31 / 140
第七章 双子の光と影
(2)
しおりを挟む
神々の末裔がいて魔法の存在する世界。
そんなまるでファンタジーみたいな世界なら、魔石のひとつやふたつ珍しくもないだろう。
そう思うから受け入れられるのだ。
だが、杏樹の説明を聞いた限りでは、地球では奇跡と言われそうなことでも、平気で受け入れているこの世界でさえ、蒼海石という魔石は、非常に稀だという話だった。
それは多分蒼海石という魔石の希少価値にも理由はあるのだろうが、魔石の持つ特異性のせいでもあるのだろう。
自分を所有する主人を選んだり、相応しくないと感じた者には、見つけられることすら妨害したり。
魔法が当たり前のように闊歩するこの世界でも、そういう意思を持った魔石は珍しいのかもしれない。
この場合、問題なのは魔石に認められた亜樹の存在意義だ。
一体亜樹はどんな存在なのだろう?
どんな謎を秘めているのだろう。
「亜樹ちゃんはピアスをしてるのに、あたしがしていないのは、きっと蒼海石に選ばれなかったからだよ」
物思いに沈んでいる間に杏樹が、そんなことを言い出して、翔は思わずカッとなって怒鳴りつけていた。
「杏樹! そんな自分を卑下するような言い方は、やめた方がいい。亜樹が聞いたら、なんて思うかっ!」
「でも、本当のことだもん」
俯く杏樹に翔は、かける言葉が見つからなかった。
一樹が戻って来てから詳しい話を聞こうと思っていたのに、よりによって戻ってきたとき、エルダ神族の保護者たちを引き連れていた。
その後で宴会みたいな事態になり、無理矢理お酒を飲まされた翔は、途中で酔い潰れてしまって、結局なにも聞き出せていなかった。
おかげで今朝起きたのだってお昼過ぎだ。
亜樹には「この酒乱!」と呆れられたが。
だから、杏樹の重荷を取り除いてやりたくても、現状を把握していない翔にはできない。
どんなに杏樹が自分を傷つけてきたか知っても。
(あまりにも出来すぎた兄がいると妹は大変なんだ。どうしてそんな簡単なことに気付かなかったんだろう?)
杏樹はきっと今までずっと強がって平気なフリをして笑ってきたんだ。
(ぼくは杏樹の一体なにをみてきたんだろう?)
亜樹が全力で妹を守ろうとするのは、原因は自分だとわかっていても、自分にもどうにもできない問題で、傷付く妹に気付いていたからか?
だとしたら亜樹の思いやりも本物である。
なんて深くお互いを思い合える兄妹なのか。
「亜樹ちゃんのピアスはね? 普通の宝石じゃないって、薄々わかってたの。だって宝石鑑定家が見てもわからなかったんだもん」
「そんなことが」
驚いて問い掛けると杏樹は笑った。
「中学生になってしばらくしてからのことだったかな? 亜樹ちゃんと一緒に遊んでいると、突然知らない女の人に声をかけられて。話を聞いてみると宝石鑑定家の偉い人だったの。その人亜樹ちゃんのピアスに興味を持って。ちょっと調べさせて欲しいって言ってきたんだけど、翔お兄ちゃんも知ってるように、亜樹ちゃんのピアスは外れないでしょ? それでその場で調べ始めたんだけど」
言葉尻が消えてしまう杏樹に、その先は聞かなくてもわかるような気がした。
案の定杏樹は肩を竦めてこう言った。
「お手上げだってそう言って笑ってた」
「‥‥‥」
「どんな宝石かわからないだけじゃなくて、種類も何もわからないって。少なくとも自分の知識の中に、こんな宝石はないって。その後一回だけその女の人の家に呼ばれて、機械でも調べてみたんだけど、結局わかったのは物質的な構造からして、地球にあるすべての宝石とは違うということだけだったけど」
「亜樹はそのことをなんて?」
まさかはっきりと地球外の物質と知っているとは思わず、気が付いたらそう訊ねていた。
そんなことがあったのなら、亜樹自身、自分の出生に悩んでいたことにならないか?
