弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第七章 双子の光と影

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 第九章 双子の光と影




「杏樹」

 ノックをして部屋に入ってから、翔は改めて彼女の名を呼んだ。

 こちらにきてからゆっくり話す暇がなかったし、杏樹はいつもイヴ・ロザリアと一緒だったから、翔は余計に声をかけられなかった。

 それが丁度彼女が出ていくところに鉢合わせ、今ならばと彼女の部屋へ訪れたのだった。

 訪問を受けた杏樹は、びっくりして翔を見上げている。

 見慣れないドレスを着て。

 そうしてお淑やかに椅子に腰掛けていれば、さすがに亜樹の双子の妹だと思わせる。

 意外なほど杏樹は綺麗だった。

 ただ亜樹という光の影になって、今まで目立たなかっただけだと、翔もようやく気付いた。

 亜樹が口癖のように杏樹は可愛いと言っていた意味が、今になってよくわかる。

 あれは兄馬鹿ではなく単なる事実だったんだと。

 今まで気付かなかったことに気付けば、杏樹が如何に不遇な立場だったか、翔にもわかる。

 あまりにも目立つ兄を持って、杏樹は損ばかりしていたはずだ。

 双子だということも、比較されることに拍車をかけただろう。

 翔もそうだったからよくわかる。

 一樹がこちらに迷い込んだりせずに、普通に生きていたら自分たちは今頃もっと仲が悪かったのではないか。

 ここに来て行方不明の真相を知ってから、そう思うようになっていた。

 亜樹と杏樹のようには振る舞えなかっただろうと。

 不思議なほどお互いを思い合える双子。

 すこしだけふたりが羨ましかった。

「どうかしたの? 翔お兄ちゃん」

 不思議そうに小首を傾げる様子に翔は苦笑いする。

「うん。杏樹にちょっと話したいことがあってね。本当はG/Wに逢って話すつもりだったけど、こういう事態になってしまったし」

 今まで機会を伺っていたのだと、杏樹にも翔のどこか煮え切らない態度でわかった。

「引っ越しのときのことなら、もう気にしなくていいんだよ?」

「杏樹」

 弱り切ったような声音に杏樹は強がり笑ってみせる。

 いつだってそうやって乗り切ってきたのだから。

「あたしは平気。あれは翔お兄ちゃんの素直な気持ちだったんでしょう?」

「それはそうだけど。最低なことには違いないから。それに亜樹を好きだって気持ちと、杏樹がぼくを好きだって言ってくれた気持ちとは、意味が違っていたんだ。だったらぼくはあんなことを言ってはいけなかった。最低だよね」

 俯いてしまう翔に杏樹はため息をつく。

「本当に違うの?」

「‥‥‥」

「亜樹ちゃんの性別については聞いたでしょう? どうやら事実みたいなの」

「だって亜樹は日本人だろう? こちらの常識かなにか知らないけど、そんなの当てはまらないよ」

 戸惑って言い返す翔に杏樹も小首を傾げ答えた。

「でも、そうらしいんだもん。イヴ・ロザリア姫の話だとね。亜樹ちゃんの持ってるピアス。あれがどうも怪しいんだって」

「ピアスが?」

「あのピアスの宝石は蒼海石と言って、こちらでも希少価値の高い宝石なんだって。しかも宝石自体に魔力の宿っている魔石」

「魔石?」

 そんなものを亜樹が身につけていたとは驚きである。

 昔からすこし変わったところのある子だとは感じていたが、まさか魔力を秘めた魔石を身につけていたとは。

「見付けること自体が凄く困難になってきて、余計にその価値が高くなっているらしい宝石なんだけど。蒼海石だってだけで価値は跳ね上がるし、値段も凄く高くなるのが普通なんだって聞いたよ。魔法使いなんかは自分の魔力を高めるため、わざわざ蒼海石を探すこともあるくらいだって」

「そこまで大事になってたのか。知らなかった」

「でも、蒼海石は気まぐれな石。石が認めない相手には触れられない。見つけ出すことも出来ない。蒼海石は持ってるだけでも特別なのに、それをピアスにしているなんて凄いって、イヴ・ロザリア姫はそう言ってたよ。
 蒼海石は自分の主人を選ぶ石。だから、亜樹ちゃんがあのピアスをしていることにはなんらかの意味があるはずだって。姫はそう説明してくれたよ」

 それはまあ魔力を秘めた石と言われるからには、それくらいのことはできても不思議はないだろう。

 これがこんな異常な体験をする前に、亜樹の宝石は実は地球外の物質でできていて、魔力を秘めている魔石なんですと言われたところで、信じられなかっただろうが。
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