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第四章 風神エルダの末裔
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「オレには双生児の妹がいる。杏樹にはピアスはないし、ごく普通の人間だ。そんな生まれ方をする神族なんているわけないだろ? 矛盾してる」
「だれが双生児の妹なの?」
頬に触れ亜樹の滑らかな肌の感触を楽しんでいたリオネスに訊かれ、亜樹はようやく彼が必要以上に身体に触れてくることに気付いた。
戸惑って離れようとするのだが、やはり動けない。
抵抗する素振りを見せると睨まれるからだ。
軽い一睨みなのだが、どういうわけか逆らえないのである。
逆らったら酷い目に遇いそうで。
そうして抵抗をやめ素直に従うと微笑む。
見事に邪気のない愛らしい笑顔で。
ひょっとしたら3兄弟の中で1番厄介な性格をしているのではないかと、遅蒔きながら気付いた亜樹は青ざめた。
その相手と1番近くにいて威嚇されて動けないというのが亜樹の危機感を煽った。
かといって刺激してなにかされても困るので、やたらと触ってくるリオネスのことは意識しないように自分に言い聞かせ、彼の問いかけに答えた。
「右側にいるだろ? おんなじ顔してるのに、なんで気付けないんだ?」
「「「おんなじ顔?」」」
3人が同じ顔で同じ言葉を呟いた。
まるで亜樹の言葉を否定するように。
やっぱり亜樹の双生児の妹らしくないかと杏樹はため息の嵐だ。
比較されたら自分の方が劣ることは知っていた。
しかし遠慮会釈なく指摘されるのは、やはり堪えた。
今までここまではっきりと亜樹はこれだけ綺麗なのに杏樹はこの程度かと言われたことはなかったので。
もし本音ではそう思っていたとしても、皆良心というものがあったので、面と向かっては指摘しなかった。
それをするということは彼らが頂点に立つ者で、だれかに対して気を使ったことなどないことを証明していた。
その証拠に将来、この国を治めるリーン・アディールも、杏樹が亜樹の捜している双生児の妹だと悟ったとき、おそらく無意識だろうが軽い落胆の吐息を吐いたのだ。
おそらく亜樹を見ていて双生児と聞いたせいで、杏樹も同じくらい綺麗なのではないかと期待していたのだろう。
杏樹の外見では期待はずれということだ。
もうすっかり慣れっこになった反応だというのに指摘されると堪える。
だが、この失礼極まりない反応に兄の亜樹の方がキレた。
「杏樹がオレの妹だと悪いのかよっ!? なんだよっ!! その失礼な反応はっ!!」
いきり立つ亜樹に彼の不興を買いたくなかったエルシアたちは、すぐに謝罪しようとしたのだが、ふとあることに気付き、じっと杏樹を凝視した。
あれほどの美形に見つめられたことなどない杏樹は顔を赤くしている。
「本当に双生児なのかい?」
エルシアが振り向いて亜樹に問い、彼はカッとなったようだった。
「だから、さっきからそう言ってるじゃないかっ!!」
「いや。顔かたちのことじゃなく」
言いかけたエルシアの言葉を無邪気なリオネスが引き取った。
「だってこの娘には魂がないよ? 生きていないのに双生児っていうのはおかしいと思うけど?」
愕然とする亜樹と杏樹のふたりに慌てた一樹が割り込んだ。
「相変わらず無邪気な顔でとんでもないことを言う奴だな、リオンっ!!」
「あれ、カズキ?」
リオネスの驚いた声で彼の存在に気付いたエルシアとアストルも意外そうに一樹を見た。
「初対面であんまり失礼なこと言ってんじゃねえよ。その癖なんとかしろって言っただろうが、オレは。別れの言葉を聞いてなかったのかよ、おまえは?」
「……あれ別れの言葉だったの? 気付かなかったよ」
あっけらかんと言われて一樹の肩が落ちた。
「それにしてもその額のアザ。どうしたの? よりによって海神レオニスの紋章だなんて」
「それにカズキの力も増したようだね。1年前とは比較にならないよ」
「どうやらぼくらに隠していることがありそうですね、カズキ? ここでぼくらを止めるってことは、暴露されたくない秘密があるってことでしょう?」
面白そうにネチネチ苛めるふたりに、兄の翔が弟の幼少時を想像してちょっと同情した。