自分が存在する意味に悩んでいたことに。
驚愕する翔に杏樹はやるせない笑みを見せた。
そんなまるでファンタジーみたいな世界なら、魔石のひとつやふたつ珍しくもないだろう。
そう思うから受け入れられるのだ。
だが、杏樹の説明を聞いた限りでは、地球では奇跡と言われそうなことでも、平気で受け入れているこの世界でさえ、蒼海石という魔石は、非常に稀だという話だった。
それは多分蒼海石という魔石の希少価値にも理由はあるのだろうが、魔石の持つ特異性のせいでもあるのだろう。
自分を所有する主人を選んだり、相応しくないと感じた者には、見つけられることすら妨害したり。
魔法が当たり前のように闊歩するこの世界でも、そういう意思を持った魔石は珍しいのかもしれない。
この場合、問題なのは魔石に認められた亜樹の存在意義だ。
一体亜樹はどんな存在なのだろう?
どんな謎を秘めているのだろう。
「亜樹ちゃんはピアスをしてるのに、あたしがしていないのは、きっと蒼海石に選ばれなかったからだよ」
物思いに沈んでいる間に杏樹が、そんなことを言い出して、翔は思わずカッとなって怒鳴りつけていた。
「杏樹! そんな自分を卑下するような言い方は、やめた方がいい。亜樹が聞いたら、なんて思うかっ!」
「でも、本当のことだもん」
俯く杏樹に翔は、かける言葉が見つからなかった。
一樹が戻って来てから詳しい話を聞こうと思っていたのに、よりによって戻ってきたとき、エルダ神族の保護者たちを引き連れていた。
その後で宴会みたいな事態になり、無理矢理お酒を飲まされた翔は、途中で酔い潰れてしまって、結局なにも聞き出せていなかった。
おかげで今朝起きたのだってお昼過ぎだ。
亜樹には「この酒乱!」と呆れられたが。
だから、杏樹の重荷を取り除いてやりたくても、現状を把握していない翔にはできない。
どんなに杏樹が自分を傷つけてきたか知っても。
(あまりにも出来すぎた兄がいると妹は大変なんだ。どうしてそんな簡単なことに気付かなかったんだろう?)
杏樹はきっと今までずっと強がって平気なフリをして笑ってきたんだ。
(ぼくは杏樹の一体なにをみてきたんだろう?)
亜樹が全力で妹を守ろうとするのは、原因は自分だとわかっていても、自分にもどうにもできない問題で、傷付く妹に気付いていたからか?
だとしたら亜樹の思いやりも本物である。
なんて深くお互いを思い合える兄妹なのか。
「亜樹ちゃんのピアスはね? 普通の宝石じゃないって、薄々わかってたの。だって宝石鑑定家が見てもわからなかったんだもん」
「そんなことが」
驚いて問い掛けると杏樹は笑った。
「中学生になってしばらくしてからのことだったかな? 亜樹ちゃんと一緒に遊んでいると、突然知らない女の人に声をかけられて。話を聞いてみると宝石鑑定家の偉い人だったの。その人亜樹ちゃんのピアスに興味を持って。ちょっと調べさせて欲しいって言ってきたんだけど、翔お兄ちゃんも知ってるように、亜樹ちゃんのピアスは外れないでしょ? それでその場で調べ始めたんだけど」
言葉尻が消えてしまう杏樹に、その先は聞かなくてもわかるような気がした。
案の定杏樹は肩を竦めてこう言った。
「お手上げだってそう言って笑ってた」
「‥‥‥」
「どんな宝石かわからないだけじゃなくて、種類も何もわからないって。少なくとも自分の知識の中に、こんな宝石はないって。その後一回だけその女の人の家に呼ばれて、機械でも調べてみたんだけど、結局わかったのは物質的な構造からして、地球にあるすべての宝石とは違うということだけだったけど」
「亜樹はそのことをなんて?」
まさかはっきりと地球外の物質と知っているとは思わず、気が付いたらそう訊ねていた。
そんなことがあったのなら、亜樹自身、自分の出生に悩んでいたことにならないか?
自分が存在する意味に悩んでいたことに。
驚愕する翔に杏樹はやるせない笑みを見せた。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説

俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。


美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜
𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。
だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。
そこで出逢った簫 完陽という料理人に料理を教えてもらうことに。
そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?!
料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕!
※、のところはご注意を。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】
まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる