上 下
41 / 109
第八章 伝説の彼方に

(5)

しおりを挟む
「リーン。君は認めたくないだろうけど聞いた通りなんだ。諦めてくれないかい?
 亜樹のためにも、彼には私たちの部落にきてもらうよ。そうしてそこで力のコントロールを覚えて
もらう。わかるね?」

 問われてもリーンは暫くの間答えなかった。

 認めればエルシアたちはすぐにでも亜樹を連れて戻るだろう。

 そうしたら簡単には逢えなくなる。

 エルダ山の頂上付近に彼らの屋敷はあって、リーンには訪ねる方法がないからだ。

 力のコントロールの訓練が避けられないなら、せめて頻繁に逢えるようにはしたい。

 リーンにとって亜樹は時別だから、その意味を知りたい。

 どうして特別なのか。

 なぜこんなにも胸が騒ぐのか。
 
 その意味を知りたいから。

「一週間交代で亜樹を宮殿に連れてくるなら認める」

 淡々と口にされたわがままに、エルシアたちが呆れた顔になる。

 これには一樹も姉のイヴも呆れていた。

 ここまで我を通すとはある意味すごいことである。

「リーン。あまり無茶を言ってエルシアさまたちを困らせないであげて」

「姉上。これがわたし個人のわがままだということは百も承知しています。でも、初めてを興味を持てた相手なんです。もっと知り合いたいと思っていたのに、エルスたちに引き渡したら、簡単には逢えなくなってしまいます。わたしはそんな事態にしたくないだけなんです」

 厳密に言えばリーンになら逢いに行くことは可能だ。

 それを厭っているリーンが、実行に移すとは思えないが。

 進退極まったリーンの、これが最後の抵抗なのだろう。

 自分を納得させるために出した妥協案。

 暫く呆れていたエルシアだが、可愛いリーンのわがままとあっては、無視するのも躊躇われた。

「仕方がないね。一週間ごとに彼の身柄を移動させるということで妥協しよう」

 その言葉に思わずほっとしたリーンだったが、続いた言葉に恨めしそうな顔になってしまった。

「その代わり彼が滞在している間は、私たちも滞在するからね?」

 念を押されてブスっとしてしまうリーンだった。

 勿論わがままを認めてもらった後だけに文句も言えないのだが。

 亜樹は自分がどうなるのか全く想像していない。

 彼に内密に話し合いを進めたのは悪かったかな? と、リーンにしては珍しく他者の気持ちを考えるようなことを考えていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

魔王軍を追放されたから人間側につくことにした

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:52

私の目の前で繰り広げらる妻と甥の激しい情事、そして私は…

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:96

最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

BL / 完結 24h.ポイント:1,121pt お気に入り:1,306

秘密の冒険者クエスト

BL / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:33

先輩のことが好きです

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

あなたの運命の人に逢わせてあげます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:90

リオ・プレンダーガストはラスボスである

BL / 連載中 24h.ポイント:26,029pt お気に入り:1,368

とある大学生の遅過ぎた初恋

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:182

処理中です...