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第八章 伝説の彼方に
(10)
しおりを挟むアレスの性格からして、一度行くと言った以上、絶対に公国の首都を目指しているはずだ。
だったら後を追いかけるしかない。
「精霊たちの間で流される噂によると、今のエルダ神族の長の直系たちは、みんな先祖返りした異端児だと聞いているわ。もしかしたら歴史が動きはじめているのかもしれないわね」
自分がアレスを護るように、おそらくエルダ神族の長の直系たちにも、それぞれに重責が課せられているはず。
世界は転機を迎えている。
アレスの誕生を知りその守護を任されてから、ファラが感じはじめていることだった。
創始の神々は消えたわけではない。
精輩たちは今でも自らを加護する母なる神とは逢えるのだから。
例えば炎の精題、ファラのような立場だと炎の女神、レダに逢える。
レダは伝説と全く変わらない姿をした苛烈の気性を持った女性だった。
燃えるような赤毛と、炎そのものの瞳が印象的な。
他の神々は知らないが、おそらく己が司るものの影響を受けた容姿をしているのだろう。
ただ毎年、年を追うごとに精霊の数も減ってきているし、神々の力も弱ってきているようだった。
信仰の衰えが原因だと母なるレダはそう言っていたが。
だから、ある意味でアレスの存在は、現状を覆すための切り礼に近かった。
自分からは動けなくなってしまった創始の神々。
その神々が一堂に会し、始まった計画。
それがアレスの存在する意味。
ただ気掛かりなのはアレスの守護を託したときのレダの言葉。
『あの子は生まれたばかりの幼子。でも、今の世界にとってあの子は紛れもなく異端。護ってほしいのよ、ファラ』
そう言って気掛かりそうなため息をついた。
『ただあの子はわたしたちの希望であって、人間にとっての希望ではないわ。わたしたちの力の源が、人間たちの信仰であることを思うと、あの子の出生を明かすことでしか、おそらく人々はあの子の存在を認めないでしょうしね。
そうなると信仰を集めるのは不可能に近いわ。でも、神々に力を与えるほど強い人々の祈りがなにも生み出さないはずがないのよ。ファラ。あの子を見守って守護を続けながら、探してほしいの。人間が望んだ希望を』
レダがそう頼んできたので、ファラは恐れ多いことと知りながらも訊いてみた。
『人間の希望? それがアレスさまとどんな関係があるんですか?』
『わからないわ。ただわたしたちの希望であるアレスと、人間の希望が重なるようなことがあれば、きっとなにかが起こる』
『人間の希望もまた人だと?』
問い掛ける声にレダは小首を傾げてみせた。
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