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第九章 邂逅のとき

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 リーンは苦い表情をしていたが、言い訳は口にしなかった。

 勿論彼に亜樹の保護を任された衛兵たちは、身を縮めている。

 なにしろ相手は守護神族が身柄を預かることが決定していた特別な客人なのだ。

 世継ぎの王子の怒りも怖かったが、それ以上に気まぐれと噂される守護神族の怒りを買うことが怖かった。

 なにしろこの場には全員集合とばかりに、長のエルシアをはじめとして、彼のふたりの弟たちまで集まっていたので。

「こんなことならはじめからボクらが探していればよかったね。亜樹の黒髪は目立つから空から探せば簡単に見つかったのに」

 肩を竦めてそう言ったのはリオネスである。

 余裕があるのは必ず見つけてみせるという自信からだろうか。

 亜樹を。

 このまま亜樹を見逃すつもりなど、リオネスにはなかった。

 それはふたりの兄たちの意見でもあるだろう。

「仕方がない。今から亜樹を捜し出そう。蒼海石のピアスが発する気を追っていけば、自然と亜樹に辿り着けるはずだから」

「こうなると亜樹が蒼海石のピアスを、自分では封じることも隠すこともできないのが救いですね。ぼくらのように自分の意思で自由になったら、下手をしたら気配を完全に断たれたでしょうから」

 神族はその力も気配も、すべてピアスに由来する。

 亜樹が神族かどうかはまだ不明だが、同じ特徴を宿しているのは明白で、それが亜樹を捜索する際の手掛かりとなる。

「それにしても」

 いきなりリーンが口を開いて一樹をはじめとして、翔や杏樹を含む全員が彼を見た。

「亜樹は王都には詳しくないはずだ。一体どうやって逃げおおせたんだ? あれだけの数の衛兵を振り切るなんて」

「だれかが亜樹を助けたのかな?」

 リオネスの指摘も答える言葉がなかった。

「とにかく急いで捜し出そう。私も不安になってきたからね」

 エルシアの言葉で亜樹捜索隊がその場で結成された。

 リーンは自分も探すと言ったのだが、残念ながら実現できなかった。

 世継ぎの王子をひとりで出せないと、衛兵たちに止められたせいである。

 悔しそうに見送るリーンに手を振って、エルシアたち守護神族の三兄弟と、その養子同然の一樹の四人が、亜樹の気配を追って首都へと向かったのだった。




 目覚めたのはどこかの森の中だった。

 額に手が触れて目が覚めたのである。

 顔をき込んでいたのは、街中で助けてくれた黒髪の少年だった。

 宿に逃げたりしなかったのは、亜樹を追いかけていたのが、この国の兵士だと気づいたからか。

 だとしたらなにを言われるのだろう?

「随分とぐったりしていたが平気なのか?」

 よく通る声でそう言われ、亜樹はちょっと面食らった。

 もっとこうなにか事情を訊いてくるとか。

 詰問めいたものを想像していたので。

「平気だよ。走りすぎで疲れただけだから」

「そうか。ところで誰に追われていたんだ? 条件反射的に助けてしまったが、なにか悪さでもしたのか?」

 兵士に追われている人間を見て、悪さをしたのか? はないだろう。

 普通ならなにをやったんだと訊ねるはずだ。

 なんとなくなく浮世離れした少年である。
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