアスは真紅で、片方のピアスは蒼紺なのだ。
炎と海を象徴する色。
しかしそうすると浮気をしたことにならないか? どちらも妻も夫もいる身のはずだけど。
「お前の父上と母上は?」
今度は自分の番とばかりに訊ねてきたアレスに亜樹は答えに詰まった。
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「母上は?」
「さあ?」
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まるで純粋な子供を相手にしているようだ。
「最近になって母さんがどういった生まれなのか、ちょっと自信がなくなってきて、オレには説明できない」
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