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第九章 邂逅のとき
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しおりを挟む第九章 邂逅のとき
亜樹は必死になって逃げていた。
明日にはエルダ山に連行されると聞いて、せめて今日くらい自由にさせてほしいと言ったのだが、そうしたらリーンをはじめとして、すべての者が過保護な反応を見せたのだ。
まずリーンが首都に行くなら護衛をつけると言いだして、それに対抗するようにリオネスも同行すると言いだした。
それだけでも頭が痛いのに、エルシアたちまで面白そうだから行ってみると言ったのだ。
亜樹は貴族のお忍びじゃない!
と怒鳴ったが、誰も聞いてはいなかった。
イライラがムカムカに変わるまで、大して時間はかからなかった。
身が軽く験足であることを利用して、人々の目を盗んで抜け出したのだが、当然だが追手がかかった。
まるで犯罪者である。
「なんでこうなるんだよぉ?」
亜樹は泣き言を吐きながら、人込みを掻き分けて逃げていた。
リーン・フィールド公国はどうやら完全なな白人種らしく亜樹の黒髪は、いるだけで目立っている。
それが目印となり、人々は追いかけているらしかった。
首都を眺めて遊ぶなんて余裕はない。
どうして逃げているのかすら怪しくなってきた。
自由をくれよっ!!
亜樹の心の叫びである。
明日から厳しい訓練に耐えなければならないのなら尚更だ。すこしぐらいひとりにしてくれてもいいだろうに。
エルシアたちがまだ動いていないことが、亜樹の救いだった。
守護神族であり翼を彼らが動きだしたら、絶対に空から探すに決まっているのだ。
守護神族のことを知らない公国人などいるわけないので、エルシアたちが目立たないわけがなく、亜樹を追いかけていることがわかったら、たちまち見せ物と化してします。
「どこへ逃げればいいんだ?」
そろそろ方向感覚も怪しくなってきた。
逃げ回りすぎて自分がどこにいるのかもわからない。
帰れば絶対にお小言の嵐だろうが、今はそういうことを考えている余裕すらなかった。
ちょうどそのときだった。
誰かに二の腕を掴まれたのは。
「え?」
見上げて驚いた。
そこにあったのは久しく見ていない黒髪に黒い瞳だったのだから。
リーンやエルシアとも互角といえるくらいの美少年である。
歳のころは十七、八といったところだろうか。
すらりとした長身でスタイルも抜群だった。
だが、見慣れない格好をしている。
少なくとも公国の人間ではないだろう。
「追われているのか?」
「う、うん」
「じゃあ、こっちだ」
どういう意図かはわからないが助けてくれるらしい。
亜樹もどうしようか迷ったが、声が聞こえてきたので焼てて彼に従った。
少年は恐ろしいほどの駿足だった。
走るのが速いと言われてきた亜樹でさえついていくのでやっとである。
息を切らせてゼイゼイ言っている亜樹に気づいたのか、ふと振り返ると黙ってしゃがみ込んだ。
「な・•・なに?」
膝に手を当てて呼吸を整えながらそう言うと、彼は一言だけ言った。
「おぶされ。逃げるから」
「でも」
「お前の速度に合わせていたら逃げられないんだ」
一言だけ言われて諦めた。
なにも考えている余格がなかったというのが本音なのだが。
亜樹が黙って背中に寄りかかると、立ち上がった少年がぽつりと呟いた。
「軽いな」
放っておけっ! と思ったが、助けてくれるのだと思ったら、亜樹は知らず知らず身体から力が抜けていく。
安堵から気が遠くなっていった。
だから、この後のことはなにも知らない。
「亜樹を見失ったっ? 冗談じゃねえっ! なにやってたんだよ、アディールッ! お前が首都なら捕まえられるって言ったから任せてたのにっ!」
世継ぎの王子に対して喧々買々と食ってかかっているのは当然のことながら一樹である。
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