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第六章 異邦人
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上着も一般の者が脇を紐で止めるタイプなのに比べ、彼らの服は地球の衣服のように胸の前で止めるタイプだった。
1番想像しやすいのは、やはりゲームの登場人物の服装だろうか?
ファンタジーを基本にしている主人公だと思えばさほどの違和感はない。
もしくは中世ヨーロッパの服装とか。
まあ簡単に言ってしまえば普通じゃないということだ。
亜樹は最初高価な服はいらないと辞退した。
それでなくても助けられ、ただ飯を食わせてもらっている身の上である。
これ以上リーンの好意には甘えられないと思ったし、それに年齢のそう変わらないリーンをはじめとして、高価な服を身に付けている者の殆どが長身だ。
彼らと比較されるのも嫌だったので、亜樹はレックスが着ているような普通の服でいいと言ったのだ。
だが、これはリーンたち全員一致の意見として却下されてしまった。
亜樹としては夏服でさえなければ、着るのに抵抗のない服だったのだが、彼らにとっては違ったらしい。
さすがに露出度の高い夏服を着るつもりにはなれなかったが、冬服ならそれほどでもないから抵抗感も薄かったのだ。
なのにリーンたちはこぞって反対し、亜樹に色んなタイプの衣装を用意した。
これが頭の痛いことに、その殆どがどこかしら可愛い衣装なのである。
「本当に男物か!?」と何度念を押したかしれない。
だが、これにはリーンはきっぱりと否定を返してきた。
どうやら桁外れに可愛い衣装でも男物らしかった。
リーンは不器用で無愛想だから、そういう点では嘘をつけない。
だから、信用もできる。
それで渋々受け取ったのだが。
「やっぱりやめればよかったかも」
白で統一された服を着て全身が映る鏡の前に立った亜樹はすぐさま後悔した。
自分で言うのもなんだが、服装が中途半端な印象を与えるせいか、女の子っぽく見える。
いや。
第3者として客観的に見た場合、これで男だと思ってくれる者はいないような気がする。
本当にこれが男物だとしても、中性的な(彼らに言わせればきっと美少女的な、だろうが)容貌をしている亜樹に似合うように、わざと可愛い系統の服を選んだことは容易に想像できた。
亜樹と杏樹は体型がそう変わらないので、実はお互いの服を交換して着ていたこともある。
杏樹はボーイッシュな女の子だったから、よく亜樹の服を借りていた。
どちらも好みが似ているのか、持っている服にそれほどの差はなかったので、そのときの気分によって亜樹も妹の服を借りたことはある。
但し人に教えたことはないが。
亜樹としても女の子用の服を着ていると思われるのは腹立たしかったし、余計な誤解をされるのも嫌だったから絶対に言わなかった。
それに普通はそんなことは自分からは言わないものである。
今着ている服がだれのものかなんて。
しかしそういうときの亜樹を見た友人たちは、一人残らずこう言ってくれた。
『今日の亜樹。なんだかいつもよりずっと可愛いな』
やはりどんなに男っぽいイメージのある服でも、基本が女の子用だからだろう。
杏樹の服を借りているときは、大抵そう言われてきた。
世界が変わっても亜樹の立場は変わらないらしいと思うと泣けてくる。
それどころか悪化しているような気もするし。
悲しい。
杏樹は自分からは口にしないが、亜樹に対してかなりの劣等感を抱いている。
例えば容姿。
亜樹が称賛されるのに対して、比較され続けてきた杏樹は、自分は可愛くないと思い込んでいる。
確かに客観的な事実だけを述べるなら、杏樹は亜樹には劣るかもしれない。
亜樹が普通に男らしく見える容姿ならよかったが、認めたくなくても容貌が少女を意識させることは事実で、杏樹にはそれがコンプレックスの元になっていたのだ。
態度に出したことはないし、指摘する気もないが、そのことには気付いていた。
だが、それはあくまでも亜樹と比較したらの話で、杏樹は決して不細工ではないのだ。
杏樹は美少女と呼ばれるタイプの顔立ちをしている。
これは身内の贔屓目ではなく単なる事実なのだが、杏樹は頑なに認めようとはしない。
