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第六章 反逆者の末裔
(6)
しおりを挟む優哉の家のリビングへと案内されたミリアは、やはり囚人という立場は変わらないのか、一応ソファには案内されたが、それだけだった。
お茶を用意しようとした秋子に、ミントが「必要ありません」と素っ気なく言ったからだ。
優哉は文句を言おうかと思ったが、これには秋子が言い返した。
「ミント様。そこまでする必要もないと思います。彼女はきっと昨夜からほとんどなにも食べていない。飲んでもいない。少しの飢えを満たして渇きを満たしても、誰にも抗議はできないはずですから」
ミントはそれでも「必要ない」と突っぱねたが、これにはジェイクが仲介に入った。
「ここまで連行したんだ。そこまで警戒することもないだろう」
「ですがここは宮殿ではありませんし」
「彼女の処遇はまだ決まっていない。今彼女に対してそういう振る舞いに出る必要性をわたしは感じない。わかってくれないか、ミント?」
ジェイクにこう言われてしまえば彼女には逆らえない。
渋々秋子に頷いてみせる。
それを見届けて秋子はミリアのために軽い食事を用意した。
温かい湯気が立ち上る食事を用意され、たっぷりの飲み物も用意されたが、ミリアは食べる気にならなかった。
手をつけない彼女に護が口を挟んだ。
「欲しくなくても食べなさい」
「おじさん」
「これからどうなるにしても、食べて体力を養うこと。それは悪いことではないはずだ」
運命を受け入れたくないのなら、自分で運命を切り開きたいのなら、食事はきちんと食べるべきだと言われて、ミリアはおずおずと口に入れた。
懐かしいおばさんの味がする。
泣きそうになったが、ここが敵地だと思い出して、必死に涙を堪えた。
「ではミリアージュ・ヘイゼルがなにをしたか。いや。過去にヘイゼル家の者がなにをしたか。まずその説明からしようか」
そう言ってジェイクは口を開いた。
今からずっと昔にこの国にはアルバートという名の公爵がいた。
彼の家名がヘイゼルだったのだ。
現存するヘイゼル家の者はアルバート・ヘイゼル卿の末裔である。
ヘイゼル卿は時の世継ぎの王子と親友として育った。
そうして時は流れ、ふたりが青年になった頃、ふたりは同時に婚約することになる。
どちらもが仲睦まじく暮らしていて、このまま幸せになれるかと思われた。
だが、実はヘイゼル卿は親友の世継ぎの婚約者に懸想していた。
一方的な片想いではあったが、恋い焦がれていたのだ。
姫には相手にされていなかったが、ヘイゼル卿はある日蛮行へと走る。
姫の下へ夜這いして純潔を奪ってしまったのだ。
姫は激しく抵抗したらしいが、女の身で男相手に逆らえるはずもなく、王子に嫁ぐ前に純潔は奪われてしまった。
そのことを悔やんで姫は自決。
もちろんヘイゼル卿がやったことはすぐに露顕し、彼は投獄され親友に裏切られ婚約者が自殺するところまで追い込まれた王子は、とても苦しんだという。
だが、悲劇はそれだけでは終わらなかった。
ヘイゼル卿はこう思っていたのだ。
姫が死んだのは自分に抱かれたことを許せず、王子が彼女を一方的に断罪したせいだ。
彼が婚約を解消して自分との仲を認めてくれれば、彼女は死なずに済んだ。
なのに彼女を殺した王子は生きていて、自分はこうして幽閉されている。
こんなことがあっていいのか?
誰が聞いても言い掛かりだったし、姫が愛していたのは王子の方である。
それでヘイゼル卿を選ぶなどあり得ないのに、ヘイゼル卿はそう信じていた。
半年をかけてヘイゼル卿は脱獄。
痛手から立ち直れないまま、婚礼を挙げて国王となっていた王子を弑逆した。
そう。
ヘイゼル卿は反逆者だったのである。
もちろん二度の蛮行が行われたのだ。
処刑とかそういう手段を取ることもなく、ヘイゼル卿はその場で斬り捨てられた。
これによりヘイゼル家は断絶。
子供のいなかった国王の後は、弟の第二王子が継いだ。
「ここまでの話を聞いた限りでは、どうしてヘイゼル卿に末裔がいたのか。不思議に思うところだろう。ヘイゼル卿には婚約者がいたと言っただろう?」
「うん」
「はい」
「彼女は身籠っていたんだ」
信じられないとふたりは目を見開いた。
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