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第二章 崩れていく平穏
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その頃、親しそうに会話を交わすふたりをケントが見ていた。
ケントは優哉と比べると友達が多い。
そのせいで教室ではあまりひとりになれないが、それは優哉も同じはずである。
優哉の場合、友達が多いというより、憧れている女子が多くてひとりになれないと言うべきだが。
なのにその優哉を取り囲んで離さない女の子たちも、何故かミリアがくると羨ましそうにしているだけで、いつもみたいに積極的に近付いていこうとはしない。
それに1番気に入らないのは、最初の頃こそケントを名指しで訪れていたミリアも、どういうわけか今はケントではなく、優哉を名指しでくることだ。
そのことを責めると「だってケンちゃんは友達に囲まれてて行っても会話できないじゃない」とあっけらかんと言われる。
そのことで揉めてもミリアは態度を改めてくれない。
ケントは何度か友達の輪から抜け出そうとしたし、それが不可能だと悟ると、こうなるのはわかっているのだから、もう休み時間にくるのはやめてくれと言ったこともある。
一緒に過ごせないのにくる意味はないだろうと。
どうせ放課後になれば一緒に過ごせるのだし。
そう言ったのだがミリアは「だってここにくるのが癖になってるんだよ? 突然こなくなったら時間を持て余すよ」と笑うばかり。
そうしてミリアは休み時間に彼氏の下を訪れていても、下手をしたら顔を合わせることなく優哉とだけ会話して戻っていく。
そういう日々が続いていた。
優哉と一緒に過ごしているミリアは楽しそうだ。
そんなことを思っていると傍にいたアランが口を開いた。
「ユーヤの奴、またあの可愛い後輩と一緒だな」
適当にケントが相槌を打つと別の悪友が口笛を吹く。
「本当に楽しそうにユーヤと会話するよな。休み時間毎にくるし、ユーヤと一緒に過ごせてあの彼女も満足じゃないのか?」
「ユーヤみたいな彼氏なら、やっぱり自慢だよなあ」
「まあホラーな噂話もあるけど、ああいう噂ならなにかあっても、ユーヤの不思議な力で庇ってもらえるって女は思うだろうしな」
「なにしろこの学園始まって以来の秀才と言われていて、どうして飛び級しないのか不可解とまで言われてるユーヤなんだ。あの飛び級して入ってきた子には似合った相手だと思うぜ」
「ほんと。似合いの恋人同士だな」
言われてケントは青ざめて好き勝手に会話する悪友たちを凝視した。
「ユーヤとミリアが付き合ってるって?」
「あれ? なんでケントが訊くんだ?」
「あのふたりと1番仲が良いんだ。当然知ってたんだろ?」
「知るわけないだろ」
本当の彼氏は自分だと言おうとして、ケントは続いた科白に言葉を失った。
「有名だぜ?」
「なにせあの堅物のユーヤに自分から近付いてきた年下の女の子ってことで知られてるから」
そう言えばと思い出した。
自分たちが付き合いだした切っ掛けも優哉だった。
ふたりが知り合った馴れ初めも知らない。
ただミリアは優哉の後輩だとしか聞いてない。
同じ学校出身の後輩としか。
そういえばいくらミリアが秀才でも、14でこの学園に飛び級してくるのも変だ。
他の学校ならともかくこの学園はレベルが高い。
すこし頭がいいくらいではついていけなくなる恐れがあるからだ。
現実にミリアはたしかに成績は優秀だが、優哉には遠く及ばない。
飛び級できる条件をかろうじてクリアしているレベルなのだ。
だが、実際には優哉が入学してくるときに合わせたように彼女も飛び級で入学している。
これは同じ学校の先輩後輩という言葉で片付けていい関係なのだろうか。
優哉の成績とミリアの成績が逆なら、特に違和感は感じなかっただろう。
しかし実際には優哉の方が遥かに頭がキレる。
これで飛び級してきたのがミリアというのは、どう考えても無理がある。
ミリアが無理をして飛び級してきたとしか受け取れないのだ。
逆に言うなら噂では僅か12で、この学園への飛び級を勧められたらしい優哉が、それを断り普通に入学してきたのも変だ。
普通なら飛び級を勧められたらするものだし。優哉の場合、何年も我慢する必要があるほど能力が劣っていたとも思えない。
しかし同じ学校の先輩後輩と名乗ったふたりだ。
優哉がそのとき飛び級していたとしたら、ふたりの付き合いもそれまでだったのではなかろうか。
10歳のミリアではこの学園には飛び級できなかっただろうから。
黒い疑惑が渦を巻く。
ケントは視界の隅で楽しそうに会話しているふたりをじっと睨んでいた。
その日の放課後、優哉はミリアには黙ってきてくれと言われケントに呼び出された。
裏庭にまで。
さすがに怪訝に思ったが、そのときはわからなかった。
ケントに呼び出される意味が。
待っているケントに近付いていくと不機嫌そうな顔をしている。
どこからどう見ても怒っていた。
「ケント。なにか用? こんなところに呼び出して」
壁に凭れるようにして立っているケントに近付くと、ジロリと視線だけを向けられた。
「ユーヤはミリアとどうやって知り合ったんだ?」
「どういう意味?」
