弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第七章 双子の光と影

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 神々の末裔がいて魔法の存在する世界。

 そんなまるでファンタジーみたいな世界なら、魔石のひとつやふたつ珍しくもないだろう。

 そう思うから受け入れられるのだ。

 だが、杏樹の説明を聞いた限りでは、地球では奇跡と言われそうなことでも、平気で受け入れているこの世界でさえ、蒼海石という魔石は、非常に稀だという話だった。

 それは多分蒼海石という魔石の希少価値にも理由はあるのだろうが、魔石の持つ特異性のせいでもあるのだろう。

 自分を所有する主人を選んだり、相応しくないと感じた者には、見つけられることすら妨害したり。

 魔法が当たり前のように闊歩するこの世界でも、そういう意思を持った魔石は珍しいのかもしれない。

 この場合、問題なのは魔石に認められた亜樹の存在意義だ。

 一体亜樹はどんな存在なのだろう?

 どんな謎を秘めているのだろう。

「亜樹ちゃんはピアスをしてるのに、あたしがしていないのは、きっと蒼海石に選ばれなかったからだよ」

 物思いに沈んでいる間に杏樹が、そんなことを言い出して、翔は思わずカッとなって怒鳴りつけていた。

「杏樹! そんな自分を卑下するような言い方は、やめた方がいい。亜樹が聞いたら、なんて思うかっ!」

「でも、本当のことだもん」

 俯く杏樹に翔は、かける言葉が見つからなかった。

 一樹が戻って来てから詳しい話を聞こうと思っていたのに、よりによって戻ってきたとき、エルダ神族の保護者たちを引き連れていた。

 その後で宴会みたいな事態になり、無理矢理お酒を飲まされた翔は、途中で酔い潰れてしまって、結局なにも聞き出せていなかった。

 おかげで今朝起きたのだってお昼過ぎだ。

 亜樹には「この酒乱!」と呆れられたが。

 だから、杏樹の重荷を取り除いてやりたくても、現状を把握していない翔にはできない。

 どんなに杏樹が自分を傷つけてきたか知っても。

(あまりにも出来すぎた兄がいると妹は大変なんだ。どうしてそんな簡単なことに気付かなかったんだろう?)

 杏樹はきっと今までずっと強がって平気なフリをして笑ってきたんだ。

(ぼくは杏樹の一体なにをみてきたんだろう?)

 亜樹が全力で妹を守ろうとするのは、原因は自分だとわかっていても、自分にもどうにもできない問題で、傷付く妹に気付いていたからか?

 だとしたら亜樹の思いやりも本物である。

 なんて深くお互いを思い合える兄妹なのか。

「亜樹ちゃんのピアスはね? 普通の宝石じゃないって、薄々わかってたの。だって宝石鑑定家が見てもわからなかったんだもん」

「そんなことが」

 驚いて問い掛けると杏樹は笑った。

「中学生になってしばらくしてからのことだったかな? 亜樹ちゃんと一緒に遊んでいると、突然知らない女の人に声をかけられて。話を聞いてみると宝石鑑定家の偉い人だったの。その人亜樹ちゃんのピアスに興味を持って。ちょっと調べさせて欲しいって言ってきたんだけど、翔お兄ちゃんも知ってるように、亜樹ちゃんのピアスは外れないでしょ? それでその場で調べ始めたんだけど」

 言葉尻が消えてしまう杏樹に、その先は聞かなくてもわかるような気がした。

 案の定杏樹は肩を竦めてこう言った。

「お手上げだってそう言って笑ってた」

「‥‥‥」

「どんな宝石かわからないだけじゃなくて、種類も何もわからないって。少なくとも自分の知識の中に、こんな宝石はないって。その後一回だけその女の人の家に呼ばれて、機械でも調べてみたんだけど、結局わかったのは物質的な構造からして、地球にあるすべての宝石とは違うということだけだったけど」

「亜樹はそのことをなんて?」

 まさかはっきりと地球外の物質と知っているとは思わず、気が付いたらそう訊ねていた。

 そんなことがあったのなら、亜樹自身、自分の出生に悩んでいたことにならないか?

 自分が存在する意味に悩んでいたことに。

 驚愕する翔に杏樹はやるせない笑みを見せた。
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