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第五章 ヘイゼル卿の呪い
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「ユーヤが王族でしかも次期国王で、そのユーヤをミリアが好きで、無理にキスしたから? だから、どうしてミリアを退学させるんですか? 教授?」
「そのことについては殿下にもご説明していないのです。貴方に説明すると思いますか?」
「そんな王族の横暴が通るものか! ミリアを学園に戻せ!」
「王族の横暴と映ろうと、わたしは正しいことをしています。貴方に責められる謂れはありません」
ミントの冷酷ともいえる反応に、ケントは握り締めた拳を震わせる。
そのまま優哉を睨んだ。
「全部お前が元凶だ」
「そうみえるかもしれないね。現実にぼくもそう思ってるし」
「俺がコケにされたのも、ミリアが不幸になったのも、全部お前のせいだ!」
ケントが感情的に拳を振り上げる。
優哉は殴られる覚悟をして目を閉じた。
だが。
「っ」
呻き声が聞こえて目を開ける。
目の前でケントがミントに片腕を捻られ、押さえつけられていた。
捻った肩を捻り上げられて嫌な音を立てる。
ケントの顔色が一瞬で真っ青になった。
「殿下に無礼な真似は許しません。次期国王への反逆とも受け取れますよ?」
「処罰するならしろ! 誰がお前たちに屈するか!」
「自惚れるのも大概にしなさい!」
ミントが捻じり上げる腕に力を込める。
ケントはもう声も出ないのか、ただ息を詰めていた。
「悲劇の主人公ぶっていれば満足ですか? 貴方を傷付ける形になって、殿下が少しも苦しまなかったと、そう思えるのですか? 貴方はその程度にしか殿下を見ていなかったのですか?」
ケントはなにも言わなかったが、苦痛に歪むその顔に迷いのようなものが浮かんでいた。
「ミリアージュ・ヘイゼルのことで恨むなら、わたしを恨みなさい。殿下はなにもご存知ではなかったのです。すべてわたしの一存でやったこと。真実をなにも知らない貴方に責められたところで、わたしはなにも感じません」
「自惚れてるのはどっちだ? 人の人生を狂わせておいて、なにも感じない、だって?」
脂汗を掻きながらもケントはそう言った。
「その言葉そっくり返しましょう。ミリアージュ・ヘイゼルは一国を左右する罪を犯している。人生を狂わされたのは彼女ではありません。この国です」
この言葉には優哉も息を呑んだ。
ミリアがこの国を左右する存在?
「今度殿下に狼藉を働こうとしたら、貴方を反逆罪で投獄します」
それだけを言ってミントはケントを部屋から追い出した。
突き飛ばして腕を解放して。
振り向いたケントは苦々しい顔で、優哉とミントを睨んで、結局なにも言わずに立ち去った。
痛そうに腕を押さえながら。
「ミント教授」
「なんでしょうか?」
「ほんとにミリアはこの国を左右する罪を犯してるの?」
この問いに迷ったように頷かれ、優哉はもうなにも言えなくなった。
放課後になったら彼女に逢いに行こう。
そう心に決めて。
「そのことについては殿下にもご説明していないのです。貴方に説明すると思いますか?」
「そんな王族の横暴が通るものか! ミリアを学園に戻せ!」
「王族の横暴と映ろうと、わたしは正しいことをしています。貴方に責められる謂れはありません」
ミントの冷酷ともいえる反応に、ケントは握り締めた拳を震わせる。
そのまま優哉を睨んだ。
「全部お前が元凶だ」
「そうみえるかもしれないね。現実にぼくもそう思ってるし」
「俺がコケにされたのも、ミリアが不幸になったのも、全部お前のせいだ!」
ケントが感情的に拳を振り上げる。
優哉は殴られる覚悟をして目を閉じた。
だが。
「っ」
呻き声が聞こえて目を開ける。
目の前でケントがミントに片腕を捻られ、押さえつけられていた。
捻った肩を捻り上げられて嫌な音を立てる。
ケントの顔色が一瞬で真っ青になった。
「殿下に無礼な真似は許しません。次期国王への反逆とも受け取れますよ?」
「処罰するならしろ! 誰がお前たちに屈するか!」
「自惚れるのも大概にしなさい!」
ミントが捻じり上げる腕に力を込める。
ケントはもう声も出ないのか、ただ息を詰めていた。
「悲劇の主人公ぶっていれば満足ですか? 貴方を傷付ける形になって、殿下が少しも苦しまなかったと、そう思えるのですか? 貴方はその程度にしか殿下を見ていなかったのですか?」
ケントはなにも言わなかったが、苦痛に歪むその顔に迷いのようなものが浮かんでいた。
「ミリアージュ・ヘイゼルのことで恨むなら、わたしを恨みなさい。殿下はなにもご存知ではなかったのです。すべてわたしの一存でやったこと。真実をなにも知らない貴方に責められたところで、わたしはなにも感じません」
「自惚れてるのはどっちだ? 人の人生を狂わせておいて、なにも感じない、だって?」
脂汗を掻きながらもケントはそう言った。
「その言葉そっくり返しましょう。ミリアージュ・ヘイゼルは一国を左右する罪を犯している。人生を狂わされたのは彼女ではありません。この国です」
この言葉には優哉も息を呑んだ。
ミリアがこの国を左右する存在?
「今度殿下に狼藉を働こうとしたら、貴方を反逆罪で投獄します」
それだけを言ってミントはケントを部屋から追い出した。
突き飛ばして腕を解放して。
振り向いたケントは苦々しい顔で、優哉とミントを睨んで、結局なにも言わずに立ち去った。
痛そうに腕を押さえながら。
「ミント教授」
「なんでしょうか?」
「ほんとにミリアはこの国を左右する罪を犯してるの?」
この問いに迷ったように頷かれ、優哉はもうなにも言えなくなった。
放課後になったら彼女に逢いに行こう。
そう心に決めて。
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