17 / 46
第四章 兄と弟
(1)
しおりを挟む第四章 兄と弟
その日の夜、優哉の自宅では父と母、そしてミントの3人が集まって会議を行っていた。
「優哉は、セイル殿下はなにか隠していますね」
護の言葉に秋子が頷く。
「確かにあの子はなにかを隠しています。それに夕飯にも出てこなかったので、わたししか知らないことですが、陛下の形見のスカーフを何故か外していました」
「他に不審なことは?」
ミントに問われて唯一学園から帰宅した後の優哉と逢っている秋子が、あのときの息子の様子を思い出しながら答えた。
「なんだか酷く冷や汗を掻いていて、それに落ち着きがありませんでした。それに気のせいでなければ、わたしが部屋に入ったとき、頻りに自分に落ち着け、落ち着けと言い聞かせていました。まるで動揺を悟られまいとするかのように」
「つまり動揺するようななにかがあった? でも、一体なにが?」
ミントが深く考え込むように目を伏せる。
「取り敢えず朝になるのを待ちましょう。セイル殿下も眠ってしまったみたいですし。今は動きようがありません」
本人が眠っているのではどうしようもない。
そう主張する護にミントは頷いた。
ミントは優哉の護衛についてから、この家に住んでいるので当然だが朝になれば優哉と逢える。
しかし今夜だけは徹夜で見張っていた方がよさそうだと判断した。
翌朝起きてきた優哉を見た3人は、さりげなく彼の右手首に目をやった。
そこにあるべきスカーフはやはりない。
代わりにリストバンドをしていた。
刺青を隠すためだ。
あの学園は刺青を認めていないし、なによりも刺青をするのは王家の子供たちだけ。
見せてしまえば身分を悟られかねない。
だから、身分を明らかにして通っていたジェイクも、右手首に父の形見のスカーフをしていたのである。
王家の者は基本的に刺青を隠して生活しているので。
優哉は気もそぞろで朝食もほとんど口をつけることなく、「御馳走様」と席を立った。
そのまま学園へと向かう優哉の後をミントが追いかける。
今日は優哉の様子が昨日から変なので、ミントだけでなく護も護衛についていたし、他にも優哉専属の護衛を配置していた。
神経をピリピリ尖らせている優哉は、それにも気付かない。
ピリピリし過ぎているのと、昨夜からろくに食事が喉を通らないせいで、集中力に欠けていたのだ。
その日、ミントは自分以外にも護衛がついていたことを知っていたので、わざと優哉の前で隙を見せた。
なんとか抜け出そうとしていることに気付いて優哉にこう言い置いたのだ。
「わたしは今日は職員会議ですので、殿下は先にお戻りください。いいですね? 呉々も寄り道はしないように」
そのま真っ直ぐに職員室へと消える。
優哉は喜色満面ですぐに学園から飛び出した。
それを職員室から見送ったミントは、あからさまに挙動不審でありながら、それにすら気付けないらしい優哉に呆れてしまった。
同時に何故そんなに動揺しているのかが気になったが。
優哉が学園を飛び出した後で、彼の後をすぐに追ったのは近衛隊の将軍である義理の父、護だった。
その更に後をミントが追いかけて、目立たないところで他の護衛が追いかけている。
そんな中で優哉は一目散に宝石の買い取り専門店に駆け込んだ。
向かった先が意外で護はキョトンとし、彼に追い付いたミントも怪訝な顔になっていた。
「どうして宝石の買い取り専門店?」
ふたりして首を傾げる。
その頃優哉は買い取り専門店で持ち込んだ宝石を鑑定してもらっていた。
「ここまで見事な大きさのピンクダイヤは見たことがないよ。世界でも珍しいんじゃないかな」
「幾らで売れる?」
「悪いがウチでは買えないねえ。適正価格でなくてもいいなら買えるけど、なるべく沢山のお金がいるんだろう?」
「うん。沢山あれば沢山あるほど助かる」
「悪いけど庶民には手が出ない宝石だと思うよ。買えるとしたら今は亡き国王陛下くらいじゃないかな。一国の王でもないかぎり適正価格では買えないと思う」
つまり本来の身分ならどうとでも売り捌けるが、庶民としての優哉には分不相応な宝石すぎて売買は不可能ということである。
ショボショボと店を出ると優哉は途方に暮れて空を見上げた。
この事実から優哉にできる交渉手段は、必然的にこの宝石を手渡して代わりにジェイクを奪い返すということだけだった。
繁華街を力なく歩く。
すると通りすがりの女性にナンパされた。
優哉はなんとか振り切ろうとしたが、すぐに耳許で囁かれた。
「安心すれば? 俺だよ、俺」
言われて顔を覗き込む。
昨日の海賊だと知って一気に力が抜けた。
「その様子だと宝石は捌けなかったようだね」
「一国の王でもないかぎり適正価格で買える人はいないって言われた。その宝石なら取り引きの価値はあるよね? あの人を返してっ!!」
「悪いけどついてきてくれる? 返してやりたくてもあの人が普通の状態じゃないから、こんな街中に連れてくるのが無理なんだよ」
言われてナンパに乗るフリをして、優哉は腕を引っ張られて移動した。
その様子を護衛していたミントたちが見ている。
11
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
催眠術
冬生まれ
BL
いつも根暗で陰キャな朝比奈 日向【あさひな ひなた】は、図書室で見つけた『誰でも出来る催眠術』の本を使い、好意を寄せるクラスの人気者で陽キャな夕凪 十夜【ゆうなぎ とおや】に催眠術をかけた…。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
BLドラマの主演同士で写真を上げたら匂わせ判定されたけど、断じて俺たちは付き合ってない!
京香
BL
ダンサー×子役上がり俳優
初めてBLドラマに出演することになり張り切っている上渡梨央。ダブル主演の初演技挑戦な三吉修斗とも仲良くなりたいけど、何やら冷たい対応。
そんな中、主演同士で撮った写真や三吉の自宅でのオフショットが匂わせだとファンの間で持ち切りに。
さらに梨央が幼い頃に会った少女だという相馬も現れて──。
しゅうりおがトレンドに上がる平和な世界のハッピー現代BLです。
平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!
彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。
何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!?
俺どうなっちゃうの~~ッ?!
イケメンヤンキー×平凡
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる