長兄から溺愛された次兄の受難、末弟の歪んだ復讐〜壊れるまで穢したい〜

文字の大きさ
上 下
29 / 46
第五章 ヘイゼル卿の呪い

(7)

しおりを挟む
「否定してるけど、それ、逆説の意味で肯定してるよね。彼女の処罰には、ぼくへの気持ちが絡んでる。それにぼくが次期国王であることも」

 この言葉に答えはなかった。

 ミントは顔を背けたまま目を合わせない。

 それが答えだった。

「ぼくが王族になんて生まれなければ、そうしたらミリアをこんな目に遭わせずに済んだんだ」

 泣き出しそうなその言葉にミントはかぶりを振る。

「例え殿下が王族ではなくても、彼女は日の当たる場所には出られない運命です」

「どういうこと?」

「それが彼女の持って生まれた運命だとお諦め下さい。正直に申しますと殺されないだけ有難いと思ってほしいところなのですから」

「殺すって」

 優哉が言葉を失ったとき、ガタンと扉の付近で音がした。

 ハッとふたりが振り返る。

 そこではケントが愕然とした表情で立っていた。

「ケント」

「どういうことなんだ? ミリアの気持ちがユーヤのところにあるとか、ミリアがユーヤに無理にキスしたとか。それにユーヤが王族で次期国王だとか。一体なにがどうなってるんだ?」

「ケント・ネイル。少し静かにしなさい」

 ミントの威厳溢れる声にケントが気圧されて黙り込む。

「扉を閉めて中に入りなさい。聞かれてしまったのなら、説明しますから」

 言われてケントは覚悟を決めて扉を閉めて中に入った。

 優哉は窓の近くにいて苦い顔で顔を背けている。

 ケントにはよく見知っているはずの優哉の顔が、今はまるで知らない人に見える。

「まずはミリアージュ・ヘイゼルについてですが、これは本来殿下がされるべき説明です。ですがここで聞かれてしまったので、わたしの方から説明しましょう。彼女は幼い頃からセイル殿下が、幼馴染のユーヤアヤベが好きだったようです」

 ここでミントは大体の説明をした。

 ミリアはずっと幼い頃から優哉が好きだったこと。

 でも、優哉は妹としてしか見ていなくて、彼女を全く意識していなかったこと。

 幼馴染の妹代わりでしかないことを彼女が気に病んで焦れていたこと。

 そんなときにケントから告白され、彼女は優哉を刺激するため、優哉に嫉妬させるために、好きでもないのに告白を受けたこと。

 でも、彼女は遂に行動を起こし優哉に気持ちをぶつけ、そのときに無理に彼にキスしたことを。

「俺のことは好きでもなんでもなかった? 俺の告白を受けたのは、ユーヤへの当て付けだった? ユーヤをその気にさせるための当て馬だった? 俺は?」

 ケントは愕然とそう溢した。

 優哉はなにも言えない。

 ただ唇を噛んで黙っていることしかできない。

「このことで殿下は貴方やミリアージュ・ヘイゼルと、きちんと話し合われるおつもりでした。ご自分の責任から逃げ出すつもりはなかったのです。ただそれよりもわたしの動きの方が早かっただけで」

「ユーヤが王族だって?」

「はい。本名はセイル・マクレイン様と申されます。先の国王陛下の第二子に当たられます」

「そんな王子がいたなんて全然知らない。聞いたこともない」

「この国では第一王子以外は、王子や王女を名乗れません。複数お子様が生まれても、そう名乗れるのはただひとり。お世継ぎだけです。ですから第二王子以下のお子様方は市井へと出されて臣下の養子として育ちます」

「え? じゃあユーヤって養子だったのか?」

 信じられないという声に優哉はそうだろうなとため息を漏らす。

 自分で言うのもなんだが、優哉はなさぬ仲の割には、両親とは仲の良い親子だったと思う。

 血の繋がりを疑う要素があるとしたら、似ていない外見や髪や瞳の色の違いくらいだ。

 だから、優哉の素性はバレなかったのだろう。

「でも、どうしてユーヤが次期国王なんだ? 普通ならジェイク殿下が」

「ジェイク殿下はもう国王にはなれません」

「なんで?」

「理由が必要でしょうか。それは一国民に知らせるような内容ではありません」

 ミントの言い方は慇懃無礼というのだろうか。

 優哉の親友ということで一応敬意は払っているが、口調にどこか挑戦的な色があった。

 頭を抱えて割って入る。

「ミント教授。そんなに突き放さなくてもいいでしょ? どの道いつかは説明しなければならないんだし」

「ですがそれは今ではありません。今現在ジェイク殿下の身になにが起こったか、それを説明する権限をわたしは持ちませんし、セイル殿下にしても説明すべき時期ではないことは、お認めになっていらっしゃるはずです」

「わかってるけど」

 教授を名乗るミントと対等に話している優哉を見て、ケントは認めるしかなかった。

 彼が次期国王なのだと。

 そして彼の護衛か、若しくは保護のために、この女性がやって来た。

 つまりその時点でジェイクの身になにかが起こっていて、彼は既に王位を継げない状態だった。

 そうなると王位を継ぐ資格を持っているのは、幼い頃に養子に出された第二王子のみ。

 そのために優哉は王族という立場に戻らなければならなくなった。

 そういうことなのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...