それだけ亜樹と比較され続けてきて、失望されてきたことが劣等感を刺激しているのだろう。
亜樹と双生児でさえなかったら、杏樹はきっと男にも女にも人気があって、もっと楽しい学生時代を過ごせただろうに。
気が強いところが好みだという男は少なからずいるし、杏樹のそれはお節介なだけで別段嫌味なものじゃなかった。
本当に亜樹と双生児でさえなく、もしくは亜樹と兄妹でさえなかったら、もっとおおらかに成長できたはずなのだ。
自分の容姿にコンプレックスを抱くこともなく。
女の子らしい格好をせずにボーイッシュな格好を好んでしていたのは、らしく振る舞ってもどうせ周囲の目には亜樹の方が可愛く映るのだからという、自虐的な考えもあったかもしれない。
少なくとも比較されにくい格好をして着飾っているときまで、亜樹の方が可愛いなどと言われたら、きっと杏樹は立ち直れないだろうから。
それにしてもこの格好だと亜樹はまるで性別不明だ。
これはあんまりである。
男だぞと思わず主張したくなる服装だ。
「だれが選んだんだよ、この服……」
情けなくなってきて何着か替えてみたが、どれを選んでも印象は変わらなかった。
それどころか服によっては、明らかに可愛く見える度(そんなものがあるとは認めたくないが)が上がるものもあったし、極端な話、どこから見ても女の子にしか見えないときもあった。
自分で見てそう思うのだから、これは余程のことである。
亜樹は自分が少女めいた容貌をていると、自分から認めるタイプではないので。
コンプレックスを抱いているのは亜樹も同じなのだ。
杏樹とは違った意味で。
自分の容姿を嫌っているという意味では、亜樹と杏樹は実に似た者兄妹かもしれない。
「しょうがないなあ。最初の服にしておくか。あれが1番ましみたいだし」
何着か試着をして結局、1番最初の服が1番ましだと気付き、亜樹は手早く衣装を着替え始めた。
「亜樹。起きてるかあ?」
まだ眠そうな声でそう言って入ってきたのは一樹だった。
振り返り亜樹が破顔する。
「まだ眠そうだな。一樹は」
「おれは朝に弱いんだ」
そこまで言ってから一樹はきょとんとした顔になった。
「わりぃ。着替え中だったんだ?」
それだけ言って出ていこうとする一樹に亜樹は唖然としてしまった。
「なんで出ていくんだ?」
「え? だって着替えてんのに」
「男同士だろ? 別に意識することないじゃん」
それだけ言って着替えを再開しようとしたが、一樹があまりに居心地が悪そうなので、亜樹は上半身裸のまま、また振り向いた。
「なんでそこで俯いてるんだ? さっきから」
「いや。別に」
一樹の本音を言うと同性ではないと知っている以上、着替えの場にいるというのは、どうにも居心地が悪かったのだ。
それに亜樹は全然意識していないようだが、その華奢な身体付きは、まだ同性の形態を取っていてなお魅力的だった。
白磁の肌は日本人とは思えないくらい白く滑らかだし、スラリとした背中は見ているだけでも、誘われてしまいそうなほど魅力的だった。
背中を向けて首だけを傾けているので、一樹の目には亜樹は女の子のように映っていたのだ。
それで意識するなと言われても無理だ。
細くしなやかな腰も、触れれば折れてしまいそうな華奢な身体付きも、同性だと思うには繊細すぎた。
それに肩幅や項なんて女の子そのもの。
理性、理性と念仏のように唱えてしまうのも無理はなかった。
「一樹ぃ。だから、なんでそこでひとりで赤くなってるんだよ? オレはナリはこんなかもしれないけど一応男だからなっ!!」
プンプンと怒りつつ衣服を身に纏う亜樹に一樹は苦笑してしまった。
亜樹が自覚するときは、まだまだ先らしいと気付いて。
「それでなにか用だったのか、一樹? こんな朝早くからやって来るなんてさ」
白で統一された衣装を身に纏い近くまでやって来た亜樹を目にしたとき、さすがの一樹も目のやりどころに困った。
凶悪的なまでに可愛い。
これで女装させたら一気に理性が砕け散りそうだ。
さっきのあられもない姿も魅力的で誘惑される代物だったが、こうやって着飾ると違った意味で誘われる。
全く。
罪作りな奴である。
1番想像しやすいのは、やはりゲームの登場人物の服装だろうか?
