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第十章 巡り合い

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 第十章 巡り合い



 色町は独特な街だが、皇太后が訪ねてくるような街じゃない。

 しかも皇帝も一緒だったのである。

 人々のざわめきが聞こえてきて、ラスはおや? と窓の外を見た。

 そしてまずリカルドの姿を見て、次いで彼にエスコートされて降りてきたマリアンヌを見て、ラスは思わずあちゃーと呟いた。

「どうかされましたか? 殿下?」

「ヴァン。オッサンとばあさんが来た。すぐに出迎えに動いてくれ。
母さんの護衛には俺とマックス。マリアの姐さんがいれば十分だろ?」

「陛下と皇太后様が? それは大変! それでは御前失礼致します!」

 それが習性なのか。

 ヴァンは一礼すると慌ててふたりの出迎えに駆けて行った。

 それを見送り幾らマリアがいるとは言え、実質自分ひとりでラスも皇后も守らなければならないマックスは、無言で気を引き締めた。

「母さん?」

「いえ。陛下やお義母さまにお逢いするのは久しぶりで、この髪を見てどう思われるかとか、色々考えてしまって」

「普通に綺麗だって思うんじゃないか?」

「そうかしら」

「俺は綺麗だと感じたよ。母さんの髪は白というより、プラチナで光り輝いて見える」

「ルイは優しい良い子ね」

「本音なのに」

 ラスは何故かキャサリンには甘えてしまう傾向がある。

 同じ顔だから血の繋がりを意識させるのか、自然に母だと思えるのだ。

 それでつい甘えてしまう。

 リカルドが見たら妬きそうだなと考えた。

 それから暫くしてヴァンに案内されて、リカルドとマリアンヌが部屋に入ってきた。

 言葉はなかった。

 ただリカルドは妃の姿を確かめて、涙を堪えながらきつく抱き締めたのだった。

「陛下。長くお側を離れてしまい申し訳ございません」

「もうなにも言うな。辛かっただろう? 苦しかっただろう? すべてそなたを守れなかったわたしの咎だ。そなたはなにも悪くはない。それよりもよく生きて戻ってきてくれた、キャサリン」

「陛下。‥‥‥陛下!」

 恋しさや懐かしさ愛しさなど、色んな感情がふたりの胸に去来する。

 ラスは自覚は薄かったが、両親のラブシーンなんて見せられて、視線をどこにやればいいのか迷っていた。

 まあ約20年振りの再会なのだ。

 お互いにあれこれあった上でのことでもあり、熱烈な再会になるのも理解はできる。

 しかし子供の前では控えてほしかった。

 いや。

 マジで。

 目のやりどころに困って、窓の外を見てラスは固まった。

(ジェラルド?)

 いて意外なわけじゃない。

 ただフードを被って人並みに紛れるように、こちらを見ているのが解せなかった。

 周囲には護衛の者もいないようだ。

 当たり前だ。

 ジェラルドが信頼しているマックスは、ここにいるのだから。

 ラスは普段のジェラルドとは違う雰囲気を感じ、さりげなく部屋を出ようとした。

「殿下? どちらへ?」

「ん。用足し。それにそろそろ自警団のみんなにも逢えるだろうから」

「マックスにお供させましょう」

「大丈夫だって。ここは俺の庭みたいなもんだし、今は守るべき対象が多いんだ。俺ひとりに護衛を割くより、ばあさんや父さん、母さんを守ってほしいんだ」

 ここで面と向かって初めて父と呼ばれたリカルドが目を丸くした。

「なんだよ、その顔」

「いや。意外すぎて反応できなかった」

 驚いた顔で言ってから、リカルドは念を押した。

「危ないことはしないな?」

「しねえよ。俺も信用がねえな」

「当たり前だ。何年行方不明になっていたと思っているのだ?」

「ばあさんや母さんに心配させたくないから、危険なことはしない。誓ってもいい」

「わたしだけ省かれた」

「陛下」

「リカルド」

 女性ふたりに慰められるリカルドに笑って、手を振って出て行くラスに、リカルドは違和感を感じて、それとなくマックスに命を下した。

「ルイの後を追え」

「は? しかし」

「嫌な予感がするのだ。頼む」

「承知しました」

 皇帝の命に従ってマックスが下がる。

 キャサリンは逢えたばかりの息子のことが気掛かりで仕方なかった。

 息子の様子が変わったのは確か窓の外を見た後。

 マリアンヌと並んでカーテンに隠れるように窓の外を見る。

 するとマリアンヌが小さく息を呑んだ。

「ジェラルド?」

 その言葉の意味を知らされていたキャサリンは、これからなにか起きる気がして表情を曇らせるのだった。






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