弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第七章 双子の光と影

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 女の子というのは末恐ろしい存在だ。

 まるで小悪魔。

「亜樹ちゃんは今ねえ、ある意味で隙だらけなんだよね」

「隙だらけ?」

 意外な言葉だった。

 今の亜樹ほど警戒している者はいないと思うのだが?

「見ていればわかることだけど、あのエルダ神族の三兄弟ね。あの人たちってどうも拒絶されたりして、素直に受け入れない相手ほど燃えるタチみたいなんだよね」

 そこまで深読みしているとは、女の子は本当に恐ろしい。

「だから、今の亜樹ちゃんみたいに警戒心でガチガチになって、見かけただけで威嚇するような態度は逆効果だと思う」

「なるほど‥‥‥」

 だから、隙だらけ、なわけか。

 確かに狙っている相手の好む態度を見せているなら、そう言われても無理はない。

 自分を窮地に追い込んでいるわけだから。

「それと周囲に対して見えないバリヤーを張っていて警戒しまくっているから、逆に警戒対象じゃないと思った相手には、心を許している傾向もあるし」

 このときは杏樹がなにを言いたいのかわからなかった。

 それが弟の一樹を意味しているということに。

「エルダ神族の兄弟に関しては、あたしもよくわからないけど、でも、一筋縄ではいかない相手っていうのは確かだよね。だから、亜樹ちゃんがあんまり刺激して、本気にさせないといいのにと思ってるけど‥‥‥」

「それって彼らを拒絶したりして、逆らってみせるのは逆効果で、彼らを本気にさせるだけだ
って言いたいのかな?」

 苦い気分で訊ねると杏樹は「うん」と頷いた。

 当事者の亜樹よりよっぽど冷静に状況を判断している。いや。当事者ではないからこそ、冷静に見極められるのか。

「後はねえ、亜樹ちゃん次第だとは思うけど、環境が激変して戸惑ってるから、今の亜樹ちゃんはかなり不安定なんだよね。
 だから、容易に人を受け入れないけど一度受け入れたら、上辺だけじゃなくて本心からその人を受け入れると思う。そういう意味でさっき翔お兄ちゃんに忠告したわけだけど」

「忠告は感謝してるよ。それが実行に移すのが難しいことでも」

 肩を竦めてそう言えば杏樹は苦笑した。

 杏樹の翔に対する気持ちは消えてしまったのだるろか?

 遠い日の初恋として、淡い思い出にできたのだろうか?

 だとしたら少しは罪悪感も減るのだが。

 明るく話す杏樹に一抹の不安を覚える。

 初恋の相手にどうやったら、こんな風に助言なんてできるのだろう? 

 今は思い出に過ぎないとしても、好きだったことは確か。

 翔なら新しい恋の応援なんてできない。

 杏樹は相変わらずお人好しだ。

「それからね、翔お兄ちゃん。
これはあたしからの幼なじみとしての忠告だよ」

「なに?」

「あのエルダ神族のリオネスって人」

「えっと。確か三兄弟の未弟だったけ?」

「そう。あの人には注意して」

「どうして?」

 不思議そうに問えば、杏樹はなんでもないことのようにこう言った。

 軽く肩など疎めて。

「だって亜樹ちゃん、あの人の前にいると一番動揺してるんだもん」

「双生児ならではの直感ってやつだね」

「それと後要注意なのはこの国の星太子のリーン・アディールって人と、翔お兄ちゃんには言いにくいけど一樹お兄ちゃんだと思う」

「一樹が?」

 意外だった。

 それをいうならリオネスにしても、リーンにしても、亜樹とは出逢ったばかりで、一番付き合いの長いのが翔なのだが。

 付き合いの長さで愛情が動くわけではないと知ってはいるが、亜樹が関心を寄せているのが、ことごとく出逢ったばかりの相手だということに、少し驚いていた。

 リーン・アディール王子に関しては知らないが、一樹とリオネスに逢ったのは、昨日が初めてだというのに、もう興味を持っている?

 彼らのなにが亜樹の興味を惹いたのか、翔はちょっと気になった。

 そんなに短時間に心に入り込んだと知らされて。

「今のあたしにわかるのはそれだけ。その三人が亜樹ちゃんにとって特別だってことだけ。後は三人の関係と亜樹ちゃんに対する接し方次第じゃないかな?」

 杏樹の言葉を信じれば翔に割り込む余地などないような気もするが、逆に言うとおそらくそれを自覚していない三人を出し抜くためのヒントを杏樹がくれたようなものである。

 彼女もそういうつもりで教えてくれたのだろう。

 亜樹がだれの前で平静を保てないかを。

「杏樹は欲がないんだね」

 不思議に思ってそういうと、杏樹は苦い笑みを見せた。

「あたしだって人並みに欲はあるよ。欲がないのは亜樹ちゃんの方。あたしはただ比較されるのが嫌なだけ。亜樹ちゃんみたいに傷付いてもいいから、正面からぶつかっていくような勇気は、あたしにはないの」

 俯いた杏樹がなにを責めているのかは翔にもわからなかった。

 ただ彼女も女の子なのだと、改めてそう思った。

 どんなに強く見えても、誰かに頼りたいと思っている、ひとりの女の子なのだと。

「杏樹は可愛くなったね」

 本心からそう言うと杏樹は顔を真っ赤に染めた。

 自分たちがこれからどうなっていくのか、それは翔にもわからない。

 亜樹の心が誰に向かうのかすら謎のまま。

 それでも時は流れ、人の心も変わっていくだろう。

 そのことを噛み締めていた。

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