「よく考えたら俺はユーヤとミリアが、同じ学校の先輩後輩の仲だってことしか知らない」
幼なじみだということを隠している優哉は口を噤む。
ケントは優哉と比べると友達が多い。
そのせいで教室ではあまりひとりになれないが、それは優哉も同じはずである。
優哉の場合、友達が多いというより、憧れている女子が多くてひとりになれないと言うべきだが。
なのにその優哉を取り囲んで離さない女の子たちも、何故かミリアがくると羨ましそうにしているだけで、いつもみたいに積極的に近付いていこうとはしない。
それに1番気に入らないのは、最初の頃こそケントを名指しで訪れていたミリアも、どういうわけか今はケントではなく、優哉を名指しでくることだ。
そのことを責めると「だってケンちゃんは友達に囲まれてて行っても会話できないじゃない」とあっけらかんと言われる。
そのことで揉めてもミリアは態度を改めてくれない。
ケントは何度か友達の輪から抜け出そうとしたし、それが不可能だと悟ると、こうなるのはわかっているのだから、もう休み時間にくるのはやめてくれと言ったこともある。
一緒に過ごせないのにくる意味はないだろうと。
どうせ放課後になれば一緒に過ごせるのだし。
そう言ったのだがミリアは「だってここにくるのが癖になってるんだよ? 突然こなくなったら時間を持て余すよ」と笑うばかり。
そうしてミリアは休み時間に彼氏の下を訪れていても、下手をしたら顔を合わせることなく優哉とだけ会話して戻っていく。
そういう日々が続いていた。
優哉と一緒に過ごしているミリアは楽しそうだ。
そんなことを思っていると傍にいたアランが口を開いた。
「ユーヤの奴、またあの可愛い後輩と一緒だな」
適当にケントが相槌を打つと別の悪友が口笛を吹く。
「本当に楽しそうにユーヤと会話するよな。休み時間毎にくるし、ユーヤと一緒に過ごせてあの彼女も満足じゃないのか?」
「ユーヤみたいな彼氏なら、やっぱり自慢だよなあ」
「まあホラーな噂話もあるけど、ああいう噂ならなにかあっても、ユーヤの不思議な力で庇ってもらえるって女は思うだろうしな」
「なにしろこの学園始まって以来の秀才と言われていて、どうして飛び級しないのか不可解とまで言われてるユーヤなんだ。あの飛び級して入ってきた子には似合った相手だと思うぜ」
「ほんと。似合いの恋人同士だな」
言われてケントは青ざめて好き勝手に会話する悪友たちを凝視した。
「ユーヤとミリアが付き合ってるって?」
「あれ? なんでケントが訊くんだ?」
「あのふたりと1番仲が良いんだ。当然知ってたんだろ?」
「知るわけないだろ」
本当の彼氏は自分だと言おうとして、ケントは続いた科白に言葉を失った。
「有名だぜ?」
「なにせあの堅物のユーヤに自分から近付いてきた年下の女の子ってことで知られてるから」
そう言えばと思い出した。
自分たちが付き合いだした切っ掛けも優哉だった。
ふたりが知り合った馴れ初めも知らない。
ただミリアは優哉の後輩だとしか聞いてない。
同じ学校出身の後輩としか。
そういえばいくらミリアが秀才でも、14でこの学園に飛び級してくるのも変だ。
他の学校ならともかくこの学園はレベルが高い。
すこし頭がいいくらいではついていけなくなる恐れがあるからだ。
現実にミリアはたしかに成績は優秀だが、優哉には遠く及ばない。
飛び級できる条件をかろうじてクリアしているレベルなのだ。
だが、実際には優哉が入学してくるときに合わせたように彼女も飛び級で入学している。
これは同じ学校の先輩後輩という言葉で片付けていい関係なのだろうか。
優哉の成績とミリアの成績が逆なら、特に違和感は感じなかっただろう。
しかし実際には優哉の方が遥かに頭がキレる。
これで飛び級してきたのがミリアというのは、どう考えても無理がある。
ミリアが無理をして飛び級してきたとしか受け取れないのだ。
逆に言うなら噂では僅か12で、この学園への飛び級を勧められたらしい優哉が、それを断り普通に入学してきたのも変だ。
普通なら飛び級を勧められたらするものだし。優哉の場合、何年も我慢する必要があるほど能力が劣っていたとも思えない。
しかし同じ学校の先輩後輩と名乗ったふたりだ。
優哉がそのとき飛び級していたとしたら、ふたりの付き合いもそれまでだったのではなかろうか。
10歳のミリアではこの学園には飛び級できなかっただろうから。
黒い疑惑が渦を巻く。
ケントは視界の隅で楽しそうに会話しているふたりをじっと睨んでいた。
その日の放課後、優哉はミリアには黙ってきてくれと言われケントに呼び出された。
裏庭にまで。
さすがに怪訝に思ったが、そのときはわからなかった。
ケントに呼び出される意味が。
待っているケントに近付いていくと不機嫌そうな顔をしている。
どこからどう見ても怒っていた。
「ケント。なにか用? こんなところに呼び出して」
壁に凭れるようにして立っているケントに近付くと、ジロリと視線だけを向けられた。
「ユーヤはミリアとどうやって知り合ったんだ?」
「どういう意味?」
「よく考えたら俺はユーヤとミリアが、同じ学校の先輩後輩の仲だってことしか知らない」
幼なじみだということを隠している優哉は口を噤む。
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