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第八章 伝説の彼方に

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『それとね。人間界に行くあなたに頼みたいことがあるの』

『なんでしょう?』

『旅を続けながらでいいから、大賢者と呼ばれた異端の神の正体を探ってほしいの』

『大腎者の正体?』

『大賢者に関してはわたしたちにもわからないことだらけなのよ。その出生も謎。その行く末も謎。わかっていることはなにもないの。わかっているのは大賢者と呼ばれた異端の存在が、わたしたちをも越える力を持っていたということだけ。大買者がどうやって現れどこに消えたのか、わたしたちはそれを知りたいの。お願いできるかしら?』

『わかりました。できるかどうかはわからないけれどやってみます』

『もし』

『はい?』

『もし大賢者と人々の祈りが繋がっていたら、そのときは早くすこしでも早くわたしたちに知らせて。
そのときは直接、わたしたらが動くから』

『風神エルダさまもですか?』

 ぎょっとして訊ねるとレダは「もちろんよ」と頷く。

『大賢者と人々の希望が繋がっているなら、おそらくそこには水神マルスも関わっているはずよ。見逃せる事態ではないわ。今の状態で水神が欠けているのはあまりにも痛いのよ』

 水袖マルスの行方を、一番掴みたがっているのは、兄弟たちだとファラは初めて知った。

 普段気にしている素振りを見せないから、特に気にしていないのだと勘違いしていた。

 その力の強さを思えばマルスの行方を気にしていないわけがないのに。

『本当に困った御方だわ』

 それがファラが聞いたレダの最後の言葉だった。

 あれから半年。

 ファラは一度もレダと逢っていない。

 頼まれたことに進展がなかったこともあったし、アレスの守護に追われていたということもあるのだが。

 とにかくアレスはなにを突然しでかすかわからないところがあったから、慣れるまでは気を抜けなくて、レダと連絡を取るどころではなかったのだ。

 だが、どうやらレダの予言が現実となるときがきたようだった。

 アレスは自分から風神エルダの末裔に近づいている。

 それがなにを招くかわからない。

 せめてアレスがエルダの子供だちに逢う前に捕まえられたらいいと、ファラは祈るような気持ちでそう思った。

 風の結界が邪魔をして、力が使えないのを悔しがりながら。

 内心で炎を抑え込むほど強く風を制御している長の三兄常に感心していたのだが。

 それだけ彼らの力が強いことを意味するから。

「運命が動きだす前に、アレスを捕まえないと」

 彼はまだ生まれて一年の子供なのだから。
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