これはきみとぼくの出逢い〜黎明へと続く夜明け前の物語〜

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第十一章 四精霊の愛し子

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 執務室では王妃がイライラと臣下たちに指示を出していた。

 といっても現状でできることといえば、怪我人や病人などを集めて宮殿へと搬送することや、家が火事にあったり水没した人々を救うことくらいである。

 根本的な原因を解決できないのだから仕方のないことだ。

「母上」

「レスターッ! 無事だったのですね、よかった。貴方には精霊使いの力がないから、他国
でなにかあったらと気が気ではありませんでした」

 まだ若い王妃が幼い息子を抱きしめる。

 そんな王妃に向かって近衛隊長が興奮気味に声を投げた。

「精霊使いではないだなんてとんでもない! レスター王子は立派な精霊使いです!」

「え?」

 王妃だけでなく部屋にいた者すべてが驚いてレスターをみていた。

「わたしはみたのです。レスター王子が四精霊を操り見事に精霊を諦める場面をっ! 王子は最上級の精麗使いですっ! 四精霊とも会話していましたからっ!」

「本当なのですか、レスター?」

 驚いた顔の母に問われて、レスターは申し訳なさそうに俯く。

「今まで隠していてすみませんでした、母上。ボクは最上級の称号を得た精霊使いです。
四精霊も使役できます。勿論召還獣を召還することもできます」

「何故隠していたのです?」

「ロベールをみているとどうしても言えませんでした。ボクが精霊使い。それも最上級の使いだなんて」

 王妃は思わずため息をつく。

 息子の優しい気性は知っていたがここまでとは。

 今回こんな異常事態が起こらなければ、息子は死ぬまで隠していたのだろうか。

 それほどの能力を。

 ロベールをみれば放心していた。

 おそらくレスターの能力の高さを見せつけられて、現実を受け入れられず放心しているのだろう。

 なんと器の小さな男なのだろうか。

「貴方が最上級の精霊使いで四精霊も使役できるなら、現状をなんとかできます?」

「そのことでお話が」

 ここでレスターは残りの3ヵ国から、ウィリアム大統領、アレク皇子とカイン皇子ここにいる瀬希皇子とその側室がふたり来訪していることを教えた。

 瀬希と綾都以外はユニコーンを召還したりして治療に走り回っていることも。

「ウィリアム大統領やアベル皇子までが本来は敵国だというのに有り難いこと。貴方が潮希皇子ですか?」

「はい」

 突然視線を向けられ瀬希は頷いた。

「貴方のご側室も最上級の精霊使いだとか。その能力を我が国のために貸して頂き、大変感謝致します」

「いえ。当然のことをしたまでです」

 最終的には四神を召還し聖火を消すことも考えている瀬希は、感謝され却って困った。

 聖火が消えれば例え精霊を落ち着かせられても、ルノールは二度目の大混引に陥る。

 わかっていて、それを実行する覚悟の瀬希は、なるべく王妃と眼を合わせるまいと、さりげ
なく逸らした。

「それで最上級の精霊使いになら、現状はなんとかできますか、レスター」

「やってみなければわかりません。ですが心配はいりませんよ、母上。できなかった場合の対処法もきちんと準備しておりますので」

「対処法? なんですか?」

「いえ。それはそのときに。とにかくわたしは国中を回って現状がどんな様子が調べてみます。その上でこれからどうするべきか考えで動きます。ですから父上へのお見難いはできませんがご容赦下さい」

「構いません。国を早急に建て直すことが急務ですから」

 最終的には聖火を消す。

 それはレスターの中にもある考えである。

 そのくらい国が荒れていたから。

 だが、そんな考えは母には言えない。

 母に言えないことを抱えてレスターは踵を返した。

 そのあとを瀬希と綾都がついていく。

 自分たちがいることでなにができればと。



 瀬希皇子が許可したことで、朝斗は最上級の精霊使いとして、ルノールのために身を粉にして働いていた。


 尤も。

 その動機は綾部がルノールを助けたいと思っているからなのだが。

 昔からそうだが朝斗を動かすのは、綾都の決断なのだ。

 だから、もしここで綾都がルノールなんで滅んでもいい、なんて言っていたら、おそらく朝斗は積極的に助けようなんてしなかっただろう。

 勿論本音としては助けたいとは思うだろうが、綾都がそれを望まないという現実の前に朝斗はきっと行動は起こさない。

 でも、それを願わないのが綾都だと朝斗は知っている。

 ルパートたちに言わせれば、それが綾都の悲劇なのだということだが。

 なにか綾都のお人好しな気性のせいで、昔に悲劇でも起きたのかもしれない。

 ルパートたちは朝斗とは違って、ほぼすべてのことを思い出しているようなので。

 瀬希と綾都は毎日ふたり一緒に行動していて、主にレスターの補佐をしていた。

 ふたりにできることなんて現状ではないに無しい。

 できることといえば多忙を極めるレスターの補佐ぐらい。

 だから、ふたりは進んでレスターの国の視察について回った。

 その結果、色々なことかわかった。

 現状を引き起こしているのが精霊たちの暴走にあること。それを静めることは四精霊なら可能だが、レスターがそれをやっても一時凌ぎにしかならないこと。

 レスターが四精霊を操れば、精霊たちは一度は静まる。

 だが、時間をおいてまた暴れ出してしまうのだ。
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