嫌われているわけではなさそうだが、これでは身近なおもちゃ同然である。
苛める銀の瞳がキラキラと輝いている。
一樹がひねくれるのも無理ないなとそんなことを考えていた。
「隠していることなんかなんにもねえよ。それよりリオン。いい加減に亜樹から手を離せ。本気で怒るぜ?」
一樹は口を出すタイミングのを図っていたが、亜樹が威嚇され硬直して動けないでいることには、きちんと気付いていた。
リオネスの本性に気付いていたのだろう。
亜樹は本能的に逆らったときのことを考え、恐れて動けないようだった。
亜樹が抵抗しないのをいいことに、リオネスは調子に乗って、あっちこっちを触りまくっていた。
といっても主に髪や頬に触れるだけだが。
だが、時折、意味ありげに唇を掠めていくこともあり、一樹は癇に触っていたのだ。
それに触れているのは顔の近くだけとはいえ、思わせ振りに項に手を這わせたりしていたし、亜樹に邪な思いから触れていることなど、同性の眼から見れば明らかだった。
リオネスが亜樹に触れる意味に気付いていないのは、イブ・ロザリアと杏樹くらいのものだろう。
亜樹は理解するところまでいかないが、危機感は覚えているようなので。
不愉快な気分になっていたのは、実は一樹だけではない。
翔は自分が口を出すような場面ではないと、必死になって堪えていたが腹を立てていたし、エルシアたちに好印象を抱いていないリーンも、お気に入りの亜樹にわざとらしく触れて楽しむ様子を見て、ムッとしていたので。
いつもならイブのご機嫌を取るために、彼女を優先する彼らが、今日はイブには意識も向けない。
その辺はいっそさばさばしていて気持ちがいいくらいだが、今度は亜樹がターゲットになったのでは、リーンの複雑な心境は変わらないのだ。
それどころか恋愛対象にならない姉が相手のときより、ずっと気分が悪かった。
リーンが気に入った相手は必ずエルシアたちの目に留まる。
その避けられない現実を思い知らされた気分だった。
不機嫌そうな一樹に文句を言われたリオネスは、亜樹に触れた手は離さないままに小さく笑う。
思わず気を許してしまいそうな笑顔だが、それが彼の武器であり、最も危険な特徴だと亜樹も気付いている。
その証拠にリオネスは一樹が文句を言ったので、挑発するように更にベタベタと触るようになった。
明らかに意思をもった指先が、触れるか触れないかという絶妙な動きで滑らかに項を這う。
亜樹がビクッとすると、リオネスは満足そうに笑った。
その瞬間だけ彼の本性が出て、亜樹はぞっとしたものだ。
何故なら無邪気さの中に残酷さが見え隠れする、それは恐ろしい笑顔だったので。
無邪気なのも本質らしいが、それと同時に相手を従わせてしまう強い力も持っているようだった。
子供らしい素振り。
愛すべき憎めない態度。
どれも本来の彼の特徴らしいが、それを計算して利用しているのは確かだ。
そのことに気付き、ぞっとしたのである。
もしリオネスと対立したとしよう。
その場合、リオネスに非があろうとその他大勢の人々はこのくらいのことで腹を立てずにリオネスの言う通りにしなさいというだろう。
彼は人々をそういうふうに従わせているのだ。
リオネスが言ったことなら仕方ない。
そう思わせることに成功している。
そうして欲しいものはなんでも手に入れてきたのだ。
「そこまでその子を庇う事情を知りたいね。きみとはどういう関係なんだい?」
「ぼくらが知っているかぎり、カズキは自分の世界とは、ほとんど関わりを持っていない。それでだれかにそこまで入れ込むというのは理解できませんね。それに普通の関係じゃないんでしょう? わざわざここまで追ってくるくらいなんですから」
エルシアとアストルに淡々と痛いところを突かれて一樹は黙り込んだ。
亜樹の意識がなかったら、リーンたちには打ち明けたことだから、別に亜樹のガーターだと認めてもいいのだが、今の亜樹には意識がある。
真実を知らない彼の前で説明できない。
それに今エルシアたちに事実を打ち明けるのは躊躇われたし、打ち明けたらもっと亜樹に執着するような気がした。
だが、杏樹が人ではなく形代と呼ばれる魂のない器であること。
これを二度と亜樹たちの前で言わないと約束させるには打ち明けるしかないこともわかっていた。
