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第八章 伝説の彼方に
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しおりを挟む第十章 伝説の彼方に
「だからね、リーン。何度も言っているようだけど、彼は神族の領域なんだよ? きみの手に負える
相手じゃない。もう強情を張るのはやめてくれないかな?」
もう何度目になるのかわからない説得を、エルシアは口にしながら多少うんざりしていた。
リーンがエルシアたちの意見に対抗してくるのは、なにもこれが初めてじゃない。
それどころか日常茶飯事といってもいいくらいには何度もあった。
だが、何度かの会議を繰り返していく中で、リーンは正当な意見には耳を傾けてくれた。
今回のようにガンとして嫌だと言い張ったことなど、過去に実例はない。
なにしろ彼の泣きどころである、姉姫のイヴ・ロザリアに嗜められても、リーンの頑なな態度が崩れないのだから相当なものだ。
-
「どうしてわからないかな? これはあくまでも仮定だけどね。もし万が一この宮殿に彼を置いておいて、彼の力が覚醒するようなことがあったら、どうなると思う?」
アストルも少々辟易した素振りで割り込んできた。
話し合いはさっきから全然進展していない。
なにを言われてもリーンが「嫌だ。認めない」を繰り返しているせいである。
同じ説得を口に出すのも何度目か、誰もが数えるのをやめていた。
これでうんざりするなと言われても無理だ。
元凶たるリーンは相変わらず無表情だったが、どこか憮然としているようにも見える。
彼は彼でうんざりしているらしい。
思っている理由は百八十度違っているだろうが。
「この宮殿にはぼくらが結界をかけている。その強さには自信を持てるけど、正直なところ、蒼海石のピアスが秘める魔力は底知れない」
「私たちが身につけているエルダ神族である証の自真珠には、宝石自体に魔力はない。それは知っているだろう? それでも神族が証として身に付けたとき、大きさや形、色など条件があるにしても、途方もない強大な力を発揮できる」
そういう意味ではエルシアたちは最強である。
彼らほどの大きさの白真珠を身に付けている神族はいないし、また色も綺麗な混じり気無しの純白だった。
それだけ発揮できる力が強大なことの証明になるのだが。
「でもね、リーン。亜樹が身に付けているピアスは、よりによって蒼海石なんだよ? ボクらにもその封印が解かれたとき、一体どんな事態になるのかは予測できない。最悪の場合だとね? この宮殿が跡形もなく吹き飛んでしまったり、もしくは消滅してしまったり。そういう事態もあり得るんだよ?」
柔らかな口調でリオネスに諭され、リーンは仏頂面になる。
僅かな変化なのだが、この場にいる者は、彼の感情を読み取ることは得意だったので、リーンが不機嫌になったのは見て取れた。
誰からともなくため息が漏れる。
「エルスたちの張った結界は、それほど頼りないのか? どんな攻撃からも守り抜くと豪語していたのではなかったか?」
ムッとしたような反論にエルシアは苦笑する。
「これが普通の事態なら自信を持ってそう言えるよ。でも、何分にも前例のないことだから、今度ばかりは私にも保証はできない。蒼海石のピアスなんて前例がないし、それ以前に蒼海石自体が秘める魔力も、相当なものだからね。相乗効果でどれだけの力が発揮されるか、私にも予測できないよ」
はっきりと言い切られて、答えに詰まった。
世継ぎの王子としてなら、エルシアたちに同意するべきだと、リーンにだってわかっている。
わざわざ危険な道を選ぶなんて君主としては恥ずべきこと。
己の使命を思い出せば、自然と選ぶべき道は決まってくる。
だが、亜樹が傍から居なくなるのは嫌だった。
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