ファンタジーを基本にしている主人公だと思えばさほどの違和感はない。
もしくは中世ヨーロッパの服装とか。
まあ簡単に言ってしまえば普通じゃないということだ。
亜樹は最初高価な服はいらないと辞退した。
それでなくても助けられ、ただ飯を食わせてもらっている身の上である。
これ以上リーンの好意には甘えられないと思ったし、それに年齢のそう変わらないリーンをはじめとして、高価な服を身に付けている者の殆どが長身だ。
彼らと比較されるのも嫌だったので、亜樹はレックスが着ているような普通の服でいいと言ったのだ。
だが、これはリーンたち全員一致の意見として却下されてしまった。
亜樹としては夏服でさえなければ、着るのに抵抗のない服だったのだが、彼らにとっては違ったらしい。
さすがに露出度の高い夏服を着るつもりにはなれなかったが、冬服ならそれほどでもないから抵抗感も薄かったのだ。
なのにリーンたちはこぞって反対し、亜樹に色んなタイプの衣装を用意した。
これが頭の痛いことに、その殆どがどこかしら可愛い衣装なのである。
「本当に男物か!?」と何度念を押したかしれない。
だが、これにはリーンはきっぱりと否定を返してきた。
どうやら桁外れに可愛い衣装でも男物らしかった。
リーンは不器用で無愛想だから、そういう点では嘘をつけない。
だから、信用もできる。
それで渋々受け取ったのだが。
「やっぱりやめればよかったかも」
白で統一された服を着て全身が映る鏡の前に立った亜樹はすぐさま後悔した。
自分で言うのもなんだが、服装が中途半端な印象を与えるせいか、女の子っぽく見える。
いや。
第3者として客観的に見た場合、これで男だと思ってくれる者はいないような気がする。
本当にこれが男物だとしても、中性的な(彼らに言わせればきっと美少女的な、だろうが)容貌をしている亜樹に似合うように、わざと可愛い系統の服を選んだことは容易に想像できた。
亜樹と杏樹は体型がそう変わらないので、実はお互いの服を交換して着ていたこともある。
杏樹はボーイッシュな女の子だったから、よく亜樹の服を借りていた。
どちらも好みが似ているのか、持っている服にそれほどの差はなかったので、そのときの気分によって亜樹も妹の服を借りたことはある。
但し人に教えたことはないが。
亜樹としても女の子用の服を着ていると思われるのは腹立たしかったし、余計な誤解をされるのも嫌だったから絶対に言わなかった。
それに普通はそんなことは自分からは言わないものである。
今着ている服がだれのものかなんて。
しかしそういうときの亜樹を見た友人たちは、一人残らずこう言ってくれた。
『今日の亜樹。なんだかいつもよりずっと可愛いな』
やはりどんなに男っぽいイメージのある服でも、基本が女の子用だからだろう。
杏樹の服を借りているときは、大抵そう言われてきた。
世界が変わっても亜樹の立場は変わらないらしいと思うと泣けてくる。
それどころか悪化しているような気もするし。
悲しい。
杏樹は自分からは口にしないが、亜樹に対してかなりの劣等感を抱いている。
例えば容姿。
亜樹が称賛されるのに対して、比較され続けてきた杏樹は、自分は可愛くないと思い込んでいる。
確かに客観的な事実だけを述べるなら、杏樹は亜樹には劣るかもしれない。
亜樹が普通に男らしく見える容姿ならよかったが、認めたくなくても容貌が少女を意識させることは事実で、杏樹にはそれがコンプレックスの元になっていたのだ。
態度に出したことはないし、指摘する気もないが、そのことには気付いていた。
だが、それはあくまでも亜樹と比較したらの話で、杏樹は決して不細工ではないのだ。
杏樹は美少女と呼ばれるタイプの顔立ちをしている。
これは身内の贔屓目ではなく単なる事実なのだが、杏樹は頑なに認めようとはしない。
それだけ亜樹と比較され続けてきて、失望されてきたことが劣等感を刺激しているのだろう。
亜樹と双生児でさえなかったら、杏樹はきっと男にも女にも人気があって、もっと楽しい学生時代を過ごせただろうに。