一樹も厄介な立場に立ったものである。
ため息をつく一樹にすべての視線が集中していた。
どうやら謎を解く鍵を持っているのは他ならぬ一樹らしいと。
「だれが双生児の妹なの?」
頬に触れ亜樹の滑らかな肌の感触を楽しんでいたリオネスに訊かれ、亜樹はようやく彼が必要以上に身体に触れてくることに気付いた。
戸惑って離れようとするのだが、やはり動けない。
抵抗する素振りを見せると睨まれるからだ。
軽い一睨みなのだが、どういうわけか逆らえないのである。
逆らったら酷い目に遇いそうで。
そうして抵抗をやめ素直に従うと微笑む。
見事に邪気のない愛らしい笑顔で。
ひょっとしたら3兄弟の中で1番厄介な性格をしているのではないかと、遅蒔きながら気付いた亜樹は青ざめた。
その相手と1番近くにいて威嚇されて動けないというのが亜樹の危機感を煽った。
かといって刺激してなにかされても困るので、やたらと触ってくるリオネスのことは意識しないように自分に言い聞かせ、彼の問いかけに答えた。
「右側にいるだろ? おんなじ顔してるのに、なんで気付けないんだ?」
「「「おんなじ顔?」」」
3人が同じ顔で同じ言葉を呟いた。
まるで亜樹の言葉を否定するように。
やっぱり亜樹の双生児の妹らしくないかと杏樹はため息の嵐だ。
比較されたら自分の方が劣ることは知っていた。
しかし遠慮会釈なく指摘されるのは、やはり堪えた。
今までここまではっきりと亜樹はこれだけ綺麗なのに杏樹はこの程度かと言われたことはなかったので。
もし本音ではそう思っていたとしても、皆良心というものがあったので、面と向かっては指摘しなかった。
それをするということは彼らが頂点に立つ者で、だれかに対して気を使ったことなどないことを証明していた。
その証拠に将来、この国を治めるリーン・アディールも、杏樹が亜樹の捜している双生児の妹だと悟ったとき、おそらく無意識だろうが軽い落胆の吐息を吐いたのだ。
おそらく亜樹を見ていて双生児と聞いたせいで、杏樹も同じくらい綺麗なのではないかと期待していたのだろう。
杏樹の外見では期待はずれということだ。
もうすっかり慣れっこになった反応だというのに指摘されると堪える。
だが、この失礼極まりない反応に兄の亜樹の方がキレた。
「杏樹がオレの妹だと悪いのかよっ!? なんだよっ!! その失礼な反応はっ!!」
いきり立つ亜樹に彼の不興を買いたくなかったエルシアたちは、すぐに謝罪しようとしたのだが、ふとあることに気付き、じっと杏樹を凝視した。
あれほどの美形に見つめられたことなどない杏樹は顔を赤くしている。
「本当に双生児なのかい?」
エルシアが振り向いて亜樹に問い、彼はカッとなったようだった。
「だから、さっきからそう言ってるじゃないかっ!!」
「いや。顔かたちのことじゃなく」
言いかけたエルシアの言葉を無邪気なリオネスが引き取った。
「だってこの娘には魂がないよ? 生きていないのに双生児っていうのはおかしいと思うけど?」
愕然とする亜樹と杏樹のふたりに慌てた一樹が割り込んだ。
「相変わらず無邪気な顔でとんでもないことを言う奴だな、リオンっ!!」
「あれ、カズキ?」
リオネスの驚いた声で彼の存在に気付いたエルシアとアストルも意外そうに一樹を見た。
「初対面であんまり失礼なこと言ってんじゃねえよ。その癖なんとかしろって言っただろうが、オレは。別れの言葉を聞いてなかったのかよ、おまえは?」
「……あれ別れの言葉だったの? 気付かなかったよ」
あっけらかんと言われて一樹の肩が落ちた。
「それにしてもその額のアザ。どうしたの? よりによって海神レオニスの紋章だなんて」
「それにカズキの力も増したようだね。1年前とは比較にならないよ」
「どうやらぼくらに隠していることがありそうですね、カズキ? ここでぼくらを止めるってことは、暴露されたくない秘密があるってことでしょう?」
面白そうにネチネチ苛めるふたりに、兄の翔が弟の幼少時を想像してちょっと同情した。
嫌われているわけではなさそうだが、これでは身近なおもちゃ同然である。
苛める銀の瞳がキラキラと輝いている。
一樹がひねくれるのも無理ないなとそんなことを考えていた。
