弟妹たちよ、おれは今前世からの愛する人を手に入れて幸せに生きている〜おれに頼らないでお前たちで努力して生きてくれ〜

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第六章 異邦人

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「ほんとなのか、一樹?」

「ああ。おれが一度目に力を使ってから、丁度一年。今回成功したのは奇跡に近い。今のおれの力だと連続で世界を超えることは不可能に近いし、一度成功させてしまえば、もう一度使えるようになるまでに、絶対に一年はかかる。それも短くて‥‥‥という仮定付きでな」

 つまり一年経っても絶対に帰れるという保証はないのだ。

 一樹にもそれは保証できない。

 成功したら帰れるだろうが、もし失敗したら?

「なんか訊くの怖いけど気になるから訊くよ。一年経って一度試してみて、もし失敗したらどうなるんだ?」

 亜樹の恐る恐ると言った問いかけに、一樹は困ったような顔になり、リオネスが笑いながら口を挟んだ。

「わかり切ったことじゃない? 最低でもまだ一年はかかるってことだよ」

「やっぱり」

「それも運が良ければね」

「どういう意味だよ?」

「一度力を温存しておいて、試してから失敗するわけだから、その場合、同じように一年我慢しても成功率は低くなる。その場合だと一年目に試さないで、二年目に試した方が成功率は上がるよ」

 つまり一年目に帰還できるというのは、あくまでも運が良ければという条件付きなのだ。

 そのため確実に帰りたければ、二年から三年は我慢して、それから試した方がより確実なのである。

 力を温存する時間が長ければ長いほど、術の成功する確率も上がる。

 リオネスが言いたいのは、多分そういうことだろう。

「なにか誤解してるようだから説明するけど、それはあくまでも一年目に試してみて、失敗したときの仮定だよ?」

「え?」

「つまり一度失敗しているから、次に成功する確率が低くなるわけ。そのときは多分一年や二年じゃ無理だろうね」

「つまり最初の一年を計算に入れると三年から四年?」

 ギョッとして叫ぶ亜樹に、リオネスが可笑しそうに笑う。

「つまりね? 確実に帰還したければ、最低二年はこちらに滞在した方が賢いってことだよ。わかる? 一年目に試してみて、もし失敗したら二年じゃ済まないからね」

 それは確かにそうだろう。

 しかし二年もこちらにいるなんて、亜樹は絶対に遠慮したかった。

 それこそ貞操の危機だ。

 エルシアたち三人になにをされるかわからない。

「一樹の力では一年目に帰還するのは難しいからね」

 リオネスは微笑んでいるのだが、亜樹の目にはほくそ笑んでいるようにしか見えなかった。

 なにか企んでいて、それを隠して笑っている。

 そんな風にしか見えなかった。

「その二年の間にきみを手に入れてみせるよ、亜樹」

「‥‥‥え?」

「帰りたいなんて思わないようにして見せる」

 決意を秘めた銀の瞳を前にして動けなかった。

 顎にかかっていた手が首の後ろに回りされ、拒絶する間もなく唇を奪われる。

「んっ」

 とっさに目を閉じたが、執拗な口付けに目眩がした。

 初めてのときより、ずっと濃厚だ。

 ガタンと派手な音がしたから、多分一樹が立ち上がったんだろう。

 見られているとわかっているのに逆らえない。

 キスなんて慣れてないのに、呼吸まで止まりそうになる。

 亜樹の体から力が抜けた途端、いきなりリオネスが離れた。

 ハッとして目を向ければ、リオネスは一樹に右腕を引っ張られている。

「相変わらず無粋だね、一樹は」

「おれの前で亜樹に手を出すんじゃねえよ。言ったはずだぜ? おれは認めないと」

「それはボクの自由だよ。きみが亜樹のなんであれ、特別な関係ではないんだから」

 派手に火花を散らす一樹とリオネスに、間に挟まれた亜樹は困惑している。

 まるで奪い合われている気がして戸惑っていた。

 リオネスはわざと一樹を挑発している。

 そんな気がした。

「亜樹が誰を選ぶかはまだわからない。それはボクらにも可能性があるということだよ。いくら一樹でも、それを止める権利なんてない。どうしても手に入れたかったら、奪われたくなかったら、自分で手に入れるように努力すればいい。そうでないなら余計な口は挟まないで貰いたいね。それこそ無粋だよ」

 邪魔をするなら、それなりの決意をしてからにしろ。

 リオネスはそう言っていた。

 それは一樹にしか意味が通じない言い方ではあったが。

 亜樹を守護する立場にはあっても、恋人ではないのなら、人の恋路に口出しするなと。
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