気が強いところが好みだという男は少なからずいるし、杏樹のそれはお節介なだけで別段嫌味なものじゃなかった。
本当に亜樹と双生児でさえなく、もしくは亜樹と兄妹でさえなかったら、もっとおおらかに成長できたはずなのだ。
自分の容姿にコンプレックスを抱くこともなく。
女の子らしい格好をせずにボーイッシュな格好を好んでしていたのは、らしく振る舞ってもどうせ周囲の目には亜樹の方が可愛く映るのだからという、自虐的な考えもあったかもしれない。
少なくとも比較されにくい格好をして着飾っているときまで、亜樹の方が可愛いなどと言われたら、きっと杏樹は立ち直れないだろうから。
それにしてもこの格好だと亜樹はまるで性別不明だ。
これはあんまりである。
男だぞと思わず主張したくなる服装だ。
「だれが選んだんだよ、この服……」
情けなくなってきて何着か替えてみたが、どれを選んでも印象は変わらなかった。
それどころか服によっては、明らかに可愛く見える度(そんなものがあるとは認めたくないが)が上がるものもあったし、極端な話、どこから見ても女の子にしか見えないときもあった。
自分で見てそう思うのだから、これは余程のことである。
亜樹は自分が少女めいた容貌をていると、自分から認めるタイプではないので。
コンプレックスを抱いているのは亜樹も同じなのだ。
杏樹とは違った意味で。
自分の容姿を嫌っているという意味では、亜樹と杏樹は実に似た者兄妹かもしれない。
「しょうがないなあ。最初の服にしておくか。あれが1番ましみたいだし」
何着か試着をして結局、1番最初の服が1番ましだと気付き、亜樹は手早く衣装を着替え始めた。
「亜樹。起きてるかあ?」
まだ眠そうな声でそう言って入ってきたのは一樹だった。
振り返り亜樹が破顔する。
「まだ眠そうだな。一樹は」
「おれは朝に弱いんだ」
そこまで言ってから一樹はきょとんとした顔になった。
「わりぃ。着替え中だったんだ?」
それだけ言って出ていこうとする一樹に亜樹は唖然としてしまった。
「なんで出ていくんだ?」
「え? だって着替えてんのに」
「男同士だろ? 別に意識することないじゃん」
それだけ言って着替えを再開しようとしたが、一樹があまりに居心地が悪そうなので、亜樹は上半身裸のまま、また振り向いた。
「なんでそこで俯いてるんだ? さっきから」
「いや。別に」
一樹の本音を言うと同性ではないと知っている以上、着替えの場にいるというのは、どうにも居心地が悪かったのだ。
それに亜樹は全然意識していないようだが、その華奢な身体付きは、まだ同性の形態を取っていてなお魅力的だった。
白磁の肌は日本人とは思えないくらい白く滑らかだし、スラリとした背中は見ているだけでも、誘われてしまいそうなほど魅力的だった。
背中を向けて首だけを傾けているので、一樹の目には亜樹は女の子のように映っていたのだ。
それで意識するなと言われても無理だ。
細くしなやかな腰も、触れれば折れてしまいそうな華奢な身体付きも、同性だと思うには繊細すぎた。
それに肩幅や項なんて女の子そのもの。
理性、理性と念仏のように唱えてしまうのも無理はなかった。
「一樹ぃ。だから、なんでそこでひとりで赤くなってるんだよ? オレはナリはこんなかもしれないけど一応男だからなっ!!」
プンプンと怒りつつ衣服を身に纏う亜樹に一樹は苦笑してしまった。
亜樹が自覚するときは、まだまだ先らしいと気付いて。
「それでなにか用だったのか、一樹? こんな朝早くからやって来るなんてさ」
白で統一された衣装を身に纏い近くまでやって来た亜樹を目にしたとき、さすがの一樹も目のやりどころに困った。
凶悪的なまでに可愛い。
これで女装させたら一気に理性が砕け散りそうだ。
さっきのあられもない姿も魅力的で誘惑される代物だったが、こうやって着飾ると違った意味で誘われる。
全く。
罪作りな奴である。
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