「隠していることなんかなんにもねえよ。それよりリオン。いい加減に亜樹から手を離せ。本気で怒るぜ?」
一樹は口を出すタイミングのを図っていたが、亜樹が威嚇され硬直して動けないでいることには、きちんと気付いていた。
リオネスの本性に気付いていたのだろう。
亜樹は本能的に逆らったときのことを考え、恐れて動けないようだった。
亜樹が抵抗しないのをいいことに、リオネスは調子に乗って、あっちこっちを触りまくっていた。
といっても主に髪や頬に触れるだけだが。
だが、時折、意味ありげに唇を掠めていくこともあり、一樹は癇に触っていたのだ。
それに触れているのは顔の近くだけとはいえ、思わせ振りに項に手を這わせたりしていたし、亜樹に邪な思いから触れていることなど、同性の眼から見れば明らかだった。
リオネスが亜樹に触れる意味に気付いていないのは、イブ・ロザリアと杏樹くらいのものだろう。
亜樹は理解するところまでいかないが、危機感は覚えているようなので。
不愉快な気分になっていたのは、実は一樹だけではない。
翔は自分が口を出すような場面ではないと、必死になって堪えていたが腹を立てていたし、エルシアたちに好印象を抱いていないリーンも、お気に入りの亜樹にわざとらしく触れて楽しむ様子を見て、ムッとしていたので。
いつもならイブのご機嫌を取るために、彼女を優先する彼らが、今日はイブには意識も向けない。
その辺はいっそさばさばしていて気持ちがいいくらいだが、今度は亜樹がターゲットになったのでは、リーンの複雑な心境は変わらないのだ。
それどころか恋愛対象にならない姉が相手のときより、ずっと気分が悪かった。
リーンが気に入った相手は必ずエルシアたちの目に留まる。
その避けられない現実を思い知らされた気分だった。
不機嫌そうな一樹に文句を言われたリオネスは、亜樹に触れた手は離さないままに小さく笑う。
思わず気を許してしまいそうな笑顔だが、それが彼の武器であり、最も危険な特徴だと亜樹も気付いている。
その証拠にリオネスは一樹が文句を言ったので、挑発するように更にベタベタと触るようになった。
明らかに意思をもった指先が、触れるか触れないかという絶妙な動きで滑らかに項を這う。
亜樹がビクッとすると、リオネスは満足そうに笑った。
その瞬間だけ彼の本性が出て、亜樹はぞっとしたものだ。
何故なら無邪気さの中に残酷さが見え隠れする、それは恐ろしい笑顔だったので。
無邪気なのも本質らしいが、それと同時に相手を従わせてしまう強い力も持っているようだった。
子供らしい素振り。
愛すべき憎めない態度。
どれも本来の彼の特徴らしいが、それを計算して利用しているのは確かだ。
そのことに気付き、ぞっとしたのである。
もしリオネスと対立したとしよう。
その場合、リオネスに非があろうとその他大勢の人々はこのくらいのことで腹を立てずにリオネスの言う通りにしなさいというだろう。
彼は人々をそういうふうに従わせているのだ。
リオネスが言ったことなら仕方ない。
そう思わせることに成功している。
そうして欲しいものはなんでも手に入れてきたのだ。
「そこまでその子を庇う事情を知りたいね。きみとはどういう関係なんだい?」
「ぼくらが知っているかぎり、カズキは自分の世界とは、ほとんど関わりを持っていない。それでだれかにそこまで入れ込むというのは理解できませんね。それに普通の関係じゃないんでしょう? わざわざここまで追ってくるくらいなんですから」
エルシアとアストルに淡々と痛いところを突かれて一樹は黙り込んだ。
亜樹の意識がなかったら、リーンたちには打ち明けたことだから、別に亜樹のガーターだと認めてもいいのだが、今の亜樹には意識がある。
真実を知らない彼の前で説明できない。
それに今エルシアたちに事実を打ち明けるのは躊躇われたし、打ち明けたらもっと亜樹に執着するような気がした。
だが、杏樹が人ではなく形代と呼ばれる魂のない器であること。
これを二度と亜樹たちの前で言わないと約束させるには打ち明けるしかないこともわかっていた。
一樹も厄介な立場に立ったものである。
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