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第八章 伝説の彼方に
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「亜樹の力の封印と解放は、一樹たちの意思で自由になるということだった。だったらそれほど悲観することはないだろう?」
ひとり壁に背中を預けて傍観していた一樹は、いきなり当事者として引き込まれて、深いため息を漏らした。
リーンがこれだけ強情を張るのも珍しい。
それもエルシアたちに対抗するためではなく、自分のために。
「言葉に語弊があるようだね。一樹の説明を信じるなら、彼らの自由になるのではなく、封印を司っているというだけのことだよ」
そうなのかとリーンに視線を向けられて、一樹は肩を疎めてみせる。
「おれの意思ではどうにもできないし、敢えて言うなら兄貴の意思でもどうにもならない。言っただろ? 封印しているのは無意識だし自覚したら封印は解かれると。つまりおれたちの自由にはならないんだ。ただ単に亜樹の力を封印するには兄貴の助力が必要で、ま
た解放させるときにも兄貴が絡んでくる。それだけのことなんだ」
「じゃあ景体的にどういう事態になると、亜樹の封印は解かれるんだ? 解かれたとき一体どんな事態になるんだ?」
まだ食い下がるリーンに一樹は呆れながらも、彼が納得できるように根気よく付き合ってやった。
「封印が解かれる具体的な事態の説明はできない。ただそれは運命的な流れに従って、時が訪れたときに解かれる、とだけ言っておく」
「それは定められた時がこないかぎり、彼の封印は解かれないといろ意味かい?」
エルシアに痛いところを突かれて、一樹が仏頂面になる。
「最悪のパターンも勿論あるぜ?」
「どんな?」
面白そうに割り込んできたリオネスに、一樹はちょっとムッとした。
彼とのやり取りを思い出したからだ。
勿論だからといって喧嘩を売ったり、わざとこの場でごまかしたりなんて、子供じみた真似はしないが。
「定められた時がきて自然と解かれた封印なら、受け入れる亜樹の負担はかなりのものだろうけどな。
周囲にはそれほどの心配はない。怖いのは時がきていないのに、なんらかの理由で、亜樹の力が暴走してしまうことだ」
イヴ・ロザリアを含むすべての者が、苦い表情で一樹を見ていた。
それは亜樹の力の解放が、完全には安全を保証できないことを意味するから。
「兄貴が亜樹の力を封印してるって言ったよな? その押えつける力より、そういう予想外の事態で引き起こされた亜樹の力の暴走の方が強かったら、兄貴にも御しきれない。つまり亜樹が暴走したら、誰にも止められないって意味なんだ」
「もし万が一そういう事態になったらどうなるんだい?」
長い銀髪を物憂げに掻き上げて、エルシアが気怠そうに訊ねる。
その姿は嫌味なほど絵になった。
「私たちの結界をも破壊するほどの威力を発揮するのかな?」
自虐的な響きが篭っていたが、それほど自分を卑下しているわけでもないらしい。
こういうエルシアの懐の深さは、一樹も素直に彼の長所だなと思えるのだが。
エルシアたち三兄弟の最大の長所は、どれほどの力を持っていても自慢して、ふんぞり返ったり、
もしくは自惚れて天狗になったりしない点にあった。
自分たらより力が上の者が現れたら冷静に分析して、それに対抗して手段を考える。
そういうタイプなのである。
完璧ではないと認める強さを、エルシアたちは持っていた。
それは神族として生まれ育った過程を思えば異端的な特徴である。
一樹はエルシアたち以外の神族は知らないが、神族はその力の強さを誇りとしているし、それに対する自信もかなりのものだ。
神族であるということに価値を見出す、それも長の家系の彼らが、自惚れることなく上には上がいると認められる強さは、一樹も認めるところだった。
その割に人を揶揄って遊ぶ悪い癖があるが。
ひとり壁に背中を預けて傍観していた一樹は、いきなり当事者として引き込まれて、深いため息を漏らした。
リーンがこれだけ強情を張るのも珍しい。
それもエルシアたちに対抗するためではなく、自分のために。
「言葉に語弊があるようだね。一樹の説明を信じるなら、彼らの自由になるのではなく、封印を司っているというだけのことだよ」
そうなのかとリーンに視線を向けられて、一樹は肩を疎めてみせる。
「おれの意思ではどうにもできないし、敢えて言うなら兄貴の意思でもどうにもならない。言っただろ? 封印しているのは無意識だし自覚したら封印は解かれると。つまりおれたちの自由にはならないんだ。ただ単に亜樹の力を封印するには兄貴の助力が必要で、ま
た解放させるときにも兄貴が絡んでくる。それだけのことなんだ」
「じゃあ景体的にどういう事態になると、亜樹の封印は解かれるんだ? 解かれたとき一体どんな事態になるんだ?」
まだ食い下がるリーンに一樹は呆れながらも、彼が納得できるように根気よく付き合ってやった。
「封印が解かれる具体的な事態の説明はできない。ただそれは運命的な流れに従って、時が訪れたときに解かれる、とだけ言っておく」
「それは定められた時がこないかぎり、彼の封印は解かれないといろ意味かい?」
エルシアに痛いところを突かれて、一樹が仏頂面になる。
「最悪のパターンも勿論あるぜ?」
「どんな?」
面白そうに割り込んできたリオネスに、一樹はちょっとムッとした。
彼とのやり取りを思い出したからだ。
勿論だからといって喧嘩を売ったり、わざとこの場でごまかしたりなんて、子供じみた真似はしないが。
「定められた時がきて自然と解かれた封印なら、受け入れる亜樹の負担はかなりのものだろうけどな。
周囲にはそれほどの心配はない。怖いのは時がきていないのに、なんらかの理由で、亜樹の力が暴走してしまうことだ」
イヴ・ロザリアを含むすべての者が、苦い表情で一樹を見ていた。
それは亜樹の力の解放が、完全には安全を保証できないことを意味するから。
「兄貴が亜樹の力を封印してるって言ったよな? その押えつける力より、そういう予想外の事態で引き起こされた亜樹の力の暴走の方が強かったら、兄貴にも御しきれない。つまり亜樹が暴走したら、誰にも止められないって意味なんだ」
「もし万が一そういう事態になったらどうなるんだい?」
長い銀髪を物憂げに掻き上げて、エルシアが気怠そうに訊ねる。
その姿は嫌味なほど絵になった。
「私たちの結界をも破壊するほどの威力を発揮するのかな?」
自虐的な響きが篭っていたが、それほど自分を卑下しているわけでもないらしい。
こういうエルシアの懐の深さは、一樹も素直に彼の長所だなと思えるのだが。
エルシアたち三兄弟の最大の長所は、どれほどの力を持っていても自慢して、ふんぞり返ったり、
もしくは自惚れて天狗になったりしない点にあった。
自分たらより力が上の者が現れたら冷静に分析して、それに対抗して手段を考える。
そういうタイプなのである。
完璧ではないと認める強さを、エルシアたちは持っていた。
それは神族として生まれ育った過程を思えば異端的な特徴である。
一樹はエルシアたち以外の神族は知らないが、神族はその力の強さを誇りとしているし、それに対する自信もかなりのものだ。
神族であるということに価値を見出す、それも長の家系の彼らが、自惚れることなく上には上がいると認められる強さは、一樹も認めるところだった。
その割に人を揶揄って遊ぶ悪い癖があるが。
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