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第六章 反逆者の末裔

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 第六章 反逆者の末裔




 信じられない気持ちで優哉は廃墟を眺めていた。

 そこにはミリアの家があるはずだった。

 何度も遊びに来ていて、彼女の部屋にだって入ったことがある。

 なのに見慣れた建物は、すべて跡形もなく潰されて更地になっている。

 昨日まであったはずだった。

 昨日だってミリアが家へと帰っていくところを、優哉は物言いたげに見送ったのを覚えているからだ。

 なのに目の前にはなにもない。

 ただ立て札が立っていて、それが状況を説明していた。

 国有地。

 そこにはそう記されている。

 国が所有する土地となったから、ここを更地にした。

 そこには簡潔にそう書かれていた。

「なんで? だってここはミリアの両親であるおじさんやおばさんが苦労して買った新居だって、引っ越してきたときに言ってたのに。土地毎買ったって」

 この国では個人宅を建てたい場合、絶対に必要になってくるのが土地の購入だ。

 私有地を国から購入しなければならない。

 或いは民間で土地を競売にかけているところなどから、土地を買わないことには家を建てられない決まりだった。

 そしてここはある富豪が持っていた土地で、ミリアの両親が交渉の末、手に入れたと聞いていた。

 それが国有地になっているなんて、どう考えてもおかしい。

 上から圧力がかかった。

 そうとしか思えない。

「まさか兄さん?」

 今の今まで考えもしなかった人の名前が浮かぶ。

 ミントを密かに動かせる唯一の人。

 でも、兄が背後にいるなんて思いたくない。

 優哉にもなにも言わず、ミリアに対してこんな行動に出たなんて思いたくない。

 ミリアのことで相談に乗ってくれた兄がなのに、その裏でこんな真似をしていたなんて思いたくない!

「あらまあ優哉ちゃん!」

 驚いた声に振り向けば昔馴染みのおばさんが立っていた。

 ミリアの家の隣に住んでいたおばさんだ。

 なにかと世話をしてくれてミリアと優哉が親しいことも知っている。

 彼女ならなにか知っているだろうか。

「あの。これ、どういうこと? ミリアたちどうしたの?」

「それがねえ。昨日の夕方だったかね。いきなり国のお役人がやってきて、ここの土地を買い占めたって言うんだよ」

「国が買い占めた?」

 このところ目を合わせてくれなかった兄の顔が浮かんだ。

「あたしらは急なことだから引っ越さなくていいって、代替えの土地も用意するから、それまで住んでいいって言って貰えたんだけど」

「それ、ミリアたちは違ったってこと?」

「なにか悪いことでもしたのかねえ、ヘイゼルさん家?」

「どういうこと? 家から追い出されただけじゃないの?」

「日付が変わるまでに国外退去しろというご命令でね」

「国外退去?」

 さすがに青ざめた。

 そんな事態に陥っていようとは思わなかったから。

「それに従えないときは投獄するとまで言われて、ご家族揃って慌てて国外へと旅立たれたよ。いやあ。追い出されたと言うべきかねえ? あれじゃ難民だって」

 国外退去。

 難民。

 罪。

 聞いたばかりの言葉がグルグルと頭を巡る。

「チラッと漏れ聞こえたところによるとね? 永久追放らしいよ?」

「永久追放?」

「この国へは二度と立ち入るな。そういうご命令らしいんだよ。ほんとになにしたんだろうねえ。あんなにいい人たちだと思ってたのに」

 ミリアたちが罪を犯したと信じて疑っていないおばさんに、優哉は叫びたい衝動を堪えるのに苦労した。

 ミントに言わせればミリアは罪を犯しているのかもしれない。

 それもこの国を左右するような罪を。

 でも、それは誰も知らないような、少なくとも当事者のミリアも知らないような罪だったはずだ。

 なのに国外退去、永久追放。家屋敷の没収。

 当然仕事もダメ。

 家財一切を失う。

 そこまでされないといけない。

 それに従えないときは投獄。

 本人たちも知らないような罪で、ここまでされなければならないなんて理不尽すぎる!

「これでもぼくになにも知らないままでいろっていうの? 兄さん?」

 誰にも聞こえないようにそう囁いた。
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