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第八章 続・兄と弟ー嫉妬と憎悪ー

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「あのね、兄さん」

「なんだ?」

「ぼくには弟がいるの?」

「!」

 驚いた顔になるジェイクに、優哉は申し訳ないと頭を下げた。

「家系図を調べたんだ。第3妃には妊娠の記録はあるのに、出産の記録はない。何故なら子供が産まれる前に離婚され、王家のものではなくなったから」

「セイル」

「これってどういうこと? 産まれてきた子は、ぼくの弟なの? それとも違うの?」

「‥‥‥何故妹ではなく弟だと思ったんだ? セイル?」

「‥‥‥勘、かな」

 違う。

 セイルは確実にレインのことを言っている。

 何故隠す?

「ねえ、兄さん。ぼくは兄さんを裏切らない。兄さんに隠し事もしない。だから」

「セイル?」

「ぼくになにかあったら、兄さんがぼくを見つけてね?」

「セイル? なにかあったのか? なんだか変だぞ?」

「ぼく。そろそろ行くね。兄さん。約束だからね!」

 それだけ言ってセイルは出て行ってしまった。

「ミント!」

 気を利かせてふたりきりにしてくれたミントの名を呼ぶ。

「なんでしょうか? 殿下?」

「今すぐセイルを追え! もし見失ったら‥‥‥」

『枕が好き!』

 意味不明で唐突だったあの言葉。

 もし自分になにかあったら、
そこを調べろという意味だったとしたら?

「セイルを見失ったら、セイルの自室の枕や枕周りを徹底的に調べるんだ!」

「はっ!」

 余計な質問はせずにミントは部屋を飛び出していった。

 今出て行ったというのに、セイルの姿はもうなかった。

 これは最初からジェイクと逢ったら、姿を眩ますつもりだったに違いない。

 ミントは慌てて優哉の自室を目指して早足で移動した。

 護衛のものたちを一喝して叱ってから、ジェイク殿下の命令といい、特別に主人のいない世継ぎの部屋へ入った。

 寝室は一番奥だ。

 確か指示では枕を探せと。

 指示通り枕の下に手を突っ込むとカサリと音がした。

 取り出してみると手紙だった。

 封を切られた跡がある。

『ミリアージュ・ヘイゼルとケント・ネイルは預かった。ふたりを殺されたくなければ指示に従え。まずはこの手紙を燃やすこと。その後は手のものの指示に従え。他言無用であること忘れぬように』

「『第三王子、レイン・マクレイン』」

 脅迫状が届いていたなんて迂闊だった。

 宮殿に保護して安心してしまったのだ。

 この手紙を処分しなかったのは、セイルなりの苦肉の策で、なにかあったときの保険といったところだろうか。

 つまりセイル自身、身の危険を感じているということだ。

 それでもついて行ったのは、それだけふたりが大事だからだ。

「抜かったわ。気が緩むときを狙われていたのね」

 これは即座に手を打って、ジェイクに報告しないと。

 だってあのときセイルが言い残したのは、

「ねえ、兄さん。ぼくは兄さんを裏切らない。兄さんに隠し事もしない。だから。ぼくになにかあったら、兄さんがぼくを見つけてね?」

 なのだから。

 すべての手を打ってセイルの捜索を開始させると、もう一度ジェイクの元に戻った。

「セイルが消えたらしいな? 一体どういうことなんだ?」

 部屋に入った途端、ジェイクに詰め寄られて、ミントは入手した脅迫状を手渡した。

 読んで行く内にジェイクの顔色が青ざめていく。

 同時に蘇る最後のセイルの言葉。

「ねえ、兄さん。ぼくは兄さんを裏切らない。兄さんに隠し事もしない。だから。ぼくになにかあったら、兄さんがぼくを見つけてね? 約束だからね!」

 この脅迫状を残して在処まで提示したのが、セイルの覚悟の証。

 ならばセイルの気持ちに答えなくては!

「手は打ったのだな? ミント?」

「はい。ですが足取が掴めません。なにか特殊な方法を使っているようで」

「知っているか? ミント? 王家の血を引く直系同士なら、血を使うことで相手の居場所を特定できる。血が濃ければ濃いほど簡単に」

「それは存じております。実のご兄弟なら確実でしょう。しかし」

「そう。これを行いセイルしか引っ掛からなかった場合、レインは父上の血を引いていない証になる。セイルがそれを知った上で仕組んだのかは知らないが」

「セイル殿下の境遇では、ご存じないかと」

「だな」

「これをやり居所を特定できたとき、レインの身元がはっきりしたら、おそらくセイルの身が余計に危なくなる。まさにヘイゼル卿の呪いそのものだな」

 あの当時、ヘイゼル卿を強攻に走らせた本当の動機。

 ヘイゼル公爵家が取り潰された真実の理由。

 今の時代はあの頃を映す鏡だ。

 セイルには言いたくなかった第二王子の苦悩。

 とりあえず悲嘆に暮れていても仕方ない。

 セイルが傷付けられる前に動くとするか。
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