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第六章 反逆者の末裔

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 刻一刻と時が流れていく。

 月はもう頂上だ。

 家の中は寝静まっているように感じられる。

 兄は最近身体を動かさない所為で寝付きが悪いと聞いていた。

 もう眠っただろうか。

 それだけが気掛かりで動けなかったのだが。

 父や兄、ミントを出し抜くのは骨が折れる。

 でも、やり直しはできないし失敗もできない。

 また時間が流れていく。

 月が雲に隠れる。

 それを確認して窓を開いた。

 優哉の寝室は都合の悪いことにジェイクの寝室の真上にあった。

 ふたつの部屋を一本の大木が隠している。

 これを伝っていくしかないのだが、バレないだろうか?

 細心の注意を払って木の枝を伝っていく。

 兄の部屋の窓が見えたとき、そっと部屋の中を覗き込んだ。

 寝台の上で兄が眠っている。

 どうやら大丈夫そうだと安心して着地した。

 そのままミリアとの約束の場所へと駆けていく。

 その着地のときの僅かな葉擦れの音でジェイクは目を覚ました。

「?」

 遠くなっていく靴音。

 誰かが駆けていく音。

 この靴音は。

 このリズムは。

「セイル? セイルの靴音だ」

 弟が帰って来るのをいつも待っている間に覚えた弟の靴音。

 歩くとき、走るときのリズム。

 弟特有の。

 今遠くなっていく靴音は、間違いなく弟のものだった。

 地理に詳しくないジェイクには、どこに向かっているかがわからない。

 上半身を起こしたいが、それもできない。

 苛立ってふっと思い出した。

 夜でもいいから急用が出来たときは鳴らしてほしいと、ミントが用意してくれた呼び鈴。

 片手で引っ張れる位置にそれはある。

 慌ててそれを手探りした。

 目が見えないことがもどかしい。

 目さえ見えたら手探りで探さなくても、すぐに鳴らせるのに。

 そう思ったとき、強い意思の力が奇跡でも起こしたのか。

 ぼんやりとなにかが目に映った。

 まだ影のような輪郭だったが、見慣れない景色。

 物の形しかわからないが、どこになにがあるかくらいは見える。

「マモルの家、か? 目が見え始めている?」

 弟を心配する気持ちが奇跡を起こした?

 視線を彷徨わせるとすぐ近くに呼び鈴があった。

 左手を伸ばす。

 思い切りそれを鳴らした。

 リン、リン、リンと響いていく鈴の音。

 息を詰めて待っていた。

 今の呼び鈴で起こされたミントがやって来るのを。





「お腹空いたな」

 月はすっかり傾いて、もう真夜中も通り過ぎようとしている。

 本当に優哉は来てくれるのだろうか。

 ふたりが城と呼んだのは、ふたりで何度も隠れて遊んだ小さな建物。

 子供たちの秘密基地。

 公園の人知れない場所にそれはある。

 母親から隠れて、ふたりでよく遊んでいた。

 ここはふたりで偶然見つけた場所で、他の子供にも教えないようにしていた。

 そのせいだろうか。

 未だに知られていないらしく、ミリアは今も秘密基地として利用していたのが思い出される。

 昨日の夜からなにも食べていない。

 なにも飲んでいない。

 父と母は取るものもとりあえず、とにかく国を出ようとして、ミリアは国境付近でふたりに逆らって戻ってきたのだ。

 優哉と再会するまで歩き詰めだったし、なにかを購入するにも先立つ物がなく、また顔を出して投獄されるのも怖かった。

 だから、人目に触れないように触れないように振る舞った結果、ミリアは昨夜からなにも食べていないのである。

 なにかを飲むことすらできないまま時間だけが流れていく。

 乾き過ぎて涙も出ない。
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