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第八章 伝説の彼方に

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「難しいところだな。暴走した時点で亜樹はそのことに気づくだろうし、気付いたら、なんとか抑え込もうとするすだ。
 コントロールを覚えていたせいで、多分なんとか抑え込むことには成功すると思う。
 だけど、荒れ狂う力をを亜樹が身の内に封じたら、亜樹はとんでもない状態になる。自殺行為だぜ」

「それはそれで困るね」

 リオネスの意見にはふたりの兄たちも同意しているらしかった。

 彼らが困ると思っているのは、亜樹に想いを寄せているからだろう。

 亜樹が傷付くような事態を歓迎できるはずがない。

「暴走しないようにするには、どうすればいいの?」

 不意にリオネスがそう訊いて、この場にいた者はみな、亜樹の力が暴走するという前提ではなしていたことに気がついた。

 そうだ。
 
 根本的な問題解決として、亜樹の力が暴走することのないように努力すると言う方法があるのだ。

「基本的に感情が臨界点を超えないようにすることかな?」

「曖昧だね」

「仕方ねえだろ? 力が暴走するってことは、つまり感情が高ぶっているということ。防ぐためには逆の姿勢。つまり亜樹が感情を昂らせずにせずにすむようしかないんだ」

「つまりこういうことだね? 亜樹の力の舞走もコントロールも、すべて彼の精神的な波が影響すると」

 エルシアの確認に一樹は無言で頷いた。

「だったらやっぱり力のコントロールは必然だね。力をコントロールするということは、感情をコントロールするということだからね。一樹も覚えているだろう? 小さい頃、駄々をこねて、力を暴走させたとき、私たちに叱られたことは」

 嫌な話題を出されて一樹は黙秘した。

 カのコントロールは裏返せば、感情を制御できるように訓練するという意味だ。

 確かに小さい頃と、大きくなってからを見比べると、感情を制御できるようになってからの方が力のコントロールは楽だった。

 精神を鍛えるという意味でも、力のコントロールは欠かせないだろう。

 ただ一樹は言える範囲のことしか口に出さず、後は演技してごまかすという一面を秘めているため、みんなの質問には正確に答えていない面もあった。

 例えば亜樹が力を暴走させたとき。 

 最悪の事態でないかぎり、一樹がいればなんとか被害を縮小させ、亜樹を正気に引き戻すことができるだろう。

 エルシアたちには言えないが、本当の最悪の事態とは、亜樹が一樹の存在を拒絶すること。

 そこまでいってしまったら、もう後はどんな手を打っても無駄だ。

 亜樹の力は衰えるということがないし、限界が来ることもないので、暴走は世界を破滅に追い込めまで止まらない。

 それ以外の事態なら一樹になんとかできるのである。

 が、今そういうことを教えると不自然なので、一樹はその点については触れなかったのだった。

 それにもし亜樹が力を暴走させ、一樹がそれを止めても、普通はそれまでに生じた被害というものが付きものだが、これについても心配する必要はないと一樹は知っていた。

 これも言えばややこしいことになると思ったので、独断で伏せている。

 そういうことを感じ取らせないという意味では、一樹も結構な食わせ者かもしれない。

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