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第七章 双子の光と影

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 逆に言うと彼らのせいで恐怖心を植えられた亜樹を相手に、仕掛けることができないという事情もあったのだが。

 今告白しても亜樹はきっと受け入れてはくれない。

 恋愛そのものに拒反応を見せている。

 翔にはそう思えた。

 今の亜樹には恋愛も、それに連なることも、すべて恐怖の対象なのだ。

 口説かれでもしたら、すぐにでも逃げ出すだろうことが、容易に想像できる。

 しかし呑気に構えていたら奪われるというのは、間違いなく事実だろう。

 なのに動くに動けないというのが、偽りのない気持ちだった。

 亜樹の気持ちを無視して決断を迫るには、翔は亜樹と親しすぎたのだ。

 傷つけるくらいならと、諦めてしまう部分がある。

 杏樹はきっとそんなことにも気づいているのだるうが。

「最終的には翔お兄ちゃん次第だから、あたしからなにか言うようなことでもないけど。後悔だけはしないようにしてね?」

「‥‥‥杏樹」

「亜樹ちゃんはああ見えて結構繊細だし、今すごく心細いんだと思う。あたしは妹だからきっと頼ってはくれないだろうし。でも、わかる? 翔お兄ちゃん? 亜樹ちゃんが不安がっている今だからこそ、今、亜樹らゃんの支えになれた人は、亜樹ちゃんの心の奥深くに入り込めるってことが」

「あ‥‥‥」

 確かに前も後ろもわからない。

 右も左も見えない状態だと不安は増すばかりだろう。

 そんなときに親切にされたり、もしくは庇うような真似をされたら、その相手は否応なく亜樹の心の中に入り込むはずだ。

 だが、並大抵のことでは無理だ。

 今の亜樹は警戒心でガチガチになっていて、翔や一樹が俺にいても、全身から見えない拒絶のオーラを発しているくらいだから。

 自分の身を守るために必死になっていて、必死になって防御壁を張っている。

 今の亜樹が丁度そうだった。

 その亜樹の心に入り込み、頼ってもいいのだと思わせることは、容易なことじゃない。

 ましてや警戒する必要もないのだと教え込むことは、東都大学に入るより難しいのではあるまいか。

 だが、それをやってのけた相手だけが亜樹を手に入れることができる。

 それは事実でも本当に警戒心を解くだけで、亜樹の心が手に入るのだろうか?

 安心できる存在だと思われるだけでは、そこから先へは進めない。

 でも、ウカウカしていたら亜樹を奪われるのは必至。

 どうしろというのだろう?
手に入れるのが、これほど難しいことだとは。

「翔お気らゃんがなにを考えているのかわかるような気もするけど、亜樹ちゃんを敢えて女の子
として例えさせてもらうけど、女の子は時には強引リードしてもらいたいときもあるんだよ?」

「は?」

 答えようのない言葉である。

 複雑な顔で黙り込む翔に杏樹がため息を漏らす。

「なにもね。護ることだけが亜樹ちゃんの支えになれるっでわけじゃないでしょ?
 守ってくれるのは有難いけど、結局そういう関係だとそこまでで終わってしまうから。
 翔お兄ちゃんがそこから先へ進みたいと思っているなら、強引になることも必要なんじゃない?」

「....なんだが知らないあいだに杏樹も大人になったね。驚いたよ」

 まさか年下の女の子に恋愛論を説かれるとは思わなかった

 この分だと精神年齢は亜樹より杏樹の方が上らしい。
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