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第八章 伝説の彼方に
(7)
しおりを挟むどのくらいの強さの力かは知らないが、それは一樹にも当て嵌まるのだ。
一樹はエルシアたちエルダ神族たちの下で、力の訓練に励んでいたと打ち明けたことがあったから。
「一樹もそうだったのか?」
「そうだな。ちょっとは辛かったかな? でも、元の世界に戻るためだと思えば我慢も出来たけどな。
エルシアたちが怖かったら護ってやるから、亜樹はよけいなことは考えるなよ。亜樹の力が制御不能で、そのせいで無関係な人を大勢巻き込んで怪我をさせたり、最悪、殺したりする方が、亜樹には耐えられないだろ?」
ぞっとするようなことを言われて、亜樹はまた絶句した。
力を制御できないとはそういう意味かと、今更のように納得する。
「それとエルシアたちは守護神族だから、時には思いがけない事態に遭遇することもあるかもしれない。この国を護るためにあの三人は全力を注いでいるから。それに」
「それに?」
「これはまだ確認されたわけじゃねえんだけど、どうも魔族がいるみたいなんだ」
「複数の神族の血を引くという?」
驚いた亜樹に一樹はちょっと暗い顔で頷いた。
「まだはっきり断言できる段階じゃねえけど。どうやらかなり強大な神力を持ってるみたいなんだ」
「それ魔族としては異端なんじゃ?」
「まあな。それに複数の神族の血を引く魔族が現存してるってだけでもかなり価値のあることだ。神族そのものが絶えてきてるから。どうして生き残ることができたのか、エルシアたちはそれを知りたがってる。それに混血の魔族が現存してるってことは、もしかしたらどこかに他の神族もひっそりと生きている可能性もある。エルシアをちは自分たち以外の神族が生き残っているかどうか、それをとても知りたがっているんだ」
それも無理もないと思う。
混血児でも神力を受け継げるのなら、他の神族が生きていたら、生き残る道はまだ残されていることを意味するから。
一樹の説明によるとエルシアたちが亜樹に眼をつけたのも、亜樹にそういう力があって、尚且つピアスをしていることが切っ掛けらしいし。
それだけ種としての限界に近づいていて、生き残ることに必死なのだとわかる。
「もしオレがエルシアたちの誰かを選んだとしても、その程度のことで滅びから救えるのかな?」
ふと漏れた疑問だった。
エルシアたちは彼らなりに真剣だと理解したせいだろう。
自分の性別がどうだとか、そういうことは意識していなかった。
一樹はどう答えようか迷った。
現実的な意味で答えると可能だ。
亜樹にはそれだけの可能性が秘められている。
というより滅びから救うことこそが、亜樹の使命とも言えるものなのだから当然の結果なのだ。
亜樹がエルシアたちの中から、誰かを選んだとしたら、やがて亜樹が子供を産み、その子供が残りの兄弟の子供と結婚したり、もしくは一族の者と結婚したりして子孫を増やしていくことで、亜樹の力の恩恵が、エルダ神族すべてに浸透していく。
その結果として力は増幅され、エルダ神族はかつての活力を取り戻し、生命力に溢れた一族へと変わるだろう。
亜樹は自分の血と力に、それだけの価値があると、全く気づいていないのだ。
また一樹からそれを打ち明けるようなつもりもなかったけれど。
「この世界に足りないのは人々の信仰と絶対的な希望」
「信仰。希望?」
「この世界を構成しているのは、神族や創世の神々に対する人間たちの純粋な信仰の力なんだけど今神族は風神エルダの末裔を残し絶えてしまって、人々は信仰を向けるべき相手を失ってしまつている。それが世界から活力を奪ってしまっているんだ。信仰を集めるには、絶対的な希望が必要。それはわかるだろ?」
「なんとなく。新興宗教なんかでも、教祖が居て初めて成り立つものだし。信仰って象徴となるべき者がいないと意味がないよな」
「そういうこと。一番いいのはエルダ神族が、絶対的な希望を人々が、これからの未来に黎明を見出せるほどの希望を証明して見せること。そのために必要なのはカリスマを備えた絶対的な救世主。だから、亜樹がエルシアたちのアプローチに対して、どういう感想を抱いたとしても、現実的には大した意味はねえよ」
半分は嘘で半分は真実だった。
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